第九話 楓ちゃん、話す
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第一話 美久さん、出現、引っ越しの日曜日の前の週の月曜の午後
第二話 美久さん、叱る、引っ越しの日曜日の前の週の月曜の夜
第三話 楓ちゃん、なじる、引っ越しの日曜日の前の週の火曜の早朝
第四話 美久さん、泣く、引っ越しの日曜日の前の週の火曜の午後
第五話 美久さん、蹴る、引っ越しの日曜日の前の週の火曜の夜
第六話 美久さん、焦る、引っ越し数週間後のある土曜日の午後
第七話 美久さん、起きる、引っ越し数週間後のある日曜日
第八話 武くん、呟く、引っ越しの日曜日の前の週の火曜の夜
第九話 楓ちゃん、話す、引っ越しの一年前
第十話 楓ちゃん、問う、引っ越しの日曜日の前日の土曜日
第十一話 美久さん、告る、引っ越しの日曜日
第十二話 楓ちゃん、認める、そして順子、引っ越しの日曜日
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自己紹介しよう。ぼくの名前は兵藤武。首都圏の大学の理学部の一年生。ぼくの家族は、父とぼくだけだった。10年前に母と死別して、それ以来父と二人三脚で生活してきた。でも、父が急に再婚したいといった。ぼくはうれしかった。母が亡くなって以来、父は寂しそうだった。
新しい母は父と同い年。彼女も夫と死別した境遇で、父はその境遇にシンパシーを感じたようだ。義理の母には、連れ子がいた。高校二生女の子。ぼくにとって義理の妹。
彼女たち二人が、我が家に移り住んできました。我が家は一軒家。寝室は五部屋。1階に二部屋。二階に三部屋。父と義理の母は一階を使う。ぼくは前からの自分の二階の部屋を使う。義理の妹は空いていた二階の部屋に移ってきた。それもぼくの部屋の隣。洗濯物を干すベランダがつながっている。他の部屋に行けばいいのに。ちょっと気になる。兄、妹とは言え、血のつながっていないティーンの男女に同じ階の部屋をあてがうのはいいんだろうか。それともぼくの気にしすぎなんだろうか。
最初の夜、家族で自己紹介をした。
父と義理の母はお互い知っている同士。父は技術者だ。大きな声では言えないけど、国家機密を扱う。義理の母は、国際線のCA。ふたりとも家を留守にすることが多い。まずいじゃないか?
ぼくは、陰キャみたいなもの。それほど友人もいない。ゲームとかにもあまり興味はない。二次元の女の子の出てくるマンガばかり読んでいる。ちょっと合気道なんてやっているけど。我ながらあまりおもしろいやつじゃあない。そういうことをボソボソと説明した。
義理の妹の名前は楓。カエデ。自分の紹介でハキハキと自分のことを説明する。中学高校一貫教育の女子校に通っている高校二年生。趣味は、ゲームとカラオケ。友達と遊ぶこと。部活は陸上部。のりの良い軽い女の子です、っていってる。ぼくより二才年下だ。
それで、自己紹介はおしまい。
あまり義理の妹と共通点はなさそうだ。彼女は陽キャっぽい。
ぼくは一人暮らしを考えている。父に義理の母という相手ができたのだから、ぼくは邪魔だろう。義理の妹と接点がなさそうでも、その間、適当に付き合っていればいいじゃないかと思った。
自己紹介はお開き。食事をして、それぞれお風呂を使って、父と義理の母は一階の彼らの部屋に。
ぼくと義理の妹は二階のぼくらの部屋に。
ぼくは、借りてきたマンガを読んで、ベッドに横になっていた。
十一時半くらいだったかな。ドアを静かにノックする音が。
(父かな?)
