終章
1
皇紀八三七年色月二十九日(聖暦一六三―年九月二十九日) 十五時〇〇分
アキツ諸侯連合帝国新領拓洋特別州拓洋市
オルコワリャリョ初登頂と人類初の動画送信による全球への生中継という、教科書に載ってもちっともおかしくない大偉業を達成した私を、拓洋で待っていたのは。
拓洋特別州憲兵司令部からの召喚状だった。
罪状は『民族独立運動の煽動容疑』
間違いなく、あの山頂からの生放送で私が全球中に言い放った言葉が不味かったんだろう。
流石に拓洋に入るなり憲兵が待ち構えていて、手錠をはめられ重営倉にぶち込まれるっていう事は無かったけど『皇紀八三七年色月二十九日〇九○○時マデニ出頭セヨ』と来たもんだ。
これを聞いた少佐は真っ黒になった顔を真っ赤にして激怒し「クソ憲兵共が、俺が乗り込んでやる!」と息巻き、シスルは「憲兵が姉ぇを捕まえに来たら皆殺しにしてやる」とクッラを引き抜いたが、トガベ少将閣下は涼しい顔で「来いと言うなら行ってやればいい」と、一言。
仕方なく言われるままに新領総軍司令部内にある憲兵司令部に行き、司令官室に通されるとそこで待っていたのは、苦虫を噛み潰したような顔をした黒い軍服姿の憲兵司令官と、すました顔で「シャルマ大尉ご苦労だったな」と私を出迎える何時もの純白の軍服姿のトガベ少将閣下。
私を認めた憲兵司令官は、まるで親の仇でも見る様な目つきで睨みつけつつ。
「シィーラ・ルジャ・シャルマ大尉、貴様のやったことは帝国の威信を失墜させ、土人どもをいたずらに付け上がらせ内乱を誘発する反逆行為だ。捜査によって貴様の背景に土匪や不穏分子の影は無かったものの、行為自体が重大な問題だ。軍法会議が開かれれば、土匪の跳梁や不穏分子の蠢動が著しい昨今の時世に鑑みて、銃殺とはいかぬまでも無期の陸軍刑務所収監は免れんところだぞ!」
それに対し、あからさまな冷笑を浮かべる少将閣下。憲兵司令官の燃え上がる様な怒りの視線を浴びつつも一切意に介さず。
「と、言う事らしいぞ、シャルマ大尉。どう思う?」
どう思う?って言われても・・・・・・。
私は自分の長靴のつま先を見つめ、考えを纏めてみるけど、頭に浮かんでくるのはあの挑戦と冒険の日々。
いつもイライラしているカク教授、酔っ払うとすぐに抱き着いてくるオウオミ先生、飄々としたソウゴ中尉にまじめで実直なノワル曹長、昼夜なく一生懸命働いてくれた秘密研究所のみんな。
本当に熊さんみたいに愛嬌にあふれたウルジンバドル大尉、古強者然としたウルロコさん、聡明で思慮深く種族の未来をいつも案じていたロルカ師、元気いっぱいなラチャコ君、頼りがいのあるワイナ・ウリさん、敵だけど充分に尊敬に値するシュタウナウ大佐
そして、ライドウ少佐、シスル。
肉や骨まで沁みとおる寒さに、まっすぐに立つことを許さない突風、常に体を責めさいなむ薄い空気に、知らぬ間に目や肌を焼く紫外線。
落ちてゆきそうに錯覚するほどの蒼黒い空、目に痛いほど鮮烈な雪の白、魅入られそうな氷の蒼、禍々しくも神々しいオルコワリャリョの山容。
寝苦しい野営の夜。毎晩のように夢に現れた私の妹、ピニタの笑顔・・・・・・。
私は顔をあげ、憲兵司令官をまっすぐ見据え、言った。
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