43. 理由
「なるほど」
突然彼の、全ての表情が消えた。
(本気になった?)
だとしたらヤバい。間違いなく、窮地に立たされているのはエリーズだ。さっき確かに彼の魔法を打ち破り、自信もついた。だけど、それはあれが本気だと思っていなかったからだ。
彼の今までの魔法が本気でないのだとすれば、重い衝撃を受けたこの剣がどうなるのか。そんなことは、日を見るより明らかだった。
「エリーズ、君に一つだけ聞きたいことがある」
胸の前に握った手を置いた彼が尋ねた。俯いていて、表情はよく見えない。
「何?」
「君は何で、こんなことに首を突っ込んだの? 安全が保証された快適な生活に生きているのに、何でわざわざ危険に飛び込んだの? こんな自殺行為、君はしても得がないはずだ」
ぎゅっと、心臓を掴まれた気がした。もちろんそれは恋のときめき! なんてものじゃない。ただ、今までどうしてもついて欲しくなかった核心を、彼につかれた。後暗い、目を背けていた部分を、名指しで指された気がした。
「得がないわけじゃないの。貴方には言えないけど」
エリーズもまた、そっと俯いた。
そうだ。得がないわけじゃない。レオンのお姉さんを救い出せば、バッドエンドフラグ回避の方法を教えてもらえるかもしれない。
一応、回避の方法の頼みの綱はそれしかないのだ。
けれどそんな、ある意味自分本位な考え方で命懸けの戦いなど、したくはなかった。
ずっと、それ以外の理由を考えてきた。ほとんど知らない他人のため、戦う理由を。けれど、今日に至るまでそれは分からないままで。
だからこそ、ここまでやって来たのだ。
一つの推理に辿り着いたあの瞬間、利己的な考えだけじゃなく、他の抑えきれない衝動に駆られた自分は、一体何だったのか。
それがここまで来たら、分かる気がした。
あの感情の誘因が、分かる気がした。
「そっか。じゃあ君はその得のために、今俺と戦ってるの?」
「それは違う!」
必死の声に、部下はゆっくりと顔を上げた。何かに対しての怒りを孕んだようなその視線が、エリーズに突き刺さる。
「別にそれでもいいよ。人間っていうのは、少なからず自己中心的な生き物だからね。今更そう言われたって別に何も思わないし、それに欲望っていうのは、動機と行動力として一番強い」
彼は、笑った。
いや、そうじゃないのかもしれない。
作り出されたのは笑っていない目に、無理して上げられた口角。
エリーズの、前世と今世を合わせても、こんな笑顔にお目にかかることはなかった。
(怒ってる?)
導き出される答えは一つ。彼は、間違いなく怒っている。それがエリーズの返答によるものなのか、それともまた別の何かなのかは分からないが。
「君は、あの頭のおかしな女に似てるね。人間くさい、正義感に溢れたある意味良い人だ。きっと今も、葛藤しているんだろう?君の欲望と、願い。それらを天秤にかけて」
そうして彼は、そっと握りしめた手を開いた。その手の中から、大きな光の鉈が現れる。
「けれど俺は生憎、そんな人間が一番嫌いなんだ」
眩しい程の強い光が、向かってくる。
それを受け止めると、ガツン、と剣同士がぶつかる音がした。
(斬れない!?)
驚いて少し緩んだ両手から、金属の崩れる音がした。
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