第34話 決断

 ゴートの森に入って二日目、先行している冒険者たちと出会うことはなかったが、獲物となるような魔物とも遭遇していない。


「乱獲の情報は本当のようですね」


 冒険者ギルドで仕入れた情報のなかに、無属性の魔石が採取できる魔物が乱獲されている、という情報があった。


 冒険者たちによる乱獲であれば魔石を含む素材が過剰供給となることはあっても、品薄となることはない。

 しかし、現実には入荷される魔石や素材の量が激減していた。


「メリッサさん、乱獲じゃなくて密猟ですよ」


 ガイが実態を口にした。


「密猟を認めたら、領主や代官の職務怠慢を認めるようなものだからな」


 リチャード氏の言葉にメリッサちゃんが反応する。


「ですが、何人かのギルド職員さんは、密猟、と言っていましたよ」


「教育がなっとらんな」


「それはそうかもしれませんが……」


「ヤツラ、普段通りなら丸一日も歩けばハグレのキングエイプに遭遇することもある、などと抜かしておったがハグレなんて気配すらないぞ」


 リチャード氏が気の毒なギルド職員に八つ当たりする。


「リチャードさんだって、その言葉を本気にしたわけじゃないですよね……?」


「聞いたときはな」


「え?」


「いま本気にした。たったいま、あの若造の言葉を信じた」


 帰ったら絶対に文句を言ってやる、などとリチャード氏が大人げないことを口にしだした。

 メリッサちゃんも反応に困っている。


 背後を気にしながらアリシアがおれにささやく。


「リチャードさん、お疲れのようですね」


「まだまだ余裕あるよ。本当にダメになったら口数が減るから」


 俺は口数が減ったリチャード氏を知っている。

 すると「ああ」と納得したようにうなずく。


「そう言えば、そうでしたね」


 と可愛らしい笑顔をうかべた。


「アサクラ様、やっぱり妙です」


 速度を落として俺に並んだガイが耳打ちした。


「何かあったのか?」


「何もなさ過ぎるんですよ」


 この規模の森でここまで魔物を見かけないのはおかしい。

 密猟されたキングエイプやブラックタイガーなどの無属性の魔石が採取できる魔物が少ないのは理解できるが、猛獣や魔物そのものが少ないといぶかしそうにした。


「確かにここまで魔物や獣にあまり遭遇していないな」


 どんな理由が考えられるのかガイに質問すると、


「よそから流れてきた強力な魔物がこの辺りを縄張りにした可能性があります」


「それはよくあることなのか?」


 ガイだけでなく、視線でアリシアにも答えを求める。


「魔術師ギルドで噂になったのを聞いたことがあります。そのときは冒険者登録をしていない魔術師も大勢お手伝いに行ったみたいです」


 アリシア自身は登録して間もないと言うことで特にかり出されることはなかったらしい。


「大勢の魔術師が必要な魔物の可能性があるってことか……」


「そうそうあることじゃありませんが……、本来生息しているはずのアーマードベアまで追いだす魔物となるとかなり危険です」


 冒険者ギルドと魔術師ギルドに応援を求めてはどうか、と聞いてきた。


「それは一旦引き返すということか?」


「全員で引き返す必要はありません」


「リチャードさんが連れてきた部下の一人を戻らせましょう。護衛は俺かロドニーが請け負います」


 雑用係の二人、そのうちの一人に伝言を頼むという提案である。

 妥当な案ではあるな。


 しかし……。


 ピーちゃんとアリシアを戦力外として、俺とニケがアタッカー。

 スハルの裔のうち、ガイかロドニーが抜けた三人にサポートを頼む格好になるか?


 正直自分の強さがよく分からないので判断が出来ない。


「ちなみに、アーマードベアってどんな魔物だ?」


「鋼の装甲を持った巨大なクマです」


 パワーでごり押しをするタイプか。


「ちなみにアーマードベアと戦って勝つ自信は?」


「あります」


 一対一では難しいがロドニーと二人がかりなら勝てると自信満々に言い切った。

 つまり、ガイたちの魔装で貫ける硬さということだ。


「アリシアはアーマードベアを見たことあるのか?」


「実際に戦ったことはありませんが、戦うところを見学したことならあります」


 水の精霊魔法が使えるので回復要員として同行した。


 そのときの戦闘も遠距離攻撃魔法で足止めと攪乱をし、とどめは魔装をまとった魔術師が槍で心臓を貫いたのだという。

 ここでも最後は魔装か……。


 俺の戦闘スタイルは敵の攻撃を真っ向から受けても、スピードとパワーにものを言わせてこちらの攻撃を叩き込むというものだ。

 スピードとパワーだけで戦う相手とは相性がいい。


 逆に相性が悪いのが技や知恵を使う相手だろう。

 魔物が俺を凌駕する技や知恵を備えているとは思えない。


「リチャードさんに相談しよう」


 スハルの裔が三人残ってくれれば十分に戦えると判断した俺はガイの提案を受け入れる方向でリチャードさんと話し合うことにした。






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        あとがき

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『無敵商人の異世界成り上がり物語 ~現代の製品を自在に取り寄せるスキルがあるので異世界では楽勝です~』が12月24日に発売となりました

皆様、改めてどうぞよろしくお願いいたします


作品ページです

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