十三
「あ……ああ……あああぁぁあああ……」
尻もちをついて、声にならない声でひたすら叫んだ。ゆいが、ゆいが……嘘だ……嘘でいい、嘘であってくれ。そう何度も、何度も神に願う。しかし、いくら願おうとそれは残酷な真実に他ならなかった。私が望んだ、常に望んでいた真実がそこにはあった。
「お願い、目を開けて……ゆい……嘘って言ってよ……」
四つん這いで囲炉裏まで辿り着くと、ゆいの体に縋り付き、声が枯れそうになるくらい叫び、名前を呼んだ。しかし、動かなくなった嘘つきな彼女は、最後には真実を語る。私は死んでしまったんだよ、と。
体に力が入らなくなり、私はしばらくその場でただ呆然と倒れ込んでいた。すると、ガタリ、と押し入れから物音が聞こえた気がした。犯人、かな。もし犯人ならこのまま私も殺せばいい。
友人を最後まで信じてやれなかった私なんか、最悪の嘘つきである私なんか、死ねばいい。
「殺していいよ、私は親友も信じてやれなかった大嘘つきだからね。生きてる価値なんて、これっぽっちも、ない!」
押し入れに向かって、掠れた声で叫んだ。
反応はない。しかしまたガタリ、ガタリと押し入れが揺れた。
「ここまで来いってこと?いいよ、そこで死んでやる」
ふらつきながら立ち上がり、残った気力を振り絞って押し入れまで辿り着く。そして、思い切って扉を開けた。そしてその瞬間、目の前から何かが飛び出してきて、私はそれにのしかかられるかたちで後ろに盛大に吹き飛ばされた。
運良く頭は打たなかったけど、腰を盛大にぶつけてしまった。しばらくは立てそうにない。これで本当にもし飛び出てきたのが犯人だったら、間違いなく私はここで殺されるだろう。まあ、自ら望んだことだし全く構わないのだけれど。
しかし、飛び出てきたものは私を襲うどころか動きすらしなかった。いや、正確には動いているのだけど、もがいているようにも思えた。よく目を凝らして目の前のものを見る。そこには、見なれた人物がいた。それも、全身を縛られた挙句、口にガムテープを巻かれて。
「んーっ!んーっ!」
「よ、夜鷹さん!?」
私は急いで夜鷹の口に巻かれたガムテープをべり、と勢いよく剥がした。
「痛っ!はぁ、ああ。良かった、君は無事だったんだね」
「君は……って、夜鷹さん、ゆいが殺されたの知ってたの」
「本当に不甲斐ないよ、自分がこの上なく恥ずかしい。ゆいちゃんと一緒に居たにも関わらず、僕は彼女を助けられなかった」
「何があったの、犯人は見たの?」
「説明するからさ、縄を外してくれないかな、お願い」
夜鷹の縄を彼が持っていたジッポライターで焼き切り、動けるようにしてあげた。すると彼は頭を擦り、痛っ、とまた呻いた。
「もしかして、頭を殴られたの?」
「そうらしい。ゆいちゃんから目を離した一瞬の隙にやられたみたい」
「そっか……大丈夫なの?」
「うん、まぁ多分。それより君こそ大丈夫かい」
「全然、大丈夫じゃない。だって、ゆいが……!」
そこですべての感情が溢れ出て、わんわん泣いた。夜鷹の服を掴んで、なんで守れなかったんだ、と私たちへの呪いの言葉をひたすら吐いた。
「宗田さん、君は嘘つきなんかじゃないよ」
「違う、私はゆいなんかよりよっぽど酷い嘘つきだよ」
夜鷹は私の頭に手を置いて、いつも話をする時の声で言った。
「君はまだ、本当の嘘つきじゃない。ゆいちゃんの想いを裏切らない限りは、ね」
「想い……?」
「昨日言ってたろ、ゆいちゃん。僕と宗田さんで犯人を見つけて欲しいんだって」
でも、と弱音を吐こうとした。
「でももう私は嘘つきだ。ゆいのことを信じてやれないまま、ゆいは死んじゃったから」
ふむ、そうか、と夜鷹は呟いた。
「なら、その嘘は真実に変えてしまえばいいよ。それなら君は嘘つきじゃない」
「嘘を……真実に変える……?」
うん、と夜鷹は微笑んで頷いた。
「嘘から出た真、って諺あるでしょ」
「ダジャレですか、それ」
「はは、バレたか」
夜鷹の胸を小突いて、少しだけ笑った。
「私の名前で遊ばないでください」
「でもね、嘘は真実になることだってできる。逆は出来ないけどね」
「じゃあ結局私は、どうすればいいんですか」
胸ポケットから、彼はタバコを出した。
三本目、一口目。
「宗田さんには、これから嘘で嘘を暴いて欲しい」
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