序章

(1)


 夕暮れの陽光が、黒雲の切れ目から赤黒い光となって地上に降り注ぎ、自分の腕を照らした。

 肌はすり切れてて打撲している。これ以上の攻撃を受ければ骨にひびが入るかもしれない。

 座り込んだまま顔を上げる。敵意と憎しみに満ちた無数の眼光、敵は何人いるのだろうか。15,6以上はいる。仲間、と思っていたやつらは自分を裏切った。もはや恥も外聞もない。この場から一刻も早くに逃げないと、殺される。しかし逃げようにも、敵の数が多すぎる。助けを求めようにも通りがかる人間がいない。絶望そのものだった。

「……けんな」

 自棄を起こして、怒りと悲痛の声を絞り出した。

「……ふざけんな……俺が……」

 なにを言ったところで目の前の男は自分を見逃したりはしないだろう。

「俺がなにしたってんだよ⁉」

 だが、言った。最後の抵抗だった。数を頼むお前らは卑怯者だともいいたかったが、怖くてそこまでは口にできなかった。

 必死の叫びに返ってきた返答は、痛烈な蹴りだった。

「う……」

 両手で顔を覆い、嵐が去るのを祈るように体を丸めた。みじめさで死にたいくらいだった。

 男の影がさらに近づくのが地面から見えた。

「……お前が、俺の大切な人を傷つけたからだ……」

 男はそう語った。

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