十六

「村の民家で倒れている二十歳代くらいの女性を発見。その横で不審な男と女を発見、至急応援要請」


「ち、違うの!夜鷹さんはむしろ犯人に捕まってて……」

「何が違うってんだ……やっぱり一連の犯行はそいつの仕業じゃねぇか。俺が騙されなければ美香も、ゆいちゃんも死ななかったってか!」

栄吉さんが顔を真っ赤にして、今にも夜鷹に飛びかかりそうだった。

「真琴ちゃん、そいつから離れた方がいい。最後に何をされるか分からないよ。しかしやはり、名前の通り嘘つきだったか」

光也さんは冷めた目で夜鷹を見下ろし、私の手を引っ張って玄関の方へと引き寄せた。

「いや、ちょっと待てよお前ら」

そう声をあげたのは、太一さんだった。

「真琴ちゃんは夜鷹さんが犯人に捕まってたって言ってたよな、それ本当なんじゃねえか?」

そう言って太一さんは家の中に入り、夜鷹の傍らに落ちていたロープを手に取って皆に見えるよう掲げた。

「ほら、これ。燃やして切ってあるから分かるけど、かなり複雑で固く縛ってある。これじゃ一人では結ぶことも解くことも出来ないぞ。これで捕まってたんだろ、夜鷹さん」

「え?ええ⋯⋯頭を殴られて、それから……」

「頭を殴られた?大丈夫かよ。おい、警官よ!応援呼ぶ前に救急車よべや!」

は、はあ、と困惑した様子で慌てて無線で救急車の派遣を要請してくれた。夜鷹の疑いもこれである程度晴れてくれると良いのだけど……とにかく、今は太一さんに感謝しないといけない。

「しかし……ゆい……俺より先に逝くんじゃねえよ馬鹿野郎……」

ゆいの遺体に傍に静かに腰を下ろし、太一さんは静かに涙を零した。そして、あの時のようにわしわしと頭を撫でてやっていた。


その後すぐに警察の応援と救急車が到着し、夜鷹はまず病院へ搬送される流れとなった。恐らくその後身体に異常がなければ事情聴取のために警察署に移送されるそうだ。そして身寄りのない彼のために、引受人として栄吉さんがもう一度たえさんの家に彼を連れ戻すことになった。それまで私は一人で犯人探しをすることにはなるが、しばらくして彼が帰ってくると思えば心強く感じられた。


しかしあれから家の中を何度もこっそり見て回ったりしてみたものの、たえさんの殺害に関しても美香さんの殺害に関しても、何の進展もなく証拠も見つかる気配がなかった。当然あの後警察が踏み込んでるから、証拠が残っている訳もないのだけれど。

今まで手に入れてる物的証拠や状況証拠だけではだめなのかな……しかし、聞き込みをするにしても警察でもなんでもない私が、ましてや人様の家でそんなことをしていいのだろうか、なんて思ってしまった。


ーー嘘を嘘で暴いてほしいーー


夜鷹さんの言っていた言葉が頭の中で何度も何度も繰り返し再生された。壊れたステレオのように、何度も。


ーー嘘は真実になり得るんだーー


私は自分も、そしてゆいも。本当の嘘つきになんかなりたくないし、したくない。

あのゆいを想う気持ちに、嘘偽りが無かったとするには、今ここで嘘をつくしかない。

私がゆいを信じると決めたのにも関わらず信じてやれなかったなら、その嘘をまた別の嘘で真実に変えてしまえばいい。

ごめんねゆい、あなたのことを嘘つき呼ばわりしていた癖に、本当は私が一番の嘘つきだった。

でもそんな嘘つきの私を、どうか信じて欲しい。


【私は不幸にも知っている。時には嘘によるほかは語られぬ真実もあることを】


夜鷹が病院へ連れられる際に私に耳打ちして残していった、昔の作家の言葉だ。


私は嘘を真実にするため、嘘をつく。

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