第37話 1月28日(最近、休みの度に出掛けてる気がする……)

 昼休みに入り茉莉まつりが珍しく購買へと走っていったしばらく後、


「……」


 財布から秋にもらった栗原堂秋の実家の商品券を取り出し、しばし睨み合う。

 そして、首を傾げながら裏表とひっくり返して見てみたが……すっかり困ってしまった。


(……場所がわからない)


 一度、秋に訊こうかとも思ったけれど。


(そんなことしたら、なし崩し的に家にお呼ばれしそう……)


 というか、家が店をしているとはいえ、これは実質的なお呼ばれなんじゃ?

 思わず頭を抱えてしまう。


(全然、距離置けてないなぁ……)


 軽い自己嫌悪に陥りながら、ひとまず茉莉へ相談しようと決めた。

 しかし、


「あれ? 栗原堂の商品券だ」


 指先で商品券を弄んでいると、楠の口から栗原堂という名前が飛び出す。


「知ってるの?」

「ああ、家の近所なんだよ」

「へー……」


 この時、私は――、


 『テレビをつけたいなと思ったら、ちょうど手元にリモコンが転がっていた。』


 ――それくらい軽い気持ちで口を開いていた。 

 けれど、


「よかったら連れて行ってくれる?」

「え?」

「……お店の場所、わからなくて」


 心なしか、楠の頬が赤くなったように見えた直後――、


「場所がわからないなら調べたらいいでしょ……」


 ――購買から戻ってきた茉莉の声を聞いた途端、なんだかこの後怒られるような気がした。


「……ま、茉莉?」

「げ、九条……」


 茉莉は『栗原堂』と検索したスマホの画面を私達に向かって突き出す。

 その後、彼女は自分でも画面を確認するなり、


「うっ、あたしの家と反対方向だ」


 悔しそうな声を出した。

 すると、何故か楠の顔色が明るくなる。


「よしっ」

「よしぃ?」


 間髪入れず、茉莉の口がひん曲がった。


「あんたは部活あるでしょ! ちなに終わるまで待ってろっていうの?」

「違っ――そ、そうじゃねぇけど。だったら、九条はどうなんだ。場所がわかったらあとは一人で行けって言うのか?」

「そっ――そんなこと言ってないでしょ! 行くわよ! ……休みの日にっ」

「なっ!? 俺だって部活が休みの日に誘えば行けるよ!」


 ……困った。

 二人とも行く気にはなってくれてるみたいだけど……何故かお互いに、相手が行こうとするとそれを止めようとしている。


「……だったら――」


 このままでは埒が明かないと、二人の間に割って入った。


「――三人で行けばいいんじゃない?」


 一瞬、しんっと空気が静まり返る。


「まあ……ちながそう言うなら」

「俺も、それで別に……」


 こうして、今週の土曜日に三人で出掛けることが決まった。

 



 

 

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