第12話 露天商通りの戦い
「孤児院のために無茶はしないでください」
フィオナが悲痛な声を上げた。
俺は瞳を
「ダイチ・アサクラです、フィオナさん」
「アサクラ様、衛兵を待ちましょう」
懇願するフィオナの瞳から大粒の涙がこぼれる。
その顔は青ざめ唇が震えていた。
震える両脚で立ち、背中に子どもたちを
おっとりした大人しい娘だと思っていたが、芯の強さと初対面の俺を心配する優しさを持っている、いい娘じゃないか。
そんな彼女を泣かせた連中は絶対に許せない。
「お兄ちゃん、シスターの言うことを聞いて」
年長の女の子が声を震わせた。
他の子どもたちもフィオナの後ろから不安げにこちらを見ている。
どうやら俺がボコボコにやられるか、チンピラの言い分を信じた衛兵に捕らえられて投獄されると思っているようだ。
「アサクラ様、衛兵を待ちましょう! 彼らが衛兵との繋がりを
商業ギルドと衛兵との繋がりの方が強いと断言できない辺り、メリッサちゃんもチンピラたちの強気な態度に不安を感じているようだな。
改めて周囲を見回せば露店の主人たちや道行く人々が、足を止めて心配そうにこちらを見ている。
さて、注目の的だな。
身体強化は既に発動済み、魔装も全身に展開済みだ。
もちろん、ニケも目を覚ましている。
盗賊を生け捕りにしたときには油断して怪我を負ったが同じ失敗は繰り返さない。
今回は一方的にやらせてもらう。
「テメエ、後悔するぜ!」
「何、黙りを決め込んでるんだ! ビビったのかよ!」
まるで俺に手を出させようとするかのように、三人のチンピラが取り囲んで、二、三センチメートルの距離まで顔を近づける。
何とも安い
「臭いな! お前ら、臭うぞ! ちゃんと身体を洗ってるのか?」
周囲の人たちにも聞こえるよう、
俺の言葉に野次馬たちの間から笑いが漏れた。
「な!」
「ふざけんじゃねぇ!」
チンピラ二人が声を上げるタイミングに合わせて、彼ら三人の背後に
出口の向こうには鎮圧用のゴム弾を装填した銃。
「ウガッ」
「ゴフッ」
「グッ」
三人のチンピラの背中にゴム弾が命中すると同時に、
残ったのは衝撃と激痛。
その衝撃と激痛でチンピラ三人が前のめりに俺へ向かって半歩踏み込んだ。
チンピラたちの前頭部が頭突きの要領で、魔装を展開してある俺の額と側頭部に勢いよく触れる。
鈍い音が響いた。
傍目にはチンピラたちが俺に頭突きを食らわせたようにしか見えないはずだ。
「キャー!」
「アサクラ様!」
フィオナの悲鳴とメリッサちゃんの叫び声が響き、二人に続いて周囲の女性たちからも次々と悲鳴が上がる。
俺はよろけた振りをし、腕を折られて泣き
「ウギャー!」
膝を踏み抜かれた男の悲鳴と骨の砕ける音が響く。
「冒険者が若い商人に手をだしたぞ!」
野次馬の間から声が上がった。
ありがたいことだ。
これで完全に正当防衛だ。
油断すると
身体強化と魔装でガチガチに強化した
鈍い音が響いて三人の身体が一メートル以上浮き上がった。
人々の間から驚きと歓声が上がる。
これで残るは二人。
野次馬たち同様、驚きの表情で宙に浮いた三人の男たちを見上げていた残る二人に肉薄する。
突然目の前に現れた俺に驚いて、二人が反射的に剣を抜いた。
「剣を抜いたな!」
俺の声に人々の視線が落下する三人の男から二人のチンピラに剣を向けられている俺へと移った。
何から何まで思惑通り進む展開に自然と口元が綻ぶ。
これでお前らはお仕舞いだ。
眼前のチンピラ二人が剣を抜いたことを後悔する間も与えず、右の回し蹴りを脇腹に叩き込んだ。
俺の右脚が男の肋骨を砕いて肺を潰す。
「ガハッ」
もしかしなくても、こいつら魔装どころか身体強化すらできていない。
あと一人、ボス面をしていたヤツだ。
俺の左側面で剣を抜いて棒立ちになっているチンピラに狙いを定める。
最後の一人だし、派手に行くか。
半歩踏み込んでチンピラの股間を蹴り上げた。
「グッ!」
短い悲鳴を上げて一際高く浮き上がる。
一メートル以上浮き上がったチンピラの身体は腰の辺りがあらぬ方向に曲がっていた。
人々の間に静寂が流れる。
静寂のなか、空中で海老反ったまま地面に落下し、海老反り状態のまま二つ折りとなって転がった。
静寂から一転して歓声が沸き起こる。
「スゲーぞ、兄ちゃん!」
「何者なんだ?」
「スカッとしたぜ!」
「俺はあんたの味方をするぞ!」
俺は歓声に応えることなくメリッサちゃんとフィオナへと視線を向ける。
二人とも驚きの表情で涙を流していた。
「心配を掛けたようだね」
二人二微笑みかけると、人混みをかき分けるようにして武装した一団が近付いてきた。
衛兵だ。
さて、と。
早速、魔術師ギルドの後ろ盾を必要とするか、それとも商業ギルドの職員であるメリッサちゃんをはじめとした周囲の人たちの証言ですむか……。
或いは、クラウス商会長から貰った領主への紹介状が必要となるのか。
俺は人混みをかき分けて近付く衛兵たちを待つことにした。
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