第31話 冒険者ギルド(1)
ブラッドリー小隊長と別れた俺たち三人は冒険者ギルドへと向かうことにした。
目的は俺の冒険者登録と、お尋ね者となった冒険者五人の手配書が出回っているかを確認するためである。
その道中、メリッサちゃんが上機嫌で言う。
「アサクラ様が冒険者ギルドに冒険者登録するのは大賛成です」
「何故ですか?」
「お忘れですか?」
はて?
冒険者ギルドと関連するようなことが何かあったかな?
思い出せないでいる俺にメリッサちゃんが言う。
「森で狩った魔物の魔石や素材を露店で勝手に売りましたよね?」
「あー、そんなこともありましたね」
「ありましたね、じゃありませんよー。少しは反省してください」
メリッサちゃんが涙目で詰め寄った。
確か、魔術師ギルドへ登録に行くきっかけがそれだったな。
あのときは泣かれたんだっけ……。
「冒険者ギルドに冒険者として登録すれば魔石や素材を売っても問題はないんですよね?」
「冒険者ギルドに隠れて売ったら、それはそれで問題になります」
何だよ、それ。
結局問題になるのかよ。
「そんな顔をしないでください」
顔に出ていたようだ。
俺の顔をみてそう言うと、メリッサちゃんは冒険者ギルドに登録するメリットについて説明を始めた。
「基本、冒険者の方々は冒険者ギルドの依頼を受けて仕事をします」
たとえば、討伐依頼。
魔物の討伐が目的の依頼なので、討伐証明となる部位を冒険者ギルドに持ち帰り、これをギルド側が承認することで依頼完了となる。
このときに冒険者が手にした魔石や素材は冒険者の裁量に任せられる。
魔石や素材なら冒険者ギルドで買い取りもするし、魔石や素材を取り扱ったり加工したりする店に冒険者が直接販売することもできる。また、自らの武器や防具、魔道具の素材とすることも自由である。
ただし、入手した魔石や素材の種類と数はギルド側に申告する義務はあった。
魔石や素材の入手を目的とした魔物討伐は少し違う。
魔石の入手依頼や素材の入手依頼を請け負ってこれらを入手した場合であっても依頼主に直接納めることはない。
一旦、冒険者ギルドが冒険者から受け取り、冒険者ギルドの保証のもと依頼主に納められる。
これは魔石や素材が依頼の完了を判定に関わるためだ。
「――――入手した魔石や素材の種類や数を冒険者ギルドに申告せずに勝手に販売すると種類や数が把握できなくなるので禁止されているのです」
ちりも積もれば山となる。
少量であっても大勢が販売すれば把握は困難だと思うが、そこまで厳密に管理をしているわけじゃないってことか。
「要は、冒険者ギルド面目が保てれば問題ない、ということですね」
「身も
「ギルドに登録して相応の貢献度を積み上げられれば、多少のことは黙認するのも冒険者ギルドです」
あまり厳しくしても守れない者がほとんどなのでそのような対応をしているのだ、と付け加えた。
どっちが身も蓋もないのかと言いたくなる。
「あれが冒険者ギルドです」
十字路を曲がったところでメリッサちゃんが前方に見えた木造二階建ての大きな建物を指さした。
「随分と大きな建物ですね」
大きさだけなら商業ギルドの建物よりも大きい。
「大きいだけです。素材の質や堅牢さ、細部の造りは我々商業ギルドと比べるまでもありません」
昔はもっと小さくみすぼらしい建物だった。
しかし、十年程前、前任のギルド長が本館を建て替える際に「これからBIGになる俺たちにはBIGな拠点が必要だ!」と言って建てたのがこれなのだと言う。
「見た目だけ大きくて中身が伴っていないあたり、実に冒険者ギルドらしいです」
いろいろと複雑な過去がありそうだな。
「その対抗意識は未だに続いているんですか?」
「あたしたちは気にしていませんが、いいえ、気にもとめていませんが、彼らはことあるごとに愚痴っているようですよ」
面と向かって文句を言えるだけの力がないので陰で愚痴をいっているのだ、とメリッサちゃんが勝ち誇ったように言った。
トラブルの予感しかしない。
「登録に行って、無用のトラブルに巻き込まれたり嫌がらせをされたり、なんてことにはなりませんよね?」
「大丈夫です! 何かあったら我々商業ギルドが矢面に立ちます」
全然、大丈夫じゃないだろ、それ!
冒険者に絡まれて喧嘩になるくらいは許容範囲。
いや、むしろちょっとしたスパイスとしてチンピラ冒険者から
しかし、組織絡みの
「ダイチさんは魔術師ギルドのCランク魔術師なのですから、商業ギルドの登録者だと告げる前に、それを告げれば無用のトラブルを避けられるのではないでしょうか」
「あー! それです。それで行きましょう」
「魔術師ギルドに所属していると最初に告げればトラブルは避けられると考えて間違いありませんよね?」
メリッサちゃんに念を押す。
「きっと大丈夫ですよ」
「行きましょう」
腹を
◇
建物のなかは俺が想像していた通りの造りだった。
出入り口を入るとすぐに広い空間があり、左手に冒険者のスペースとギルド職員の執務スペースとを分断するようにカウンターが設置されている。
カウンターではギルド職員と冒険者たちがやり取りする窓口が並び、実際に何グループかの冒険者が受付嬢と会話をしていた。
冒険者たちが集まるスペースには三十人ほどが幾つかのグループに分かれて集まっている。
テーブルに着いて話をしている者、立ち話をしている者、掲示板に貼りだされた用紙を見ながら相談する者など様々だ。
急に高揚感が湧き上がる。
アニメや漫画で何度も見た光景、実際に自分もそんな異世界に行ってみたいと想像を
「これが冒険者ギルドか」
魔術師ギルドや商業ギルドでは、学生が高級ホテルに迷い込んだような場違い感があったがが、ここにはそれがない。
奇妙な居心地の良さすら感じられる。
もしかして、魔術師ギルドや商業ギルドよりも俺に会っているのかも知れないな。
「入り口で突っ立てるな、邪魔だ!」
「場違いだぜ、兄ちゃん」
俺たちの後から入ってきた冒険者が俺を押しのけながらカウンターへと向かう。
「そんなに場違いに映るのかな?」
「冒険者ギルドに登録している魔術師も大勢いますから、ダイチさんもそのうち馴染んできますよ」
「えー、まあ。アサクラ様は外国人ですからそう映ったのかもしれませんね」
アリシアとメリッサちゃんがどこかよそよそしい態度で答えた。
二人の反応を見れば分かる。
馴染んでいると思ったのは俺だけだったようだ。
まあ、いいか。
俺の目的は商人として成り上がることで、冒険者として認められることじゃない。
気を取り直して行動に移ることにしよう。
「さて、と。先ずは登録からかな」
俺は手近の空いている受付窓口へと向かって歩きだした。
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