第20話 冒険者たちの事情

「これまでの話を総合してどう思う?」


 武器と防具の店を出てすぐにカリーナに問いかけた。

 ここまで買い物しながら集めた情報を総合すると、タクラ村の近隣でゴブリンを頻繁に見かけるため、その駆除を村長名義で冒険者ギルドに依頼していた。


 正式に依頼を受注して派遣された冒険者パーティーは三つ。

 総数は十三名だった。


 だが、実際には正式に受注していないパーティーが七つも集まっていた。

 人数にして四十人弱。


「ゴブリンのおおよその数が判明していないにしても多すぎるわね。それに正式に依頼を受注してない冒険者たちのガラが悪すぎるわ」


 ゴブリン単体はもちろん、二十匹程度のむれであれば冒険者数人でも十分対応可能なほど弱い魔物である。


 だが、群れが大きくなると話が変わってくる。

 数の脅威もあるが、上位種に進化する個体が出てくる可能性があるのだという。


「上位種はやっぱり手強いのか?」


「属性魔法を使うゴブリンメイジや無属性魔法で身体強化を図ってきたり魔装をまとったりするゴブリンジェネラル以上がいると厄介ね」


 ゴブリンジェネラル以上の個体が複数存在した場合、いま集まってきている人数でも対処できるか難しいだろうと言い切った。


「バッサリと言うな」


「少なくともすれ違った冒険者の動きや装備を見る限り、Eランク、よくてもDランクってところじゃないかしら」


 冒険者のランクは見習いを指すHランクから始まって、上はAランクまで存在していた。

 Aランクの上にAAダブルAランクとSランクが存在するが、どちらも名誉ランクとなる。


 AAダブルAランクで伯爵以上の上位貴族に認められて、騎士爵などの一代爵を授かった者、Sランクともなれば、国王から爵位を授かるような功績を上げた者に贈られるランクなのだという。

 基本はAからGの七段階と言うことか。


「もちろん、戦闘力がそのままランクに繋がるわけじゃないのよ」


 ランク評価は功績が基本となる。

 それでも、Dランク以上の冒険者は相応の実戦を潜り抜けてきた猛者ばかりらしい。


「因みにカリーナのランクは?」


「Cランクよ」


 この年齢で中堅以上か。

 クラウス商会長の信用が厚いのもうなずける。


「よく分からないけど、かなり頼りになるってことでいいのかな?」


「まあ、それなりに経験は積んでいるつもりよ」


 はにかむような表情であるが、否定はしていない。

 短い付き合いだがおごるような娘じゃない。戦闘の実力も相当の腕があるのは間違いないのだろう。


 となると、カリーナと大差ない程度にキングエイプとやり合った俺も戦闘力だけなら相当なものなんじゃないのか?

