62. カイトとの終結

「さぁさてさて、やる気になったの? 兎ちゃん」


「ひょっとしてあなた厨二病なんですか?」


  尋ねると、カイトは不思議そうな顔をした。どうやら、厨二病、というのがなんだか分からなかったらしい。けれど、説明する義理もないので、そのまま話を続ける。


「兎ちゃん、なんて薄ら寒いセリフを吐くから、そうなのかと思ったんです」


「あらそう。でも、こんなにガクガク震えて、兎みたいだなと思ったのよ。戦闘力も、私に比べたらまるで兎みたい」


「そうですか。では、さっさと方をつけましょう」


  言い切り、今度はエリーズの方から攻撃を仕掛けた。大きく跳躍し、自分を目掛けて、投げられるファイアーボール闇バージョンをいくつも切り落とす。例の部下と闘ってから、エリーズも伊達に練習したわけじゃない。もう一度あの師匠に習い、(親には適当なことを言って誤魔化した)筋肉から体幹に至るまで、根本から鍛え直した。

 

「やっと本気を出した?」


  カイトは頭上から剣を振り下ろしてくるエリーズを睨みつけながら言った。彼女の今までの闘いの中でも、エリーズはなかなか手強い敵だった。

  もちろん、勝つ気ではいるが。


「まだまだ、本気じゃないですよ」


  エリーズは剣をカイトの首近くへと大きく降った。だが、それはカイトが魔法で跳ね除ける。


(やっぱり、前の部下より強い……こんなとこで道草食ってる場合じゃないのに……)


  急激な焦りが身体を蝕むが、それに乗っ取られてはいけない。どうなるにしろ、エリーズはここで倒れるわけには行かないのだ。

  彼女には、この魔王城を統べるものを討伐するという、最重要課題が課せられている。


  不意に、カイトが懐から、大きな剣を出した。おそらく、魔剣だろう。魔剣とは、魔法を剣に染み込ませたもので、ほとんどない貴重品だ。

  というのも、この世界には大して魔法を最大限に使って戦える猛者はいないためだ。大体は、遠距離魔法を使って攻撃する。

  近距離魔法を使って敵を圧倒するには、現実では考えられないくらいの魔力が必要だ。

  要するにそれだけの力を、この女は持っているということなんだろう。


(また剣、折れるかもな……)


  前闘った時より、強い相手と闘うのだ。前折れた剣は、今も折れる可能性が高い。


  案の定、ガツン、と大きな音をしてぶつかったエリーズの剣は、木っ端微塵になった。仕方ない。

  けれど今回は、すぐナイフを取り出して応戦する。

  この前は、このナイフで勝てた。だから、きっと……


  一旦後ろに下がって、ナイフを構え直す。どうすればいいか。どうすれば最短で最大限に力を引き出して闘えるか。どれだけ、効率よくできるか。全てはそれにかかっている。


  全身に意識を集中させる。大丈夫。私は、やれる。


  魔王城を破壊するわけにいかない以上、きっと前ほどの大型魔法は出せない。

  つまりは、先程から何百発、いや、何千発と続いているこの魔法を、切り落としながら、前に進めばいい。


  それから、正面で斬る!


  筋道を立てて、エリーズは正面から挑んだ。


  動き出した途端、攻撃が集中する。それを、全部切り落とし、少しづつ、少しづつ、エリーズは進んだ。

  そして、カイトとの間が二メートルになったそのとき、己の全ての力をかけ、全力で走った。大きく振り下ろされる魔剣をナイフで力の限り押し返し、払う。





 

 カイトの丁度心臓の位置をナイフで突き刺した瞬間、魔法は止まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る