61. カイト

  とりあえず手っ取り早く目の前の女を倒さなければならない。強い魔力を持っているとはいえ、相手は人間。今から人を殺すのだと思うと、手が震えてくる。


「あれあれ? 怖くなったの? 兎ちゃん」


  カイトと名乗った女が寒いセリフを吐くが、エリーズに一々揚げ足を取るだけの余裕はなかった。


「そういうわけじゃありません」


  ただ、震える声でそう言うと、カイトはふふん、と鼻で笑った。それからまた、闇魔法を放ってくる。

  ヒィ、と後ろで同じように剣を構えていた兵士の若者が悲鳴を上げる。


(ああ、そうだ。私はこの中で一番強いんだから、しっかりしなくちゃ)


  エリーズは深く深呼吸すると、意識を集中させた。殺すことが怖いだとか言っている場合ではないのだ。いい加減覚悟を決めないと、ここでは殺る前に殺られる。


「あら? 本気になった? じゃあこっちも、本気を出そうかしら」


  高い声をあげて笑う女目掛けて、とりあえず一回斬りこんでみる。やはり彼女は前に闘った男より強いのだろう。ひらりと、それは軽快にかわされた。


「ホークが強いって言ってたけど、大したことないのね」


  カイトが、手を上げる。しっかりと開かれた手の平には、黒いモヤが集められた。また、魔法を使う気だ。

  それに先程から気づいていたが、彼女は魔法を使うとき、ほとんど詠唱しない。相当な手練なんだろう。


「けれど私は、魔法を消失させることができますから」


「手の内明かしていいの?」


「ええ、どうせバレますからね」


  言い切った瞬間、ファイアーボールの闇バージョンのようなものがいくつか飛んできた。

  無論、全て斬る。


「確かに、なかなかやるわね」


  舌なめずりしたカイトが言った。


「楽しくなりそうじゃない?」


「楽しくはないですね」


  速攻で返すと、彼女は眉を顰めた。もしかしたら、激昴しやすい性格なのかもしれない。

  そしたら、煽り作戦で勝つことができるだろうか。


「次は、どうしようかな? あなたは、できるだけ苦しませて殺してあげる。後ろにいる人達は、すごい怯えてるから、一瞬で殺してあげるわね」


  彼女の声に後ろを振り向くと、護衛の兵士達は怯えた顔をして、ガクガクと震えていた。これじゃ使い物にならないどころか、足でまといだろう。

  走る速さやその他を鑑みると、彼らはアンデッド達を軽く倒せるくらいの実力はありそうだ。


「お願いだから、後方部隊を手伝ってきて」

 

  エリーズが伝えると、何度も頷いて彼らは走り去っていった。

 

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