第40話 謎の魔物
ニケが一方向を凝視したまま毛を逆立てていた。
近そうだな。
これは捕捉されたか……?
「敵集団の動きは?」
「真っ直ぐにこちらへ向かってきています。こちらの位置を正確に掴んでいる動きです」
敵集団との距離が二キロメートルを切ったと付け加えた。
「少し手間取りすぎたか」
唇を噛む俺にメリッサちゃんとロディーの声が重なる。
「あの短時間で六つの敵集団を殲滅しておいて何を言っているんですか……」
「若旦那、世間では瞬殺っていうんですよ」
言葉にこそしていなかったが他のメンバーも概ね同じことを言いたげな表情をしていた。
気付かないうちに大きな口を叩いていたようだ。
「そうだな、無傷で敵集団を三つまで減らせたことをラッキーだったと考えよう」
その残り三つの集団がどう考えても前者六つの集団よりも手強いのは間違いなさそうなんだけどな。
「ピーちゃんに牽制させますか?」
「頼む」
アリシアが上空にハンドサインを送った瞬間、ピーちゃんから
一キロ以上離れたところに着弾した攻撃が激しい爆音と爆風を生みだす。
遙か前方で樹木が放射状に薙ぎ倒される。
押し寄せる空気の壁に耐えながら、何人かが声にならない悲鳴を上げた。
違う。
爆音が悲鳴をかき消したのか。
リチャードさんとジェリーが風圧に耐えきれず地面に転がった。
見通しが甘かった。
広域の攻撃魔法を使わないよう伝えてあった。
牽制を目的とした攻撃という作戦だったし、これだけの距離があるのだから間違ってもこちらに被害はないだろうと思ったが、予想以上の火力だ。
これ、敵集団全滅したんじゃないのか?
「状況は!」
「敵集団が分断されました! 左側の集団に被害が出ているようですが、被害の状況までは分かりません!」
アリシアが続けて牽制するかと聞く。
「もう一撃頼む!」
ピーちゃんの攻撃でこちらに怪我人が出るくらいは織り込もう。
最優先は敵集団の戦力を少しでも削ることだ。
俺は謎の魔物がピーちゃんの攻撃で屍となることを祈りながら次の攻撃に備える。
「第二弾の攻撃が来る! 全員、衝撃に備えろ!」
反応したのはスハルの裔の三人とメリッサちゃん。
転がったままのリチャード氏とジェリーに駆け寄り、魔装を広範囲に展開すると同時にニケに呼びかける。
「風魔法で障壁を作ってくれ!」
「ミャ!」
ニケの鳴き声に続いて上空で再び光球が輝いた。
来る!
再び爆風が襲い、爆音が空気を震わせる。
樹木が薙ぎ倒されて障害物がなくなった分、先ほどよりも強烈だった。
背後を確認するとリチャード氏は辛うじて意識があったが、ジェリーは完全に気絶をしていた。
このあたりが限界か。
「第三弾を撃ち込みますか?」
顔を輝かせたアリシアが聞いた。
嬉しそうだな……。
「いや、ピーちゃんには上空から警戒をするよう指示を頼む」
「敵集団の一つがこちらへ高速で迫っています。数は五人と……、一匹!」
アリシアが緊張した声を上げた。
これだけ離れていてもこちらには即時戦闘に移れる者がいないというのに、敵にはそれができるのかよ。
しかも、謎の魔物の登場だ。
まいったな……。
「魔物が先行しています!」
「アリシアは下がれ! ロディーたちは商業ギルドのメンバーを頼む!」
俺はアリシアと入れ違いで最前列へと立つ。
見えた!
ライオン?
妙に表情豊かな顔をしたライオンのような魔物が、もの凄い速度で樹木をすり抜けて走ってくる。
初めて見る魔物だ。
「あの魔物の正体を誰か分かるか?」
返事がない。
事前情報なしで戦うしかないか。
幸い、テイマーの姿が見当たらないし、魔物と連携して襲ってくる連中がいないのも
敵集団がダメージから回復する前にこいつを叩く。
「マンティコアだそうです!」
背後からアリシアの声が響く。
振り向くとロドニーに抱き起こされたリチャード氏がアリシアに何か伝えていた。
「牙と爪でも攻撃してきますが、注意すべきは尻尾の先にある毒針と魔法攻撃です! あと、人間を騙すだけの知恵があります!」
「助かる!」
魔法攻撃と毒針ね。
知らなければこれまでの戦いの痕跡から牙と爪、体重にものを言わせた突進力だけに注意していただろう。
リチャード氏をこれほど心強く思ったことはない。
知識の重要性を痛感する。
俺はマンティコアに向かって駆けだした。
互いに加速する。
距離が瞬く間に縮まる。
「初手は牙と爪か」
マンティコアの爪を長剣で受け止めた瞬間、たてがみの隙間を縫って何かが飛び出した。
毒針?
尻尾ってこんなに長いのかよ!
人間を騙すだけの知恵があるのも織り込み済みだったが、尻尾がここまで長いとは計算外だった。
辛うじて毒針をかわして距離を取る。
「尻尾の長さを悟られないように動いていたとは、な……」
「ガルルル」
「ニケ、突っ込むぞ!」
踏み出した瞬間、足元が大きく波打つ。
地表を変形させたのか?
足をすくわれた瞬間、虚空からの雷撃が俺を襲う。
俺は地面の変形と雷撃の直撃を受けて吹き飛ばされた。
「やってくれるな」
ダメージはない。
すぐさま飛び起きて体勢を立て直す。
「お前、戦い方がエグすぎるぞ」
こいつを訓練したヤツは相当性格が歪んでいるに違いない。
「グルルル」
マンティコアが巨木の陰に回った途端、姿が消えた。
「ミャー!」
上か!
一瞬で巨木を駆け上がったのか?
頭上からマンティコアが攻撃を仕掛けてきた。
魔装をさらに強化し、攻撃を受けると同時に長剣で心臓を貫こうと身構える。
頭上からの攻撃を受けたと思った瞬間、背中に衝撃を受けた。
背後だと?
振り向きざま、何もない空間に長剣を振り下ろす。
手応えはなかった。
振り下ろした長剣はそのまま地面を切り裂く。
「どういうことだ?」
巨木の裏から姿を現したマンティコアがあざ笑うような笑みを湛えていた。
瞬間移動?
だとしたら、ヤバい……。
俺は背中に冷たいものが流れるのを感じた。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
あとがき
■■■■■■■■■■■■■■■ 青山 有
『無敵商人の異世界成り上がり物語 ~現代の製品を自在に取り寄せるスキルがあるので異世界では楽勝です~』が12月24日に発売となりました
皆様、改めてどうぞよろしくお願いいたします
作品ページです
https://sneakerbunko.jp/series/mutekisyonin/
Bookwalker様商品ページ
https://bookwalker.jp/deca6c822c-70af-447e-bee6-d9edb8a53c46/
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます