63. 追想
ざく、と自分の胸から音がして、あたしは呆気に取られて、そこを見た。薄青色のナイフが、心臓を、深く突き刺している。どうやら、これで終わりらしい。
今まで刈り取ってきた命達は、こうして死んで行ったのかと、どこか冷静な気持ちで、あたしはその傷跡を見ることができた。
あぁ、だけど、最期にあの人には、会いたかったな。
あたしの生涯で最初で最後の、最も愛した人に。
あたしは霞む目を、ゆっくりと閉じた。
○
あたしが産まれたのは、都市にある貴族ーーつまりそこそこの位ーーに昔から仕える一般家庭だった。
いや、一般家庭と言うと、かなり変わってくるかもしれない。
あたしの家族は、東の端にある国にいると言われている忍者、というものと同じような仕事を生業としていた。
仕える貴族に命じられ情報収集、暗殺、誘拐……何でも屋、と言った方が、近かったかもしれない。
あたしの仕えていたその一族には、一人息子がいた。
彼もこの魔王城で部下として生活していて、今はあたしと同等の地位にいる。そう思うと少し不思議だ。
人間の世界にいたときは、彼と同じ地位でいられるなどありえないことだったから。
まぁともかく、その一人息子は今は名を捨て、イーグルと名乗っているのだが、イーグルとあたしは、昔から面識があった。
なんということはない。単にハンカチ拾うだかなんだかして、知り合っただけである。
ただ、お互いに喋るうち、腐ったこの貴族社会が反吐が出るほど嫌いだと言うことが分かってきた。あたしは、貴族達が自分で手を下さず、下のもの達にさせることに対して。イーグルは、そんな親達を目の前で、見てきたから。
そうして、ある満月の晩、二人で決意したのである。
ここから、出ようと。この世界を、変えようと。
イーグルは、それはもう色々と調べてくれた。あたしも、仕事の間に情報を集めた。
そうして分かったことは、魔王に付き従い、協力してもらえればいいんじゃないかということである。
あたし達がもつ情報はきっと、魔王も喉から手が出るほど欲しいはずだ。
そうして、あたしの伝手でどうにか出没する地域を探り、こっそり家出した。
彼は、優しかった。今でも、色々気を使ってくれる。きっと、ここに来なければ、こんなに早く死ぬこともなかったのだろうが、イーグルとここまで仲良くなることもできなかっただろう。
もしかしたらあたしは、人を愛するということを、知らないままだったかもしれない。
そう思うと、ここに来て良かったと、心底思う。あの状況から考えると、納得のいく人生を歩むことができた。
ただ。
やっぱり、最期はイーグルに会いたいし、彼には、どうにかここから逃げて欲しい。
今までたくさん人を殺してきたあたしがそう考えるのは、やっぱり間違っているだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます