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たまらなく美味しそうなシシ鍋を食卓の真ん中に据え、少佐が注いだ盃を大人三人が捧げ持ち(シスルにはみかん水で我慢してもらった)少将閣下の音頭で宴が始まった。
「では、シャルマ大尉の訓練の無事終了を祝し、オルコワリャリョ無事登頂成功を祈って、乾杯!」
口に含んだ途端、まるで花が咲いたように広がるさわやかな風味と優しい甘み。これが幻の銘酒のお味か・・・・・・。これは調子に乗って酔いつぶれそうで怖い。
さて、シスルが仕留めた猪の肉をふんだんに使い、少佐が作ったシシ鍋は、まず最初に口を付けた少将閣下が。
「これは美味だな!しかし味噌仕立てというのは解かるが、だが味はこってりとして辛味も程よくある。何を使っている?」
少佐は自慢げに胸を反らして。
「味噌に木の実と唐辛子をすり潰して混ぜ込んだんですよ。この辺りで暮らしてる多毛人のヌスキット族のやり方を真似してみたんです。寒い季節にゃぴったりですぜ」
確かに、お味噌の風味の中にしつこさの無い脂味を感じていたけど、木の実から来たものなのか!道理で美味しいわけだ。めちゃくちゃ太りそうだけど・・・・・・。
目ざとく私の空になった盃を見つけ、少佐さが「食い気ばっかりじゃねぇで、こちもやりな」と強引に注ぐ様を、くつろいだ雰囲気で眺めつつ少将閣下は「少佐、シャルマ大尉の習熟度はどうだ?」
今度は閣下の盃に並々と注ぎつつ少佐が答えた「ほぼ完璧、いっぱしの山女になりましたよ」
閣下は、継がれた盃を悠然と傾けた後、皆を見渡し。
「では、予定通り作戦は決行。明日にはここを引き払い、同盟海外共同統治領内潜入の準備の為拓洋に帰還せよ。あ、そうだ。貴様らの
そして、しばらく顎に手をあて、視線を食卓に向けられ思案されたあと、ハッと眼を開き鳶色の瞳で私たち三人を見渡して。
「彼の地においては、ハゲワシが神聖な鳥として信仰されていると聞く、そうだ、今日から貴様らを『
『禿鷹挺身隊』・・・・・・。四十路のおじさんである少佐は兎も角、残り二人は年頃の女の子二人なんですけど・・・・・・。
少佐も同じように思っていたようで。
「ハゲワシってのは、如何なもんですかねぇ?向うの言葉でハゲワシは『クンツゥル』って言うんで『クンツゥル挺身隊』で如何です?」
これに対し少将閣下は「言いにくい、却下だ」
と、言う事で我々オルコワリャリョ登山隊の
・・・・・・『禿鷹挺身隊』か・・・・・・。はぁ~。
お腹いっぱいになったシスルはサッサと寝床に潜り込み、少佐は明日の準備の為登山装備を保管してある物置小屋に向かったので、丸太小屋に残されたのは私と少将閣下だけになった。
まだ残っている『薫風』をさしつさされつ二人で飲む。
階級は遥か三つ上で、おまけに身分は天と地の底の差以上にあるのに、閣下は私に親しく接して下さる。
一度なぜか聞いてみようと思うのだが、どうも恐れ多くてそんな事聞けず、結局最初に口を開いたのは閣下。
「開発段階でも驚かされたが、登山技術習得でも見事に私の期待に応えてくれた。本当に貴官の奮闘には感服という二文字しか思いつかない」
そこまで褒めちぎられつつ、あの瞳で見つめられると「恐縮でアリマス」としか言えない。おまけに酔っ払ってて頭回らないし。
続けて閣下は声の調子を落として。
「しかし、本当の冒険はこれからだ。敵中を四千五百
不遜とは思いながらも閣下の瞳を見つめ返し答える。
「ございません、閣下。寧ろこの訓練の日々で腹を益々括ることが出来ました。ライドウ少佐とシスルが傍にいればこの全球中行けぬ場所が無い様な気すらしております」
閣下は静かに笑われると盃を一気に干し。
「さてはライドウの豪胆さが移ったか?中々に肝の太い事を言うでは無いか?これで本官も安心した。シャルマ大尉、行ってこい。そして前人未到の山の頂を踏みしめ女の意地を見せてやれ」
それにこたえるつもりで私も盃を干す。黙って閣下がそれをまた満たす。
「了解いたしました。シィーラ・ルジャ・シャルマ大尉、ご命令通り全球に女の意地を見せつけてやります」
第二部に続く。
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