epilogue

  春の匂いを含んだ風が、柔らかく頬を撫でる。民衆の歓声が城の中まで聞こえてくる。

  そう、魔王城に乗り込んだあの日からちょうど二年が経ち、エリーズとアランは今日、結婚する。

 


 ○

「あ、エリーズ来た! やっぱ綺麗〜!」


  ルソワール王国の中心にある城の応接間には、かつての仲間ーー今もだがーーが、集まっていた。

  リルとサラとレオンとミシェルとジュリー。

  リルはあの後、ルソワール王国最大の病院で回復術師として働き、サラは意外も意外、魔術師としてフィエルテ学園で働いている。

  レオンは当然の如く軍隊の少尉として。

  そして、問題のジュリーは、未だ魔王城で、魔族達と暮らしていた。

  あれから彼らがどうなったのかは、聞いていない。ただ、エリーズが殺してしまったと思っていたカイトはリルの回復魔法か届いていたとかなんとかで、生き返ったらしかった。他にいた者たちも、そんな風にして全員生きているらしい。

  たぶん魔王城で、一生暮らすのだと思う。


「すごくお似合いです。エリーズ」


  サラが短く切ったショートカットを揺らしながら言った。白と黒のモノトーンのパーティードレスで、かっこよく決めている。エリーズが、出会った頃から一番変わったのは、サラかもしれない。


「ありがとう、サラ」


  エリーズが今回の式で着るドレスは、ところどころに花の刺繍が施され、そして色々細かな細工がしてあるものだ。少しタイトで、これはアランの要望だった。


「アランも似合っているぞ」


「ありがとう」


  レオンとアラン、ミシェルが微笑む。


「式はもうすぐよね?」


  そろそろここも出た方が良いかしら、とリルがそっと席を立った。確かに、あと十五分ほど。


「そうだな。そろそろだ」


  レオンもそれに追随する。ミシェルやサラも、席を立った。

  エリーズは、隣に立つアランを見つめた。

  そういえば、異世界転生事典は、エリーズがもらった。またいつかどこかで、使う時はくるのかもしれない。それに、元の家族には、もう一度会いたい。

  あまりに不確定要素が多すぎて、まだ使えていないのだが。


「そろそろ俺らも行こうか」


  微笑むアランに、にっこりと笑い返す。


「えぇ」



  だけど。

 きっとしばらく、あの事典を使うことはないだろう。

  だって今、最高に幸せなのだから。

  最高の仲間と共に、最高の世界にいるのだから。

 

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剣術チートな悪役令嬢 時雨 @kunishigure

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