第100話 貞操最大の危機⁉
管理人室のPCで帳簿のチェックを行っていると、コンコンと管理人室の扉がノックされる。
「どうぞ」
ドアの方へ声を掛けると、扉が開き、霜乃さんが顔を覗かせた。
「霜乃さん、どうされました?」
霜乃さんは、一度辺りをキョロキョロと見渡してから、まるで忍者のように管理人室へと忍び入り、ドアをすっと
ふぅっとほっとしたように息を吐く霜乃さん。
手にはビニール袋を
「ちょっとね、芳樹さんに新作の衣装を見てもらおうと思って」
「そうなんですね。今回はどんな衣装なんですか?」
霜乃さんが衣装を完成させる度、まず芳樹へ披露することが慣例になっていたため、何も疑うことなく楽しみに問いかける芳樹。
けれど、今日の霜乃さんはいつもと違う。
何を血迷ったのか、足元へ袋を置いたかと思えば、いきなり身に付けていたズボンに手を掛けて脱ぎ始めたのだ
芳樹は
「なっ、何してるんですか霜乃さん!」
「何って……新しい衣装に着替えているのよ」
「なんでわざわざ管理人室で着替える必要があるんですか⁉ しかもよりによって俺がいる前で」
「別に、私は気にしないわ」
「俺が気にするんですよ! 外で待ってますから、その間に着替えてください」
そう言って、芳樹は椅子から立ち上がり、視線を下に逸らしたまま管理人室の出口へと向かおうとする。
しかし、足元に脱ぎ捨てられたズボンとむっちりとした白い太ももが芳樹の前に立ち
「あら、ダメに決まっているじゃない。芳樹さんを管理人室から出すわけにはいかないわ」
「どうしてですか? うっ……」
尋ねながらゆっくりと視線を上に向けると、白い脚の付け根あたりで紺のレースの下着が目に入る
それはそれは扇情的で、芳樹の胸をざわつかせるには十分すぎる破壊力。
さらに視線を上げれば、不敵に笑う霜乃さんが芳樹を阻むため、手を大きく広げて胸を張っていた。
「それはだって、今日は芳樹さんに、私の生着替えを見てもらいたいからに決まっているじゃない」
「な、何でわざわざ俺に着替える姿を見せつける必要があるんですか⁉」
「だって、そっちの方が芳樹さんも興奮するでしょ?」
小悪魔めいた
そりゃ密閉された空間で異性の男女が二人きりという状況において、女性の方から服を脱ぎだしたら、興奮しない男なんていない。
けれど、芳樹と霜乃さんはあくまで管理人と住人という立場。
いくら好意を持たれているからと言って、誤解を招くような行動は
「俺をからかわないでください。今日の霜乃さん、明らかに朝から様子がおかしかったですし、どうしちゃったんですか?」
「どうも何も、私はただ、芳樹さんに私のことを女としてもっと情熱的に見て欲しいだけよ」
「今までこんなことなかったじゃないですか」
「あら、そうかしら? 私の下着姿を見たこともあれば、ホテルにだって誘ったこともあると思うけれど」
確かに、霜乃さんの部屋を訪れた際、丁度着替え中の霜乃さんの下着姿を見てしまったハプニングもあったし、クリスマスのデートではホテルに誘われたけれども……。
「あれは事故です。クリスマスの時も、場の雰囲気に呑まれただけで……。でも、今日の状況は突拍子過ぎて理解が追いつきません。それにこれじゃ、まるで俺が連れ込んだみたいで、もし誰かにバレたら……」
「そんなことないわ。だって私は、芳樹さんのことが好きなのだから、こうして色仕掛けくらい当然でしょ? それに今は、この寮には加志子ちゃんしかいない。だ・か・ら、芳樹さんは私のあられもない姿を、その目に焼き付けていればいいの」
当然のように好きと言われてしまい、たじろぐ芳樹。
その間にも、霜乃さんは上に着ているセーターに手を掛け、脱ぎ始めてしまう。
芳樹は、その場で立ち尽くすことしか出来ず、ただただ霜乃さんの魅力に取りつかれたように、彼女が一枚一枚服を脱いでいく姿に