と思って、どおぞ、といった。
そうすると、義理の妹のカエデが入ってきた。真夜中に。カエデは、ショートヘアでぼくよりも数センチ背が低いくらい。ぼくが176センチ、彼女は170センチくらいある。彼女の背は高いほうだな。彼女はかなり可愛い。クラスで上の方から1、2番くらいの位置。小顔で、それに手脚が長い。
ぼくは起き上がって、ベッドに腰をおろした。
カエデは、ベッドの前に正座。服装がよろしくない。グリーンのタンクトップにノーブラ。ボトムはトップに合わせた同色のショートパンツ。東京ガールズコレクションで極ミニデニムパンツと言っていたやつ。昼間はアメリカンカジュアルで、夜は、思いっきりギャル系ファッションなんだ。
「武さん、今日からよろしくお願いいたします」とカエデは手をついてお辞儀をして言う。タンクトップの間から彼女の乳首が見えた。ヤバい。ぼくにとって刺激が強過ぎ。大丈夫かな、この子と一緒に暮らすの。早く家を出ないと。
「こちらこそ、よろしく」とぼくは言った。
「武さん、わたしは、武さんをどう呼んだらいいの?兄?お兄様?お兄(おにい)?武さん?」
「それはカエデさんが好きなように、どうぞ」
「・・・じゃあ、最初から馴れ馴れしいけど、お兄でいい?私のこともカエデと呼んでください」
「いいよ」とぼくは答えた。一人っ子なので、普通、妹がどう兄を呼ぶのか、知らない。
「お兄、わたし、自己紹介でいろいろ言っちゃいましたが、一つ悩んでいることがあります」と言って下を向いた。
「あの、その悩みって?」
「・・・私、性同一性障害かもしれないんです。お兄はそういう妹をもって、どう思いますか?」
「・・・と、突然でわけがわからないのだけど、カエデちゃんは自分が男の子だと思っているの?」
「そうです。男の子を好きになったことがありません。女の子だけに恋愛感情を持っています」
「女子校だから経験不足とかさ。いろいろ理由があるでしょう?それに物理的にか精神的にか、そういうのって、病院で判定するものじゃないの?調べてもらいました?」
「いいえ、ネットのジェンダー判定とか自分でいろいろ調べただけ、それだけです」
「う~ん、それじゃあわからないじゃないか?それに、第一、まず、父とお母さんに相談すれば?」
「いいえ、ママとパパには相談できません。まず、お兄にお聞きしたいんです」
「それは、なぜ?」
「お兄は、義理とはいえ、兄と妹。私にとって男性じゃないと思います」
「いや、あのね、ぼくは充分男性ですけど・・・」
「私にとって、今や、もっとも身近な男性です」
「・・・兄と妹だよ、血はつながっていなくても・・・」
「そうですよね・・・お兄がよかったら、男の子に私が感情を持てるのか、試させてくれませんか?」
「・・・そ、それはどういうこと?」
「私がほんとうに性同一性障害なのかどうか、お兄といろんなことを試してみたいんです。私、処女です」
「・・・ぼ、ぼくも童貞だけど・・・」
「じゃあ、私がお兄を受け入れられるか、試したいんです」
「・・・それはマズイでしょう?」
「何もセックスして欲しいということじゃなりません」
「え?じゃあ、何をするの?」
「私にキスしてください。お願いします」
「・・・だから?え~・・・」
「その子とのキスとどう違うのか、お兄という男性とキスして嫌悪感を抱くのか、知りたいんです」
「カエデちゃん、それは・・・」
「お兄なんだから、普通の男の子、男性じゃないでしょう?だから、大丈夫です。試させてください」
ぼくは、これは何かの罰ゲームなのかと思った。頭がクラクラしてきた。錯乱するぼくの横を猫のようにスルッとすり抜けて、カエデがぼくの横に座ってしまった。
「カ、カエデちゃん、何してるの!」と思わず大きな声を出してしまった。
「お兄、声が大きい!」と小声で言って、カエデがぼくの唇に人差し指をあててきた。「ママとパパに聞こえるよ」と言う。
「カエデちゃん、だめだろ、これ」と小声で言う。カエデがぼくの方を向いているので顔が近い。
近すぎる。彼女の顔がぼくの数センチ正面にある。彼女の髪の毛からは父とぼくが使わないようなシャンプーの良い香り。フローラル系。彼女の唇はぼくの正面。彼女のミント系の甘い吐息。ダ、ダメじゃないか、これって。
彼女はぼくの首の下に両手をまわた。
「カエデちゃん、だめだろ、これ」
「そんな女の子みたいなこと言って。お兄、本当にダメだったら私を押しのけたりするのに、そういうことしないんですね?」
