第118話 成長の刻

俺は今9階層に潜っている。

昨日ルシェに指摘をされたように遠距離攻撃の敵と遭遇した場合、シルとルシェは一旦送還して、近接してから再召喚する事に決めている。

しばらく探索していると


「ご主人様、この先に2体のモンスターが潜んでいます。気をつけてくださいね。」


シルに感知されても攻撃が来ないのでシルバーオークではないのだろう。

そう思って近づいていくと突然、石の塊が凄い勢いで脇を通過していった。


「はっ?」


突然のことに呆気にとられてしまったが、モンスターの攻撃に違いない。


「シル一旦『鉄壁の乙女』を頼む。」


光のサークルの中で敵を凝視するとかろうじて影のようなものが目視することができる。

俺はシールドを構えてから、シルとルシェを送還して、そのまま蛇行しながら全速力で敵影に突っ込んでいった。


「ドガンッ!」


「ぐぅうー。」


シールドに石が激突しかなりの衝撃を受けてしまい、バランスが崩れそうになるのをなんとかこらえて更に近づき、敵を目視できる位置まで来たので、シルとルシェを再度召喚する。

再度展開された『鉄壁の乙女』の中で敵を確認するとそこにいたのは、シルバーオークではなくスリングの様な武器を持ったジャガーマンだった。見ている間にも絶え間なくどんどん石を投げ込んでくるので早めにかたをつけたほうが良さそうだ。


「ルシェ、右側の敵を頼む。俺は左側の敵を倒すから。」


この距離であれば魔核銃が十分届くのでバレットを射出する。


「プシュ」 「プシュ」


2発を頭部に命中させて難なく撃退することができた。もちろんとなりのルシェは既に戦闘を終わらせている。


「なっ、上手くいっただろ。私の言った通りだろ。うん、うん。」


確かにルシェの作戦通りに運んでさっきの戦闘よりはかなり楽に戦えた。ただやはり、敵との距離を詰める際の移動が問題だ。2回ともシールドに守られて助かったが、シールド以外の場所に当たったらただでは済まない。最悪、サーバントをカードに戻しているせいで、フォローを受けられないので死んでしまうかもしれない。

何かいい手は無いだろうか。う〜ん。『鉄壁の乙女』の加護を受けながらどうにか移動できないものだろうか。


しばらく探索を続けていると


「ご主人様、この先の奥にモンスターが3体います。注意してください。」


まずは遠距離攻撃を仕掛けてくるのか近距離なのかを見極める必要があるので、盾を構えたままゆっくりと距離を詰める


「ヒュン」


おおっ。矢が飛んできた。


「シル、『鉄壁の乙女』を頼む」


シルに『鉄壁の乙女』を展開してもらってからルシェだけカードに送還する。

ここからがさっきまでと違うところだ。


「きゃっ。ご主人様何をなさるのですか?戦闘中ですよ。」


「いや、色々考えたんだけど、これが一番いいんじゃないかと思って。」


俺はシルをお姫様抱っこしたまま、敵に向かって猛ダッシュし始めた。


「カンッ」


『鉄壁の乙女』は、俺を中心にしっかり機能している。

俺が考えた作戦は、シルが『鉄壁の乙女』を発動中、その場から動けないのであれば、俺がシルを運べばいいんじゃないかという事だった。

シルは小さくて軽いので、レベル17になった俺であれば、お姫様抱っこしても、余裕で走れた。


「ご主人様、恥ずかしいです・・・」


「いや、大丈夫だって。誰も見てないし、『鉄壁の乙女』も発動したままだし、やったな。」


「ご主人様がそんなに喜んでくれるなら、我慢します。」


敵はシルバーオークだったが、目前まで迫ってからシルをその場に下ろして、ルシェを再召喚する。


「なんでわたしだけカードに戻すんだよ。」


「いや、お前走るの遅そうだし、ゆっくり走ってると『鉄壁の乙女』の効果が切れちゃうだろ。」


「わたしも走るのは得意だぞ!」


「いや、普通に考えて遅そうだから。」


「う〜っ。それじゃあ、わたしはおんぶしてくれればいいだろ。」


「シルを抱っこして、ルシェをおんぶって、それは流石に無理だろ。どう考えても戦えそうにない。」


「いや、なんとかなるでしょ。」


いやなんともならないでしょ。


「とにかくルシェ、あっちの2体を頼む。俺は正面のやつを狙うから。」


「プシュ」 「プシュ」


やはり『鉄壁の乙女』の中から至近距離で狙えると外しようがないな。あっさりとシルバーオークを片付ける事が出来た。

ルシェも問題なく残りの2体を消滅させている。

さっきまで苦戦した相手を知恵と努力で凌駕する、俺は確実に成長している。

これからも知恵と努力を欠かさず探索を続けていこう。

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