ブラウスのボタンをぷちぷちと外していく間も目が離せず、結局霜乃さんが下着姿になるまで、ずっと脱いでいく姿を凝視してしまった。
思わずそのエロすぎる格好に、ゴクリと生唾を呑み込んでしまう芳樹。
「ふふっ……」
まるで誘うかのように霜乃さんは自身の胸を下から持ちあげて見せる。
ぷるるんと柔らかさがわかるそのたわわな胸元に、芳樹の視線は釘付けになってしまう。
「どうかしら芳樹さん、これが今日見せたかった衣装よ。新しく下着を新調したの、似合っているかしら?」
「はい……とても霜乃さんらしくて素敵だと思います。って、えっ……じゃあその袋は?」
てっきり新衣装はコスプレ衣装だと思っていたので、霜乃さんの足元に置かれたビニール袋へ視線がいってしまう。
「あぁごめんなさい。ここに入っているのは別の物なの」
そう言って、ビニール袋に手を突っ込み、何やらガサゴソと漁りだす霜乃さん。
そして、手に何か掴んだかと思うと、それをそのまま口元へと持っていき、ぷるんとした
「なっ……」
その物を見て、芳樹は言葉を失う。
無理もない。
今霜乃さんが口に咥えているのは、男女が夜の営みの際に使用するアレだったのだから。
「さっ、芳樹さん。私の身体を余すことなく召し上がって頂戴」
霜乃さんはとろりとした目で芳樹を見据え、完全に誘ってきていた。
準備万端。
もう後は、欲望に身を任せて彼女に触れるだけ。
彼女の無防備な艶やかな
「ふふっ……別に我慢しなくていいのよ。ほら、ここもこんなにしちゃって」
霜乃さんは、芳樹の下腹部へと手を伸ばす。
芳樹の息子は、既に臨場態勢。
いつでもOKな状態へ変貌を遂げていた。
ついにか……ついに一線を越えてしまうのか⁉
「さっ、芳樹さん……早く……」
とろけ切った目を向けてきて、もう我慢できないと言ったように切望した表情を浮かべる霜乃さん。
その表情を見た瞬間、芳樹の頭の中で理性の糸がぷつんと切れた。
芳樹は霜乃さんの肩をがしっと掴み、欲望のままに霜乃さんを
コンコン。
そこで、タイミングよく管理人室のドアがノックされた。
二人の肩がピクっと震える。
無情にも、ノックの直後、許可なく管理人室の扉が開かれてしまう。
「よっぴー。ちょっと手伝って欲しいんす……けど……」
部屋に入ってきたかっしーは、唖然とした様子で言葉を失う。
それもそのはず。
管理人室の中で、下着姿の霜乃さんに、芳樹が今にも襲い掛かろうとしていたのだから。
「なっ……なななななな何してんすか⁉」
「あら加志子ちゃん。もしかして、加志子ちゃんも
「く、加わるって何すか⁉ ってか、霜乃さん! はしたない格好でなんちゅーものを咥えてるんすか⁉」
かっしーは頬を真っ赤に染めつつ、霜乃さんが口に咥えていたブツをかっさらう。
「あら……」
没収されてしまい、残念そうに肩を落とす霜乃さん。
「二人で一体何をしようとしていたんすかほんとに!」
「それはもちろん、ナニをしようとして――」
「あぁもうそれ以上は言わなくていいっす! 霜乃さんはいいから服を着てください! それからよっぴー! 霜乃さんの誘惑に簡単に飲み込まれないこと! いいっすね⁉」
「お、おう……」
良かった。かっしーがベストタイミングで来てくれなかったら、今頃芳樹は後戻りできない過ちを犯していたことだろう。
こうして女子寮史上最大の貞操の危機を乗り越えた芳樹。
その代償として、かっしーはそれからSPのようにぴったりと芳樹をマークして、霜乃さんに指一本触れさせぬよう、鋭い眼光を飛ばして牽制していたのであった。
そこまで過保護にしてもらわなくても……芳樹はそう感じたものの、気づいていないだけなのである。
これもまた、かっしーが好きな人の貞操を守るためであることに。
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