第15話:ソニーで安くて小さいCDプレイヤ-開発

 1982年8月31日、ついにソニー、CBS・ソニー、オランダのフィリップス、ポリグラムの4社共同のCDシステム発表会が大手町・経団連会館で開かれ、今年、秋からの国内販売開始を明らかにした。当日の夕方から夜のテレビニュースと翌日の朝刊は、一斉に「オーディオの夢誘うデジタルのプレーヤー登場」「『デジタルオーディオ時代』幕開き」などと報道した。


 直径12cm、デジタル信号で録音されたCDは、ワンタッチで選曲、小型・軽量、録音盤の半永久的使用という、オーディオファンの夢の多くを一度に実現させ、折からのオーディオ不況を吹き飛ばすかの様な新風を業界に吹き込んだ。1982年10月1日、ソニーは先陣を切り第1号機「CDP-101」を発売した。


 エジソンのホノグラフ発明から百年余、レコード技術は、大体四半世紀25年ごとに、大きな技術革新を迎えてきた。円筒方式から円盤レコードへ、電気式レコードの登場、そしてLPレコードへ、モノホニックからステレオへ。そして百年目にデジタル・オーディオ技術が花開いた。


 この1号機をCDP-101と名付けたのは、CDの商品化を必死に推進したオーディオ事業部長の出井伸之。しかし、CD開発には、ソニーの総力をかけて、必死になって開発を進めていた。そんな訳で、出井はCDP-101の発売の日を入院先の病院のベッドの上で迎えた。CD商品化に対する激務から、肺炎で倒れてしまった。


 価格は16万8千円一般消費者向けの商品としては高額。しかし盛り込まれてる技術、開発期間を考えれば、商品化できた事は、まさに奇跡的。そして、追いかけるようにして発売された他社製品に比べても一番安かった。その後、ソニーの営業マンに混じって、エンジニアとして、成宮賢も世界中でCDの試聴会を企画した。


 しばらくして、世界各地でデモンストレーションに使われ、活躍してきたサンプル用ディスクが担当者の元に返ってきた。表面は傷だらけになっていた。しかし、プレーヤーにかけてみると音質は元のまま少しも劣化せず澄んでいた。CDP-101の発売と同時にCBS・ソニーから世界初のCDソフト50タイトルが発売された。


50タイトルの内訳はクラシックだけでなく、ポップスやロック、歌謡曲までそろえた。「オーディオマニアはもちろん、幅広いオーディオファンに売っていこう!」という思いの表れだった。更に第2、第3弾の発売が続き、年末までに百タイトル余りのソフトが発売された。


 ソニーがCDを発売した頃には、ほとんどの会社が、ソニー・フィリップス方式、通称CDシステムの採用を発表。CDシステムは「事実上の世界統一規格」となった。練り上げたCD規格の良さ、そして2年間世界中で積極的に行ったプロモーションの成果だった。こうしてCDは世に送り出された。


 ハードウエア開発では、成宮ソニーの各部門が、事業部の壁を越えて協力し、商品化にこぎ着けた。さらにソニーとCBS・ソニーの両社の社員が「何とかCDを新しい時代の商品にしよう」と連携しハードウエアとソフトウエアの両輪をつくり上げた。「CDほど、ソニーグループ総力を使った例はないと大賀社長は後に語った」


 1983年秋には、CDP-101の10分の1のメカデッキ・演奏機構部をつくる実力が培われるようになり、やがてCDを更に飛躍させるモデルが登場した。 それは、当初から大きな期待がかかっていたモデルだった。1983年に入ると他社からも次々にCDプレーヤーが発売された。


 CDソフトも年末には約千タイトルが店頭に並ぶようになりCDP-101も発売後、しばらくは、よく売れた。しかし、次第にその勢いも失われ、その後CD市場は停滞ともいえる状態が1年続いていた。これでCDプレーヤーをやってみてくれ」とゼネラルオーディオ事業部長の大曽根幸三は、13.4cm四方の正方形。


 厚さが約4cm、CDソフトのジャケット4枚分の厚さの木型を部下に示した。

「中にバッタを入れようがセミを入れようが構わない、とにかく音が出せ」。

 大曽根の示す目標のハードルは、耳を疑いたくなるほど厳しい。また、明確な目標設定に木型を使った。


「技術的にまとめていくと、どの大きさにできるか、じゃ駄目だ」

「この大きさこそ、皆が喜んで使う製品となるのだから」

大曽根の指揮の下、成宮賢も小型・薄型のCD プレーヤー実現に向け、工場に泊まり込んで、技術屋の総力を結集して開発を進めた。

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