「それは・・・乱暴なことは嫌いだから・・・」
「そうかなあ・・・ねえ、じゃあ、まず、お話しよう」
「お話?この体勢で?」
「そうです。私は処女と言いましたが、男の子に対して処女です。女の子とは処女じゃありません」
「え~っと、それって、女の子とセックスの経験がある、ということ?」
「そう。男の子に興味がないんだから当たり前でしょう?」
「それは誰と?」
「同じ陸上部の女の子。同期の子」
「その子とどうしたの?」
「あ!お兄、興味津々?」
「そんなわけないじゃないか?・・・いや、まあ、その・・・」
「正直に答えてお兄エライ。その子とはキスしてハグして・・・」
「まあ、年頃の女の子ならそんなに不自然じゃないじゃないの?お遊びでやる子もいるらしいよ」
「ええ?そうなの?」
「高校の頃つきあっていた彼女もそういう経験があるって言っていた」
「お兄!女の子とつきあったことがあるの?」
「こんなぼくだって、それくらいはある。今も彼女はいる」
「そうは見えなかったな。カン違いしていた。でも、童貞なんでしょ?」
「うん、そこまでの経験はない」
カエデが急に右手をぼくの頬にあてた。「お兄、キスの練習させて」「ちょ、ちょっと・・・」カエデが強引に唇を尖らせて真正面からぼくの口に押し付けてきた。鼻が当たる。前歯がガチンとあたった。痛い。カエデは押し付けた口で吸い込むようにしている。カエデは息を止めている。そんなんじゃあ呼吸できないだろ?ハッキリ言って下手だ。
「カエデちゃん、ちょっとやり方が違うと思う」とぼくは唇を離して彼女に言った。「え?違った?ダメ?」「間違いとかダメというのはないよ」ぼくは右手をカエデの首筋に回す。彼女の顎に左手の親指と人差指をそえて、顎をちょっと上げさせた。右手で彼女の肩を抱いて、胸と胸がふれるように抱きしめた。「お兄、覚悟を決めたの?」とカエデが言うので、「このシチュでぼくにブレーキは踏めないよ」と答えた。もうこういうシチュでは止まらない。
「角度が悪い、カエデちゃんは。首筋をまっすぐにして。反り返ってもうつむいてもダメ。そうそう。肩の力を抜いて。目をつぶって。顎を少し上げて。まず、闘牛士のように相手の唇に突進しちゃダメだ。雰囲気をつくる」ぼくはカエデに頬ずりした。顔を回してカエデの鼻にぼくの鼻をスリスリさせる。カエデがハァハァする。「息を止めないんだよ、カエデちゃん。お鼻で呼吸する。口を半開きにして。そうそう。舌を宙に泳がせる」
「お兄、こう?」「舌を動かさないでいいよ。唇の全部のフチを相手の唇と合わす。密着させる。やってみるよ」ぼくはカエデの唇をぼくので押し包んだ。「どう?こうすると前歯はあたらないだろう?」「うん、大丈夫だね」「そうしたらぼくの舌の動きに合わせて舌を絡み合わせて」とぼくは彼女の口の中に舌を差し入れて、彼女の舌と絡み合わせた。
・・・イカン!!!
「カ、カエデ、こ、ここまで!ここまでだ!イカン!り、理性が吹き飛ぶところだった!」
「お兄、キス、うまい!本当に童貞なの?」
「正真正銘の童貞です!一線は超えていません!」
「すごい!お兄とのキス、イヤじゃない!」
「・・・あのね、カエデちゃん、ぼくはキミが性同一性障害なんかじゃなくて、単なる経験不足と思うな。ぼくの友達を紹介するから、付き合ってみればいいじゃないか?」
「いえ、お兄、私は今まで男性には嫌悪感しかありませんでした」
「だから、嫌悪感を持たない男性をみつければいいじゃないか?」
「それは、今のパパとお兄です!」
「・・・なんで、ぼくかな・・・カエデちゃん、世界は広んだから、もっと試してみないと・・・」
「だから、まず、お兄で試させて!」
「・・・たとえ、義理でも兄と妹。おまけに血はつながっていないんだから、問題だ。ぼくを実験台にしないで欲しい」
「・・・ダ、ダメ?」
「もっと、よくお話しよう。昼間にお話しよう。もう夜も遅いし、お父さんとお母さんにバレちゃマズイよ」
「わかりました。今晩は退散します。でも、もっとお話してください・・・」
「うん、寝よう。また、明日」
「ハイ、お休みなさい」
・・・やばかった。初日に義理の妹にキスの講習をしてしまった。理性が持ちこたえなかったら、やってしまったかもしれない。マズイ!
早く、家を出て一人暮らしをしようとぼくは思った。
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