第23話 事情聴取
衛兵の詰め所を尋ねたのは、俺とメリッサちゃん、アリシア、ブラッドリー小隊長の四人で、四人全員が部屋へと通された。
ブラッドリー小隊長は何かしら思惑があるようで身分を隠している。
俺は革張りの椅子に深々と腰掛けて辺りを見回しながら聞いた。
「
刑事ドラマで見るような
「尋問室なんてものはない。あるのは取調室だ。ついでに言うとこの部屋は応接室だよ」
ため息交じりにアーロン小隊長が言った。
この応接室、本来は衛兵のお偉いさんが来客を迎えるのに使う部屋だそうだ。
アーロン小隊長が口元を綻ばせて言う。
「俺もこの部屋を使うのは初めてだ」
「また何故ですか?」
「とぼけるなよ」
理由が分からず無言でいる俺に、アーロン小隊長が呆れた顔で続ける。
「紹介状だよ。ご領主様への紹介状を俺にこっそりと見せただろ」
「ああ、あれですか」
クラウス商会長が「念のためだ」とこの辺り一帯を治めるドネリー子爵へ宛てた紹介状を俺に持たせてくれていた。
駆け付けた小隊長にそれを見せたのを忘れていた。
この部屋に通されたということは衛兵の上層部にも効果があったと言うことだろう。
書状の中身を見せていないのにこの待遇か。
予想以上の効果だ。
「いつの間にそんなことを……」
「こっちも手間を取らせるつもりはないさ」
あのとき集まっていた露店の主人たちや住民たちからの聞き取りで、非は冒険者側にあることは分かっているから警戒をしないで欲しいと言った。
とはいえ、形式上、双方から聴取しないとならないとのことだ。
さらに、「それにな」と続く。
「あのとき、あんたを逮捕しようとしていた二人がいたろ? あいつらがあんたを逮捕すると息巻いていて、何をしでかすか分からない勢いなんだ」
「小隊長すよね? 部下のコントロールくらいお願いしますよ」
「あいつらは俺の部下じゃない。たまたま駆け付けるときに一緒になっただけだ」
あの場にいたアーロン小隊長の部下は、住民たちの整理に当たっていた二人の若い衛兵だけだと言う。
「参考までに教えて欲しいのですが、逮捕される理由は?」
「お前さんが反抗的だった。というだけで十分なんだ」
あの黒に近い二人か。
そもそもこちらの言い分も聞かずに、一方的に暴れた冒険者たちの言い分を信じていた。
「そんな横暴が通るんですか?」
俺の質問に「微妙なところだな」、と答えを濁した。
「まあ、なんだ。こうして出頭してもらったのも、あんたの身の安全のためでもあると受け取ってもらえると助かるよ」
アーロン小隊長が取り調べを行ってこの件を終わらせる。それであの二人の追求も終わるはずだと言った。
「それは、貸し、ってことですか?」
「そうなれば嬉しいと思っていたんだが……。あんたも色々と準備をしてきたようで、貸しが作れそうにないと落ち込んでいるところだ」
アーロン小隊長がチラリとブラッドリー小隊長を見た。
彼が騎士団の人間だと知っているのか?
俺はアーロン小隊長の反応を見なかったことにして話を進める。
「偶然が重なっただけですよ」
「そういうことにしておこう」
こうして形だけの事情聴取が始まった。
◇
応接室にアーロン小隊長の快活な声が響く。
「そうですか! あなたがハートランド様の自慢なさっていた後継者ですか」
ハートランド様とはセシリアおばあさんのことだ。
アリシアと同居できるのがよほど嬉しかったらしく、町のあちこちで彼女が錬金術師として、魔道具職人として、いかに優れた素質があるかを
それもハートランド子爵の後継者としてだ。
面食らったのはアリシアである。
まさかおよそ接触のなさそうな衛兵にまで伝わっているとは思っていなかった。
「後継者など過分なお話です。錬金術師としても魔道具職人としても見習いにしかすぎません」
「いやいや、ご謙遜を。Bランク魔術師でもあるとうかがっています」
アリシアもBランク魔術師なのか。
魔術が使えなければ錬金術師にも魔道具職人にもなれないから登録をしていて当然か。
俺は横に座っているメリッサちゃんに視線で「知っているか?」と問い掛けた。
彼女も知らなかったようでフルフルと首を横に振るだけだ。
アリシアも困った顔をしているし、事情聴取も終わったようし、そろそろ帰るか。
「アーロン小隊長、そろそろ帰りたいのですが?」
「ああ、急ぎだと言っていたな」
引き留めてしまってすまない、と言ってアーロン小隊長が立ち上がったそのとき、扉の向こうから怒鳴り声が近付いてきた。
その声を聞いたアーロン小隊長が顔をしかめる。
「何かあったんですか?」
「引き留めてしまって本当にすまないことをした」
俺の質問への答えとして謝罪の言葉を口にした。
先ほどと違って口調が暗く重い。
扉の向こうから聞こえてくる怒鳴り声が次第に近付いてきた。
「応接室だと! 犯罪者に対してどういう了見なんだ!」
はっきりと聞こえたその声には、俺に向けられた敵意が込められていた。
他の三人の顔色が変わる。
「アサクラ様……」
アリシアが不安そうに俺の腕へそっと触れた。
メリッサちゃんは商業ギルドの認識票を見える位置へと移動させると、俺にも商業ギルドと魔術師ギルドの認識票を相手から見える位置にだすよう指示し、さらに続ける。
「特に魔術師ギルドの認識票は身分を証明するものとして高い効力があります。衛兵程度では魔術師ギルドの者に無体なことはできません」
口ではそう言っているが顔は強ばっている。
不安があるようだ。
だがこちらには切り札がある。
ブラッドリー小隊長に視線を向けると、彼も無言で首肯した。
胸のなかにはニケも潜ませている。
最悪は無属性魔法と
ドネリー子爵邸に逃げ込めば活路も開けだろう。
「本当に、すまない。できる限り
アーロン小隊長がブラッドリー小隊長を見る。
「最悪のときは何とかしてくれ」
「承知」
ブラッドリー小隊長が即答した。
その瞬間、応接室の扉が勢いよく開かれる。
「アーロン、どういうつもりだ!」
姿を現したのは三十代半ばと思しき衛兵とそれに従う二人の衛兵。
後ろの二人は露天商通りで
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