十八

まず最初の深夜にたえさんが殺害されている。警察からの発表はまだ無いが、これは夜鷹とも話した通りほぼ間違いないと思われるから、今更その真偽を確認することはやめた。

「殺された時間とかもやっぱり調べた方がいいのかな……でも深夜のことだろうしなぁ、誰も情報なんて持ってなさそう」

逆に、そんな時間に情報を持っている人がいてもそれはそれで怪しいのだけど、とも思った。

とりあえず、下のようにメモに書き記しておいた。


*たえさんは恐らく、おせちの下ごしらえ中に何者かによって襲われた可能性が高い


*その時間が分かれば、その時間にアリバイのない人が怪しいとも言えるが深夜のこと(恐らく)であるため期待薄か?


*たえさんが殺害される前後の本人の様子および家人のアリバイを調べあげること。これは聞き込みによる調査が望ましいが、私は既に部外者であるため気をつけて行うこと


「うん、いいね。自分の中でどんどん整理しよう」

案外このやり方はいいように思えたし、混乱すると思考停止しやすい私にはかなり良策だった。

「まあどの事件ももう既に聞き込みくらいしかやることはないんだけどね……警察も来たからほとんど証拠なんて残ってなかったし」

ペンを右手でくるくると回して、次に書くことを頭に浮かべる。今度はたえさんの事件で湧いた疑問を書いた。


*おもちは焼かれてたのか


「ぷっ、ははは」

自分でも実に下らないことを書いてしまったと思う。おもちが焼かれていたかどうかなど関係ない、いずれにせよ口に入れば息が出来なくなって死んでしまうのだから。

「ふざけてる場合じゃなかった。次は美香さんのだね」

続いて美香さんの事件についての個人的な疑問、やるべき事を連ねていく。


*美香さんは何故家の裏にいたのか。台所へ向かったはずの美香さんがあの場所で殺されていた理由


これは美香さんの事件最初にして最大の疑問であると思った。美香さんは、台所に私たちの食事をとりに行ったはずなのである。それが帰って来なくて、家の裏で死体で見つかった。恐らく、この謎が解ければ美香さんの事件は自ずと解決への糸口が掴めると私の幼い探偵の勘でもなんとなくわかる。


*そもそも美香さんは台所へ行ったのか


この疑問も実は重要であると思う。というのも、美香さんが台所へ向かったとされる数分後に太一さんが私たちがいた部屋に来て、美香さんを探していると言っていた。彼と美香さんが最終的に会っていたのか、会ったなら何か話していたのか。これも書いておくことにする。


*美香さんは殺害される直前に誰かと会っていたか?それは太一さんか?別人か?


犯人であるとは限らないけど、何かの鍵を握る人物になることは間違いないだろう。この人を見つけることこそが……まあいないかもしれないけど、解決への最短でかつ賢いルートかと思われた。


*たえさんの事件と同様、聞き込み必須


これは間違いないことだ。私と夜鷹では持っている情報が少なすぎる。一に聞き込み、二に聞き込みである。


「最後は……ゆいの、事件だね」

ペンを持つ手が少し震える。それは当然、犯人を憎く思う気持ちからというのもある。でもそれ以上には彼女の気持ちを知り、信じ悼んであげたいと気持ちが強く、自身を奮い立たせたかったからだ。

「待っててね、ゆい」


*犯行時刻の特定とゆいの死因


これはまず最初に特定しなければならないことなのだろうけど、夜鷹が帰ってきてから聞いた方が早そうだった。彼なら腕時計もしていただろうし、何より夜鷹が襲われた時間イコールゆいが殺された時間と考えてもいいだろうから。


*ゆいの右手が燃やされていた理由


これは、恐らく犯人が不都合に思ったからそうしたのであろう。なにか自分を特定してしまう痕跡を残したとか、防御創ってやつが残ってしまったからだと判断するのが妥当だと思った。これも調べれば犯人に一歩近づく気がした。


*夜鷹が殺されずに、ロープで巻かれて押し入れに入れられていた理由


これもかなり不思議、というか不審なことであった。果たして夜鷹を殺さず生かしておいた理由はなんだったのか?押し入れにまで入れる必要はあったのか?このこともかなり引っかかっていた。いや、決して殺されて欲しかったわけではないし生きていてくれて嬉しかった訳だけど。そうではなくてただ、犯人の考えが分からなかった。


「やっぱりわかんないなぁ」


何度考えても思いつかなかった。仕方ない、だって私は殺人鬼なんかではないし。その気持ちがすぐにわかったら逆に怖いか、なんて思った。


「うん、こんなもんかな」

メモをぱらぱらとめくり、書き連ねたことを再確認してからペンと一緒にポケットにしまった。

「部外者が聞き込みするんだから、上手く立ち回らないとなあ」

いよいよ、聞き込みが始まる。ここで嘘をつくことにはもう抵抗はなかった。それはゆいのためであり、自分のためだから。

私は立ち上がり、まずはあの人を探しに行くことにした。

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