第27話 お願い

結局、千尋はいつまでも泣き続けてしまい、泣き止ますように付き合い始めたんだけど、過去とは正反対の千尋の姿に、寂しさが膨らんでいた。



千尋と付き合い始めて以降、千尋は毎日「会いたい」と要求し、それに答えるように駅で待ち合わせし、少しだけ会っていた。


そのため、縄跳びをする時間が少なくなってしまったんだけど、千尋のお願いを聞かない訳にはいかず、短時間だけでも会うように。



私立の女子高に通う千尋は、俺よりも入学式が早かったんだけど、『本当に学校行ってんのか?』と思うくらいの頻度で、ラインを送り、返事が遅れると着信が来る始末。


それでも、千尋と付き合えたことが嬉しくて、頑張って返信をしていた。




入学式当日。


バスに乗って学校に行っていたんだけど、バスに揺られている最中もラインは鳴りっぱなし。


千尋から≪入学式、人見知りだから緊張する≫というラインが来ていた。


【千尋も緊張したりするんだ。 今日、広瀬に行く日だから、終わったら連絡するな】


≪広瀬、行かないでほしいな。 女性会員が多いし、奏介、かっこいいから誘惑されそうで嫌なんだよね≫


【俺、本気で英雄さん目指してるから、今トレーニングしないとまずいんだよね】


≪そっか。 頑張ってね≫



『あれ? スルーした?』


父親の名前を出したのに、スルーされたことに小さな疑問が浮かんでいたけど、それを気にする余裕を与えないくらいに、千尋はラインを送ってくる。


『実は寂しがり屋?』


そんな風に思いながら、バスに揺られていた。



入学式を終え、すぐにボクシング部に入部届を出しに行くと、顧問の谷垣さんが切り出してきた。


「ちゃんとロードワーク行けよ?」


「え? でも車が危ないって…」


「何小学生みたいなこと言ってんだ? 高校生なんだから走りこめよ。 下半身は大事だぞ」


「そっか…」



『あの時とは違うんだ…』


谷垣さんの言葉に、妙な寂しさが膨らんでいくのを感じていた。


学校を終え、広瀬ジムに行ったんだけど、千尋は相変わらず4階のベンチに座り、俺のトレーニングが終わるのを待っていた。



弁当を買った後に帰宅し、すぐにシャワーを浴びたんだけど、千尋からラインが来たため、食べながら返事をすることに。



≪週末、映画行こう≫


【いいよ。 ボクシング映画やってたよね? あれ行こうぜ】


≪恋愛映画がいい。 この前上映開始した映画が、超泣けるんだって! それにしよう≫



相談する隙すら与えないまま、見る映画を決められてしまったんだけど、『千尋のお願いじゃ仕方ないな…』と諦めていた。



翌日からボクシング部としての活動が開始され、スマホを部室に置いてロードワークへ。


ロードワークから戻ってすぐに、ボクシング場へ行へ。


中学の先輩だった畠山君にお願いをして、パンチの仕方やステップの踏み方を教わっていたんだけど、部員の半数がやる気なし。


他人にどうこう言うよりも、自分のことで精いっぱいだったし、ジムでは教えてくれないことを、畠山君は丁寧に教えてくれるから、必死に教わり続けていた。

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