 それに色々と試してみたいこともある。


 俺はステータスボードに映ったアイコンに視線をやる。

 デザートイーグル。


 現行の拳銃のなかでも最も破壊力のある弾丸を撃ちだせる。

 まさか、取り寄せられるとは思っていなかった。


 身体強化をした俺なら片手でも撃てる気がする。

 が、先ずは情報の整理が先だ。


 早速試し撃ちをしたい衝動を抑えて話を戻す。


「つまり、ゴブリンの規模が分からない以上、集まった冒険者の戦力も過剰かじょうとは言い難いわけか?」


釈然しゃくぜんとしないけどそうなるわね」


「何か引っかかるのか?」


「やっぱり、人数が多すぎるわ」


「不安要素があるなら教えて欲しいな。知ったからって対処できるとは限らないけど、知らなきゃ対処のしようもないだろ」


「そうね……」


 躊躇ためらうような表情を見せるカリーナにダメ押しをする。


「知ってたら無茶はしないと思うんだ。なあ、ニケ」


「ニャー」


 胸元からニケを取りだしてカリーナに渡す素振りを見せる、と優し気な笑みを浮かべて両手を差しだした。


「ニケちゃん、いらっしゃい」


 本当、チョロいな。

 ニケをカリーナに渡しながら聞く。


「それで?」


「ここから四日くらいのところにある村が、二ヵ月くらい前に盗賊に襲われて全滅したのよ」


 村一つ全滅とか、おだやかじゃないな。

 その村も周辺にゴブリンが頻繁に出没していて、冒険者ギルドにゴブリン駆除の依頼をだしたのだが、冒険者たちが到着したときには村が全滅していたのだという。


「その村に派遣された冒険者も大人数だったのよね……。しかも、冒険者たちはゴブリンの駆除をしないで帰ってきているの」


 人里ひとざと近くでのゴブリンの駆除依頼の場合、この領地では報酬の半額を領主が負担してくれる。

 依頼主である村長がいなくなったとしても、ゴブリンの駆除をしないで帰れば依頼は失敗扱いとなる。


 領主の依頼を失敗したとなると、違約金を支払う以上に冒険者としての信用問題だ。


「あたしだったら、捜索範囲を広げてでも恰好が付く程度の数のゴブリンを討伐するわ」


 個人的な感想を言えば疑わしいなんてもんじゃない。


「冒険者と盗賊がグルになっている可能性があるってことだよな?」


「想像よ」


 ニケを抱えたまま肩をすくめた。

 となると、こいつも確かめておきたいな。


 俺は再びステータスボードに表示されたデザートイーグルを見た。


「なあ、カリーナ。ちょっと試したいことがあるんだけど、少し付き合ってくれないか?」


「え? 別に構わないけど?」


 何をするのかと視線で問いかけられた。


「祖国の武器をちょっと試したいのと、威力や使い勝手についてカリーナの意見を聞きたいんだ」


 村のなかで武器の威力を試すわけにもいかない。

 俺は村の外、出来るだけ人目のないところへ行きたいと告げた。


「二人っきりは、ちょっと不用心過ぎるわ……」


 口調と表情に迷いがある。

 俺と二人っきりで村の外にでるのもまんざらじゃなさそうだな。


 よし、ここは押しの一手だろう。


「キングエイプ三匹を討ち取ったんだ、俺とカリーナなら大概の魔物は問題ないんじゃないのか? それとも、ゴブリンジェネラルは身体強化を使ったキングエイプよりも強敵なのか?」


「残念ながらキングエイプよりも強いわ」


 あれよりも強いのか。

 シャレになってないな。


 ゴブリンジェネラルを引き合いに出したのは失敗だった。

 ガラの悪い冒険者を引き合いにすればよかった。


「森とは反対側の草原の方じゃだめかな?」


 草原で拳銃の試射か……。


「森の浅いところなら大丈夫でしょう。それと、人目を避けるのはなしよ。遠目でもいいから隊商なり護衛なりの視界の範囲という約束なら付き合うわ」


「決まりだ! それじゃあ、行こうか」


 さて、カリーナへのお礼を何にするかな。

 ステータスボード越しにスイーツを選びながら、村の出口へと向かって歩きだした。


 そのとき肩に軽い衝撃を感じた。


「おい! どこを見て歩いてるんだ!」


 チンピラ風の冒険者が俺の眼の前で凄んだ。

 日本でこんなのに出会ったら、臆面おくめんもなく逃げだしていただろうな。


 運の産物とは言え、いまの俺には無属性魔法とトレードのスキルがある。

 まったく恐怖を覚えない。


「ぶつかったのはそちらでしょ?」


 余裕の笑みを浮かべて返した。


「何だと!」


「このガキ、ふざけたことを言いやがって!」


 たちまち数人の冒険者が俺とカリーナを取り囲む。


 さてどうしたものかな?

 デザートイーグルの威力をこいつらで試してやろうか。


 俺のなかで好戦的な感情が急速に沸き上がった。

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