第170話 決断

数時間後。


千歳は裸のまま俺の腕に抱かれ、気持ちよさそうに寝息を立てている。


『桜さん、マジで感謝してます』


体よりも心が満たされた気持ちのまま、頭の中で感謝の気持ちを伝え、千歳の髪を撫でると、千歳は眠そうな声を上げていた。


「悪い。 起こした」


「ん~。 今何時?」


「20時過ぎたところ」


「やば! 帰んなきゃ!!」


千歳は布団の中でモソモソと動き、制服を着始める。


「泊ってけばいいのに…」


「ダメだって! おばあちゃん、うっかり喋っちゃうんだから!! ヤバいヤバい!!」


千歳は制服を着た後、慌ただしく洗面所に向かってしまう。


『また走ってる…』


思わず笑いが込み上げた後、トレーニングウェアを着て洗面所に行くと、千歳は口をとがらせながら鏡を見ていた。


「どうした?」


「これ、ヤバくない?」


千歳がそう言いながらシャツのボタンを一つ多く開けると、胸元にはいくつものキスマークが顔をのぞかせる。


「あ… ごめん。 印付けちった」


「トレーナー着れば隠れる位置だけどさぁ… 夏場だったら殺されてるよ?」


不貞腐れたように口を尖らせる千歳が可愛すぎて、唇に唇を重ね、強く抱きしめた。


「なぁ、愛してるの上って何だと思う?」


「それこの前も聞いてたよね。 多分だけど、プロポーズとかになっちゃうのかな?」


「プロポーズか… 結婚しよっか」


「何言ってんの? まだ高校生だよ?」


「『指輪買いに行こ』の方がいっか…」


「だからまだ高校生じゃん。 ファイトマネー、稼げるようになったら言いなよ」


「そうじゃなくて、愛してるの上」


「わかりにくい」


千歳はそう言いながら唇を重ね、それ以上の言葉は言えないままでいた。



千歳をおじいさんの家まで送る途中、千歳に切り出した。


「俺、プロテスト受けるよ。 B級ライセンス取ったら、海外も行く」


「うん。 その方が良いよ。 ボクサーは選手生命が短いし、後悔してからじゃ遅いんだからさ。 悔いのないように突っ走れ」


千歳と拳を軽くぶつけ合った後、ロードワークついでに英雄さんの元へ。


英雄さんの家に行くと、リビングに案内されたんだけど、そこにはカズさんと光君の3人が酒を飲んでいる最中だった。


光君は俺の顔を見るなり切り出してくる。


「決心ついたか?」


「はい。 俺、プロテスト受けます。 B級ライセンス取れたら、海外行きます」


「そっか。 別の道もあったんじゃないのか?」


光君は、何かを隠すような口調で言ってきたんだけど、直感で『千歳のことだ』と分かり、少し笑いながら答えていた。


「どっちの道も、終着点にあるのは同じっすよ。 英雄さん、1月のプロテスト、受けていいっすか?」


「んあ? お、おう… 本当に受けんの?」


英雄さんは間抜けな声を出した後、再度確認するように切り出してくる。


「はい。 受けます。 もし受かったら、試合をガンガン入れてください」


「わかった。 言われなくても入れてやる。 で、別の道って何?」


英雄さんはキョトーンとしていたんだけど、俺とカズさん、光君の3人は笑いながらスルーし続けていた。

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