第589話 砂嵐

俺達はあっさりと蟹型モンスター三体を退けて先に進む事にするが、今回の戦闘で残念な事が一つあった。いや正確には2つ。

地中に潜った状態でしとめた蟹型モンスターの魔核が砂に埋れて見つける事が出来なかった。

つまり三体のモンスターを倒したにもかかわらずそのうち2つの魔核を回収する事ができなかった。

簡単に倒せたのでボーナスだと思っていたが、そう都合良くはいかなかった。


「しょうがない。諦めて進もう」


これ以上魔核二個の為に時間を割く事はできないので、魔核を諦めて先を急ぐ事にする。


「海斗! ちょっと待て!」

「え? どうかしたのか?」

「ふざけるな! 今度はちゃんと倒しただろ! 早くくれよ」

「ああ……。魔核か」

「それしかないだろ。バカなのか?」


俺はサーバントの三人にそれそれスライムの魔核を渡す。


「それでいいんだ。それで」


手に入れた魔核は一個。渡した魔核は全部で六個。大きさが違うとはいえ数だけでいうと大幅なマイナスだ。

満足そうなサーバントを見て、まあいいかと思いながら砂地を進んでいく。


「今度同じモンスターが現れたら、一旦おびき寄せてからしとめるか」

「ご主人様どうやっておびき寄せるのですか?」

「それは……今は思いつかないな」

「シル、カニを釣るにはエサだろ。海斗をエサにしておびき寄せるのがいいんじゃないか?」

「……さっきと同じでいこう。やっぱりそれが安全でいいと思う」


こいつなら本当にやりかねない。俺を蟹型モンスターの潜む窪みに蹴落とすぐらいやりかねない。

そこからしばらく先に進んでいると、前方のダンジョンの先がよく見えない。


「海斗、あれは砂嵐じゃないのか?」

「砂嵐ですか?」

「ああ、先が見えないには恐らく砂が舞っているからだろう」

「ダンジョンの中でそんなことあるんですね」

「ダンジョンではあらゆる自然現象が起こり得るからな」

「でも、先に行くには通らざるをえませんね」


ダンジョンの先に進むにはこの砂嵐を突破するしかないので、俺達は砂嵐の中へと踏み込む。

中に踏み込んだ瞬間、全身を砂が叩きつけてくる。

防具をつけていない顔が砂で結構痛い。

しかも容赦なく目にも入ってくるのでまともに目を開けていられない。

そして当然だが砂を舞い上がらせている風もかなりきつい。

応急的に手を目に当てて指の隙間から前方を窺いながらゆっくりと進んでいく。


「これって……うっ、ぺっ、って、ぺっ、ぺっ」


あいりさんに喋りかけようとして口を開いた瞬間に口の中へと砂が入り込んできてしまった。

吐き出そうとするが、乾いた砂が唾液を吸収してしまい、上手く吐き出す事が出来ないが、このジャリジャリ感は生理的に耐えがたいものがある。

俺はマジック腹巻きからミネラルウォーターを取り出して口を濯ぐ。

大変な目にあってしまった。

喋る時も口に手を当てて口を開けるのは少しだけにして喋るしかない。

ただ、この状況でまともな戦闘ができる気がしない。

どう考えてもゴーグルにマスクが必要になるので今日終わってから買いに行く必要があるな。

問題は今だ。

他のメンバーも一様に俺と同じスタイルを取ってはいるが、スナッチは自分で目を覆う事が出来ないので、すでにカードへと戻されている。

どうすればいいだろうか。

このまま進めば確実にモンスターは出てくるだろう。

どうにかできないかと色々考えてみたが、このミネラルウォーターの入っているペットボトル使えるんじゃないか?

俺はペットボトルの中身を飲み干し、半分ぐらいの位置で切断した。

底のある方を手に持ち片目に当てる。

少し歪んで見えるが、指の隙間から覗くよりもずっと視界が開けた。


「海斗、それは何をしているんだ?」

「即席のゴーグルですよ。片眼だけですけど、結構いけますよ。あいりさん達もやりましょうよ」

「あ、ああ。私はもう少し様子を見てみるから大丈夫だ」

「ミクもやってみてよ」

「う、うん、私ももう少し様子をみてからね」


様子をみたところで、俺にはこの砂嵐が消えるとは思えないけどな〜。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る