第二章 ルソワール王国の外れに住む魔王と云えば、この世界で知らないものはない

31. まさかの

 レオンと森で、協力を誓ってから約一ヶ月が経った。

 日々は扁平に、変わらず続いていて、その平和な様子に実は何も起こってないんじゃないかと勘違いしそうになる。

 けれど裏ではレオンのお姉さんーージュリーの奪還作戦がしっかり動いていて、エリーズの知らない間に色々話は進んでいるらしい。

  どうやら今回の作戦は、奪還だけでなく魔王討伐の為に国を上げて協力しているため、かなりの時間を要するどのことだった。お姉さんの安否も確認できない今、レオンはすごく不安だろう。日に日に目の下のくまが濃くなっている。

  そんな計画の情報交換は、放課後、例の中庭のベンチにて行われていた。やはりここは人が全然通らないので、都合がいい。


「それで、魔王の居場所はまだ、分かってないんだ」


「やっぱりそれは難しいわよね」


「とりあえず部下との闘いに勝って、聞き出すしかないんだろうが」


  二人揃って背もたれに身を任せ、重い溜め息を吐く。

  魔王はルソワール王国の外れに住んでいると想定されるものの、正確な居場所はまだ分かっていない。というかそれ以前に、魔王に会って生きて帰れた人間がいないので、情報量が圧倒的に少ないのだ。そもそも、魔王が果たして人間なのかどうかさえ分かっていない。


  それに、レオン曰く今日は厄日らしく、先程から文句を言っている。


「今家で幽霊出るって噂あるし」


「ほんとに!?」


「父親の頭はハゲてきたし」


「……おつかれ」

 

  家に幽霊が出る、という衝撃発言に目を剥くが、そのあとの父親がハゲてきた、というどうでもいい情報で全てが吹っ飛んでいった気がする。いや、男子にしたらかなり重要か。


「ハニートースト食べ損ねたし」


 どうやら、毎日日課にしている食堂のハニートースト争奪戦に負けてきたらしい。

  レオンは意外に甘党だ。


「ハニートーストなら私買ったけど」


  突然聞こえてきた声に、エリーズ達は揃って勢いよく後ろを振り向いた。が、そこには誰もいない。


(まじか。誰かに話聞かれた?)


  背中をだらだらと冷や汗が流れる。


  ガサゴソ、としばらくベンチの裏の森から音がして、茂みを掻き分け最近仲良くなったクラスメイトが出てきた。


「えっと、クルーエさん?」


  レオンがたじたじと聞く。エリーズはと言えば、驚きすぎて鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして固まっていた。


「ごめん、話、聞いちゃった」


  リルは、頬をかいて苦笑いした。

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