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 翌日早朝、ウルロコさんが集めたインティキル精鋭部隊との顔合わせが行われた。

『インティキルが誇る醜男ばかりを集めた』と豪語していただけあって、見た目からして強そうな人ばかり。その総勢四十人、軍で言うなら一個小隊。

 朝日に輝く銀色の豊かな体毛に覆われたがっしりとした体、氷蒼色の鋭いまなざし、艶やかな黒い鼻鏡、ふさふさの長い尾、べったりと大ぶりな手と足。

 剽悍な山の民そのものだ。

 そんな中にあのラチャコ君も混じっていた。歴戦の勇士らしいけどまだ十代。山ではどうよ?と思っているとウルロコさんが察したのか。


「ラチャコは歳こそ若いが戦いだけじゃなく山登りにも才能がある奴だ。事前の荷揚げ作業でも大活躍してた。まぁ、弟分と思って重い存分こき使ってやってくれ」


 そんな心強い言葉に気を良くした私はラチャコ君にむかって「君!頼りにしてるわよ、よろしくお願い」と上官風を吹かせてやると。

「女大尉さんこそ、足引っ張んなよ!」と来たもんだ。

 ウルロコさんが彼に駆け寄り大きな手で頭をしばき倒したけど、生意気な子ね、いずれ私からもシメてやるか!

 その後は荷物の確認と誰がどれを持つかの割り振り作業に入る。

 撮影、送信、発電の各機器がそれぞれ十五 キロで、配線や三脚、固定具などを入れると全部で五十 キロ近くに成る。その他樹脂繊維製の天幕や羽毛の寝袋、空気式の敷布、石油こんろや飯盒などの露営装備、綱、鉄杭ハーケン開閉鐶カラビナなどの登攀用具、食料、燃料、念のための武器弾薬を加えその総重量二 トン

 一人頭五十 キロの大荷物を担ぎ上げる事に成るのだ。まぁ、ワカオルコやリャンママなどの獣で運べるところまでは運ぶけど、ついに人の脚でしか無理な場所まで来ればあとはもう人力本願。

 あと、私たちの装いも高所登山用のそれに切り替えた。

 まず無くてはならない硬い革と分厚い護謨底の登山靴。高価なガチョウの羽をタップリ詰め込んだ頭巾付きの上下つなぎの真っ白い羽毛服。羽毛が詰まった二本指の手袋に、毛糸で編まれた上着、毛織の襦袢に下袴、その下にはこれまた毛織の股引に肌襦袢。靴下も毛織の奴を二枚重ね、それでも足りず頭には毛糸の帽子に覆面。最後に滑落防止のための安全帯で腰を締め込み、岳人の魂、氷斧ピッケルをもって完了!

 これだけ着込めばもう誰が誰だかわからない。シスルは「動きにくいなぁ」と文句を言うが。少佐は「それだけ着ててもいい加減なもんよ」とたしなめる。

 一方、イェルオルコの人々は簡単その物で、違う所はウンハルラント軍の冬季迷彩服上衣を着込んだ点、流石にあの豊かな毛皮でもワリャリョ連峰の殺人的な突風には敵わないらしい。

 一通りの作業が終わるころにはもう日が暮れて、ワリャリョ連峰に大きな夕日が落ちてゆく。

 砦の中では明日の出発を前に壮行会を兼ねた宴会が催され、四十人の精鋭と幹部たち、そして私たち『禿鷹挺身隊』でイェルオルコの女の人たちが作った心づくしの料理を味わった。

 スリパカノという小さなラクダの様な獣の丸焼き、ワカオルコの肉と豆の唐辛子煮込み、干したラックトの丸焼き、干し馬鈴薯の汁物、玉蜀黍粉の麺麭パン、等々。

 スリパカノの肉は岩塩と唐辛子を摺り込んだだけの味付けで、それでも濃厚な肉のうまみが絶品、ワカオルコの唐辛子煮込みは見た目ほど辛くなく玉蜀黍粉の麺麭との相性は抜群、干し馬鈴薯の汁物は乾酪チーズをタップリ使っていて濃厚でそれでもほっこりする味わい。どれもこれもしっかりお腹に溜まり体を芯から温め体に力をみなぎらせてくれるものばかりだ。

 ただ、ラックトの丸焼きはなかなか手が出せない、早い話がネズミの干物の丸焼き。見た目も物凄いがいい具合に熟れた臭いも中々で、少佐や熊さん(お名前が長いんで以降熊さんで)ロルカ師やウルロコさんなど男連中はこれを肴にあの馬鈴薯火酒をグイグイやるが、・・・・・・。私は、ちょっとねぇ~。

 では、シスルやラチャコ君たちお子様組はどうかと見ると、ラックトの頭を石で割り、中のドロリとした脳味噌を美味しそうに啜っている。

 多分、私のゆがみに歪み切った顔を見たのか、パックリ開いたラックトの頭を私に見せつけながら「姉ぇよ、これ美味いよ」と、どす黒い脳の汁を口の周りにべっとりつけて言う。

 その様子を見ていた少佐は、ラックトの脚の骨をしゃぶりつつ。


「シィーラ大尉殿よ、おめぇさんの郷にも山羊の乾酪チーズに蛆虫集らせて熟成させるって奴があるだろ?アレよりはまだ臭いは優しいんじゃねぇか?」

 

 いや、あれは我が故郷の珍味。ネズミの木乃伊ミイラと一緒にしないでください。

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