53. 少女と魔王
ガチャリ、と鍵の開く音がし、少女は嬉々として扉の方を見つめた。
「魔王様!」
座り込んでいたコンクリートの床から立ち上がると、鉄製のドアへと駆け寄っていく。
「今日はどうなさったんですか?」
少女の目の前には、赤い仮面を被った少年。少年の仮面は、目と口の部分だけ大きく穴が開けられていて、口は笑うように、大きく歪められていた。
「誘拐犯が、誘拐した人物のところへ来てはいけないのか?」
「いえ、そういうわけじゃありませんが……その、ここに来られることは珍しいので」
少年ーー魔王はふふっと笑った少女ーーレオンの姉であるジュリーを一瞥すると、そのままどかりと部屋に置いてあるソファーに座った。
「人を殺されたんですね?」
ソファーの少年に背を向けたまま、少女は言った。
「なぜ分かった?」
「女の勘ってやつですよ」
「女の勘、か。お前は不思議な奴だ。話していたら知らない単語ばかり出てくるし、それに突如創始者だと名乗り出したり、はたまた俺を……」
「良い奴だと言ったりするからな」
少年は足を組み替えると、少女を見つめた。
「こちらにも色々、事情があるんですよ」
振り返った黒髪と紫の目に、赤い仮面は目をやると、ふっと笑った。
「そうか」
「えぇ、ですから、貴方様が悪い方ではないというのは、一応分かっているつもりです」
答えた少女に魔王は簡単な魔法ーーファイヤーボールを投げつけるが、それは少女にあたると青色に光り、砕け散った。
「お前に俺の魔法が効かないのも、その"事情"というやつなのか?」
「それは分かりかねます」
「なるほどな」
少年はソファー立ち上がった。
「もう行かれるのですか?」
隣を通った少年にジュリーはそう尋ねるが、結局その答えは返さぬまま、少年は部屋から出ていった。
***
「SIX O'clock の頂点に魔王として立つものであり、またこの地に生きとし生けるものの全ての死の神、通称バード・プレイ」
「貴方は私が救ってみせる」
少女の呟きは、コンクリートの冷たい空気に消えた。
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