第38話 新たなる幕開け

 アカデミーにある大講堂に10人の姿があった。魔法アカデミーの周辺三国から、入学試験の合格者たちがそれぞれ集結していた。一つ目はエンリカ国から3人。二つ目はセアキア国から3人。三つ目はゼゼ国から1人で合計7人。残りの3人はアカデミーにある地下闘技場で行われた入学試験の合格者であるマーディアス・グロー、ラキリ・グリム、レカ・アーズの顔ぶれが揃っていた。



「これにて、私の挨拶は終わりにしよう。とにかく、10人とも、これからが始まりだ、ゴールではない。精進し、仲間と共に、困難を乗り越えて行ってくれたまえ。そして、諸君はアカデミーの一員となったのだ。改めて、ようこそ、魔法アカデミーへ。これで私の話は今度こそ終わろう」

 学長ルジーナの話が終わると拍手が起こる。マーディも拍手を送り、次に出てきたカーリスに少々驚いた。



「よう新入生、先輩である戦術員からの言葉を贈るぞ。仲間を信じ、共に助けろ。どんな難しい戦局も、仲間の命を最優先だ。それが、最強たるアカデミーのポリシーだ。覚えとけ」

 カーリス・メティは勢いよく言うと、講演台を颯爽と離れて行く。カーリスらしい新入生に向けての内容だとマーディは思った。



 そして、最後に全身鎧の生徒会長が講演台にやってくる。その銀の兜で周りを見渡すと、その籠った音を講堂内に響き渡らせた。

「まず初めに。新入生のみなさん、入学おめでとう。このアカデミーに来た理由は、それぞれ色々あるだろう。自分の魔法を極めるため。名誉や、はたまた金のためか。或いは、自分以外の者のためか。家のためか。そして、流されてここにやってきたか。皆、色々思う事はあるだろう。それでも、ここでは色々得ることができる。知識はもちろんの事、人脈は大いに広がる。だが、一番大事な事は、隣にいる仲間だ。先ほどの戦術員も、言葉は荒っぽいが、アカデミーのポリシーはちゃんと伝えてくれた。仲間を見捨てない。これが、アカデミーをより、強固なものにしていくだろう。絆とは言わん。ただ、信じるという難しさを、追及してほしい。これで、私の話は終わりだ」

 生徒会長に起こる拍手にマーディはもちろん続くが、その行為に一層を熱がこもった気がした。



 荷物を客室から学生寮に引っ越しを前日に終えていたマーディが、入学式を終えてその引っ越し先の一室に帰ってくる。そして、お腹の調子を感じ取ると食堂のある建物へと向かった。



 食堂にてマーディはトレイに注文した品を置き席に着くと、同じく隣と対面に同時にトレイを置いて着席する二人がいた。

「ラキリ、レカ。2人も食事か」

「ええ、ご一緒しても?」

「もちろんいいだろう。俺たちはもう敵同士ではない」

 レカの丁寧さとラキリの空気を読まない言葉に、マーディは笑顔で答える。



「もちろん、一緒に食べようか」

 そして、3人は同じテーブルで過ごした。



「ちょっと聞いてもいいか」

 マーディが話を切り出し、レカとラキリの二人は頷く。2人の許可が下りたのでマーディは質問を始める。



「2人はどの国から来たんだ?」

「私はエンリカ国から来ました。私たちも含めた10人の新入生は主に三国から集めたようですが、その中では一番栄えています。これは嫌味ではありませんよ、ラキリ」

 レカの言葉に、ラキリは手に持っていたスプーンを上に向けて気にしていないとアピールを見せ、レカはそれを見届けると話を続ける。



「他のエンリカから来た新入生は存じませんけどね。ラキリは知り合いはいましたか?」

「いや、見ていないな。ちなみに俺はゼゼ国から来た。俺の国からは自分を含めて2人しか合格者がいなかったようだな」

「例年はもっと多いのか?」

「いや、どうだかな。アカデミー自体入学を1年に1度行っているわけでもないしな。必要になった年に急に応募が国中に回る。アカデミーに入るには運がかなり絡む」

 ラキリは入学するのに骨が折れたと付け加えると、スープを口に運ぶ。



「確かに運は必要です。ただ、私の兄が何年も前にアカデミーに入学していますが、アカデミーから直々に誘われて入学していますよ。やはり、実力がなければね」

「それはそうだ。それに運も絡むという事を言いたかっただけだ。実力があっても必ずしもスカウトに来るわけではないだろう」

「それはそうですけど。素行が悪い方は基本、アカデミー自ら指名されることはない気がします。やはり、人を見ている。実力ももちろんみているでしょうけど」

「結局、何にしても実力ありきということだな。だからこそ、みんなアカデミーに入るのを目指す」

「なぜ二人とも、アカデミーに入ったんだ?」

 マーディの質問に、ラキリとレカは顔を見合わせるとそれぞれ答えた。



「アカデミーの方々は優秀だからです」

「アカデミーの奴らが最強だからだ」

 二人とも似たような答えに、マーディは納得した。



「なるほどな。2人とも、素直なんだな。明確に答えがある。これから仲良くなれそうだ」

「そうだといいですね。よろしく、2人とも」

「だといいがな。こちらこそだ」

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