64. その頃、後方部隊では
アンデッド達の群れがまたも、兵士達に襲いかかった。それらを、剣でどうにか跳ね除け、また増えたそれらに対峙する。
そんなことがさっきから、ずっと後方部隊で行われていた。
(キリがないわね)
リルは内心、ため息をついた。いや、つくしかなかった。場所が場所だけに、そんなことをしている場合ではないのだが、仕方ないと思う。
リルも回復魔法を使ってどうにか協力していたが、戦力にはならない。だんだん、お荷物感が強くなってきた。
(あたしにもっと、力があったらなぁ)
そんなことを考えてもどうしようもないのは分かっている。だけど、単身魔王へと闘いを挑む親友の姿を思い浮かべれば、そんなことを思うのも仕方ないだろう。自分にもっと力があって、なんて、考えてしまう。
「リル、大丈夫か?」
隣でせっせと戦う親友の婚約者が、不安げな顔で呟いた。この国の第二王子ともあって、心配なんだろうな。しかも、自分の恋人は死の危険を侵して、魔王なんて強敵と闘っている。
「えぇ、大丈夫。エリーズがあんなに頑張ってるんだもの。あたしたちも、頑張らなくちゃ」
にっこりと笑ってみせると、彼は強ばった笑顔で頷いた。戦場では、そうして笑っていた方がいいと、そういえば、誰かに聞いたことがある。
「皆、数が増えてきた。気をつけろ!」
レオンが声を張り上げる。彼は武闘派一族の息子らしく、勤勉に戦っていた。アンデッド達を氷の魔法で蹴散らかして、前へ前へと進んでいく。
そんな時だった。最初は何が起こっているのか、分からなかった。
ただ、兵士がだんだん少なくなってきたな。もしや、アンデッド達にやられたのだろうかと、心配していただけだった。
けれど、違和感はすぐに正体を現した。
捻じ切れるようにして、兵士達がどこかへ飛ばされていく。
(あれは……!)
若干トラウマ化しているこの光景を、リルは知っている。だって、これが、リルがここに来た理由なのだから。
これは、魔王がやっているのか、それとも部下がやっているのかは分からないが、数年に一度起こるとされている、人間狩りと同じ状況だ。
人間狩り、とは、その名の通り、魔王が魔力を補給すべく、全国各地から人間を殺し集めるというものだ。
自分の悲鳴を遠いところで聞くように感じながら、リルは地面に蹲った。アランが何か叫んでいる。
ヨクワカラナイ。ナニモキコエナイ。
一瞬にして、世界が真っ暗になったように、感じた。
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