第21話:ピクサーとディズニの契約変更とNeXTの失敗と退社

 これには、ジョブズのトイストーリーがヒットすれば、ピクサーをディズニーが、怖いライバルだと、感じて、パートナーとして買収するはず、そうすれば有利な条件で契約できると言う綿密な戦略があった。そして、トイストーリー公開の1週間前・1986年2月3日にピクサーの株式を公開した。


 ピクサー初の映画が興行収入記録を打ちたて株式公開により1億4千万ドル近い金額を調達。ジョブズの思惑通りディズニーから契約を見直しピクサーと提携関係を結びたいとの話があり半々という条件も了解させた。更にジョンラセターとキャットムルにディズニー・アニメーションとピクサーの両方の経営を任せると言った。


 その当時、低迷していたディズニーは、その後、キャットムルを中心に抜本的に制作体勢を見直し「塔の上のラプンツェル」「アナと雪の女王」の大成功で盛り返した。試写会を終えた後のジョブズが控えめに、自分は映画づくりに関しては素人だから、全く無視してもらっても構わないがと前置きして、するどい感想を述べた。


 更に続けてジョブズは、ピクサーのスタッフに「生まれ変わったらピクサーの映画監督になりたい」と漏らした。ジョブズとピクサーの関係は、あまり知られてないが、監督たちと、太い絆で結ばれていてジョブズにとってピクサーは特別な存在だったようだ。


 1986年アップルを追われたジョブズは、その失意の思いと、今後の自分の野心について、既に、仲良くなった、成宮賢に話した。それによると、1984年後半から1985年にかけ、ジョブズが、マッキントッシュの需要予測を大幅に誤り、アップルは過剰在庫に悩まされ、初めての赤字を計上した。


 アップルは、従業員20%にあたる人数の人員削減をせざるを得なくなった。アップルの共同経営者のスカリーはアップルの経営を混乱させているのは、ジョブズだと考え、マッキントッシュ部門からジョブズを解任する事を取締役会に要求する。それを察知したジョブズはスカリーの中国出張中にスカリーの追放を画策する。


 しかしアップル・フランスで功績を上げていたジャン・ルイ・ガセーの密告によりスカリーはジョブズが自分をアップルから追い出そうとしている事を知る。スカリーは、1985年5月の取締役会でジョブズに自分の追放を計画した事について問いただし、この結果、ジョブズは会長職以外、アップルでの全ての仕事を剥奪された。


 ただし、スカリー本人は、この話を否定している。アップルでの仕事がなくなったジョブズは、絶望し理想のコンピュータ像を求めて米国の大学を広く回り情報収集をした。そんな時、スタンフォード大学でノーベル賞受賞者の生物学者ポール・バーグと一緒に昼食を取った。


 その時に、DNA組み替え実験の難しさの話題が上がり、ジョブズは、バーグにコンピュータでのシミュレーションを提案し、同時に、高等教育のためのコンピュータという構想をぶち上げた。1985年9月、その構想を実現すべく、ジョブズは、新しい会社NeXTを立ち上げるために、アップル社に辞表をだした。


 そして決算報告を受け取るため1株だけを除いてアップルの持株、約650万株をすべて売った。その後、ジョブズは700万ドルをNeXTに投資し1987年までに、新しい製品が投入できると考えていたが、実際に、ネクストキューブ を発表できたのは1988年秋で、最終版の出荷は、1989年になった。


 ジョブズは、それでも「5年は先取りしている」と語ったが,結果的にはMacOSXの12年の先取りした。1987年にはゼネラルモーターズで成功していたロス・ペローから2千万ドルの出資を1989年には、キヤノンから1億ドルの出資を引き出した。発表当初からのNeXT評価は高かった。


 しかしジョブズの提案でフロッピードライブの代わりにキヤノン製の5インチ光磁気ドライブを採用した事や加工の難しいマグネシウム合金の筐体を使う事などによって生産コストが高くついた。またモトローラからのマイクロプロセッサ・MC68030の 供給が遅れるなどにより、思うように販売が伸びなかった。


 その頃、成宮賢の親しい友人のジョブズは、1990年、スタンフォード大学にて講演を行った際、聴衆の一人であったローレン・パウエルと出会い、公演の後、ジョブズにはミーティングがあったにもかかわらず、彼女と夕飯を食べに出かけ急に親しくなった。

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