66. 蘇った戦場

  ふと変な気配を感じて、俺は思わず後ろを振り向いた。見ると、リルが大きく腕を広げている。

  一体何なのかと、疑問に思ったその時だった。


「ヒール!」


  高い彼女の声が聞こえ、瞬時に辺りが緑色の光に包まれる。いや、包まれるなんてもんじゃない。あまりの眩しさに、目を開けられないほどだ。

  腕で目を覆い、しばらく耐える。それほど、光は強いものだった。

 

(新手の回復魔法か?)


  起こった出来事を考える前に、ぼとぼとと、飛ばされた兵士達が落ちて来た。


(いや、これは回復魔法じゃないよな。でも、クルーエさんって、回復魔法以外使えたか?)

 

  疑問が頭を支配するが、今それを解明する術はない。彼女はここから割と離れていて、そこへ行くためには、数多のアンデッド達を先に片付けなければならない。俺だけの力で、そんなことは、不可能だ。

  その内に、目の前で死んでいた男が目を覚ました。

  あれ? と呟いて、頭をかく。生き返ったのだろうか。


「あ、れ。カ、カヴァリエ様?」


  当の本人も酷く混乱している様子なので、聞くこともできない。ただ俺は頷くと、そっと手を差し伸べた。

  慌てた顔をするが、少し迷ったのち、手を取る。


「ありがとうございます。本当に、申し訳ありません」


「いや、ここは戦場だ。仕方ない。それより、クルーエさんにお礼を言ってやれ。たぶん、喜ぶと思う」

 

  はい! と大きく返事をしたその兵士は、アンデッド達を倒すべくキビキビと動き始めた。

  そうするうちに、だんだんと周りの兵士達も起き上がり、戦い始める。


(全体的に士気が上がっている?)


  先程クルーエさんが使用したのは、やはり回復魔法でまず間違いないだろう。おそらく、驚異的なその力で、多くの者の命を蘇らせた。

  きっと、この生きるか死ぬかの限界の状態が、彼女の魔力を最大限にまで引き上げたのだと思う。

 

  周りを見渡せば、ほとんどの兵士達が生き返っていた。本当に、驚異的な力だ。


  あとは、一体どうすれば良いか。考えろ、レオン。ひたすらに、考えろ。どうやったら、より多くの者を救える?

  俺は、頭の中に地図を描き出した。魔王城の、地図。

  見ると、倉庫のようなものがある。


(ここに、アンデッド達を送り込めれば!)

 

  俺は近くにいたサラに話しかけた。今は、彼女の力が必要だ。今回は、ミシェルもいるし大丈夫だろう。


「サラ、催眠魔法を使ってくれ」


  彼女はしばらくタジタジとしたあと、ゆっくりと頷いた。

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