15. 不穏な空気

「前にもそんな話聞いた」


「え?」


  エリーズは驚きで目を見開いた。さっきレオンに説明したのは、ある日突然神様からお告げが来て、リルを助けに行った、ということだけだ。

  チートな剣術を持っているということは言ってないし、ついでに言うと転生したことなんて口が裂けても言えない。

  それなのに、そういう所まで全部見透かされているような気がして、急に膝が震え出した。


(こういう時に限って、絶対に止まらないんだよね)


  自分でも怯えすぎだとは分かっている。理解はしているが、やはり気持ちが追いついていかない。

  もしこの世界で転生したことがバレた時、どうなるのかは分からないが、家族はきっと自分を気持ち悪がるに違いない。

  だってこの世界のエリーズは五歳でこの世から消えていて、代わりに別人が入っていたのだ。

  自分が知らされる立場だったら、と思うとぞっとする。


「どういうこと?」


  体中が震えているわりに、声は掠らずちゃんと出た。ほっと胸を撫で下ろす。


「だから、その神様のお告げを聞いて、ていうやつ。噂で聞いた。その関係で色々あって、そのお告げを聞いたやつは退学に、関係者は停学になったらしいが」


「何その不吉な話」


  エリーズは眉を顰めた。あまりに予想外だったせいか、いつの間にか膝の震えも止まっている。


「で、その関係者逹が三ヶ月後に停学がとけるらしい」


「そうなの?」


「ああ」

 

「でもたぶんその人のお告げと私のとは違うと思うから、大丈夫よ。」


「そうかもしれないが、それでも三ヶ月は短い」


  レオンはエリーズの目を見て言った。彼が一体何を言いたいのか、全く分からない。それとも、彼はその事件に関して何か知っているのだろうか。


「とにかく、そんなことにはならないようにしろよ」


  レオンは言うと、ピロシキの入っていた紙袋を畳み、ベンチから立ち上がった。


「一体何だって言うのよ」


 一人になって、小さく呟く。


(神様からそんな話は聞いてないし、あとレオンの態度も謎だ)


  ぐぐっと大きく伸びをして、エリーズは青空を見上げた。いつの間にか雲が少しずつ溜まっていて、ついでに視界に入った木に、烏が止まっているのが見えた。


(あの烏、もしかしたら朝部屋覗いてたやつかもしれない)


  覗きをしていた烏は、異様に毛並みが良く、羽に艶もあった。たぶん誰かが飼っていたやつだと思う。


(とりあえず男装といて、教室戻るか。もう授業始まるまで十分しかないし)


  エリーズは全ての不安を振り切りように、ベンチから勢いよく立ち上がった。

  なんにしろ、神様からの手紙にも従わなければならない。それに、折角今フラグ折ってる最中なのに、自分からいらない事をして立てるのは嫌だ。


(乙女ゲームの悪役令嬢に転生するのって結構大変なのかもしれない)


  エリーズがここ十年ほどで学んだことである。





 

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