第2話 佐奈さん、異世界転生デビュー?!

 世界では、まだ解明されていないものが、たくさん存在する。

 使わずに放置していたハズのイヤホンのひもが、何故自然と互いに絡まっているのか?という小さな謎から、深海の調査はまだ全体の十パーセントも解明されていないといった大きな謎まで、たくさんと存在している。


 俺の目の前にいる少女も例外ではない。

 彼女は急に学校に現れて、今や学校の七不思議の原因となっている。

 一ヵ月半前に第一図書室前の廊下を掃除していたら、偶然見つけたのだ。

 

 封鎖されていた第一図書室に入って、いつも座っている窓際のテーブルに行くと、「ブレザー、脱いでー。ハンガーにかけるよー」とハンガー片手に言ってくる少女。

 ブレザーを脱いで彼女に渡すと、窓際に掛けようとする少女を見つつ、俺は口を開く。


 「昨日、本が勝手に倒れたって噂を聞いたんですが、佐奈さん昨日何してたんですか?」

 

 ハンガーを掛け終わった少女――佐奈が、慌てた様子で馬場を見る。


 「えっ!?あの時の音、聞かれてたの!?」


 「みたいです」


 顔を真っ赤にしてしゃがんで顔を覆う佐奈さんを、椅子に座りながら見る。


 「……読みたい本が高いところにあったから、背伸びをして取ろうとしたら本が私を潰そうと倒れてきたの…」


 予感は見事的中した。まぁ、だろうなと思った。


 「高いところは、俺が取るって言ったじゃないですか」


 「だって昨日は馬場君、バイトで来なかったし…」


 「そ、それは…」

 

 実は一ヵ月前から、アルバイトというものを始めた。人生初だ。

 その事を佐奈さんに言ったら、「何でアルバイト始めたの!?私また、一人になるの!?」と理由を言えと迫られた。

 理由はもちろんあるが、それを佐奈さんに言うのは恥ずかしくて言えてはいない。


 「よ、読みたい本ってどんな本ですか?」


 アルバイトの話題から何とか逃げようと、読みたい本は何だったのか?という話題に即座に変える。

 話題を変えられたということを理解していないご様子の佐奈さんは、笑顔で後ろの小さな本棚から本を取り出す。


 「これ!!」


 両手で見えるように本の表紙を見せてくる佐奈さん。本の上部には本のタイトルがデカデカと書かれていた。


 「鶴の恩返し…。むしろ、読んだこと無かったんですか?流石に時代遅れですよ」


 「ひ、酷い!」


 うるうると目に涙を浮かべて、パラパラと鶴の恩返しを捲る佐奈さん。

 鶴の恩返しを取り出した本棚を見ると本が大量に入っており、本棚の下部分にはガムテープが貼ってあってその上に『佐奈の本棚!』と可愛らしく油性のマジックで書かれていた。

 

 「随分と一ヵ月前と比べると増えましたよね、これ本当に全部読むんですか?」


 「読むよ!それと馬場君も一緒に隣で読むんだよ!」


 鶴の恩返しを片手に持って、俺の隣に座る佐奈さん。もしや鶴の恩返しを一緒に読むつもりか?と思っていると、あることを思い出す。

 

 「そ、そうだ!今日は佐奈さんに渡したい物があったんです」


 「渡したいもの?」と頭にはてなマークを立てて、馬場を見る佐奈。

 カバンから一冊の本を佐奈さんに渡す。

 鶴の恩返し同様に上部分にはデカくタイトルが書かれている。


 

  異世界転生したら、幽霊だったんだが?



 少しの間固まっていた佐奈さんだったが、うるうると瞳に涙を浮かべて馬場を見る。


 「ありがどう!馬場君だと思って大切に読むよっ!」


 「喜んでもらえてうれしいです」


 再度、馬場から貰った本を優しく撫でる佐奈さん。


 「異世界転生かぁ、面白そうだね」


 「今、めっちゃブームなんですよ。この機会に佐奈さんも流行の波に乗りましょう」


 「へー、そうなんだ。そうだね!乗ってみるよ!」


 鶴の恩返しと一緒に「異世界転生したら、幽霊だったんだが?」が本棚に加わった。

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