閑話(新庄 充)

俺は新庄 充。二十九歳の会社員だ。唐突だが、俺には好きな人がいる。それは同じ会社の先輩、遠藤 夏美さんだ。


あれは、俺が会社に入ってすぐのことだった。


**

俺は大学を卒業し、すぐに今の会社に入った。初めての職場での挨拶のときにある一部の女性からの視線を集めてしまった。その理由は恐らくだが、俺の容姿にあると思う。


昔から俺は周りからカッコいいなどと言われ告白も多々されてきた。その関係で男友達はあまり出来ず、また女子達もそのことで揉めたりと俺の周りには問題が蔓延っていた。女子達に手伝いなどを頼んでもそれを対価にデートなどを要求してくるし、男子にはなんでアイツばっかと言われる始末。もうウンザリだった。


そのため、学生時代にいい思い出はほとんどなく軽い女性不信にもなったほどだ。



俺は鈍感主人公でもないので、今回もそういう視線だろうも分かっていた。チラチラじゃなく、ガッツリと顔や身体を見られる。ここでもか…。そう思い、内心憂鬱になりながらも挨拶をした。


ある時、俺は会社の機械の扱い方が分からないという事態に陥ってしまった。


こういう時、普通の人なら周りの人に聞くのだろうが、俺は中々それが出来ない。なぜなら、学生時代に男子には嫉妬の視線を向けられ、女子からは手伝いの代わりにデートに誘われるという経験があるからだ。


ただ、この機械の使い方が分からないと仕事にならないので、勇気を振り絞りながらも近くにいた女性社員さんに使い方を教えてもらおうと声を掛けた。


「あの…。すいません」


「はい…?」


「え…、いや、あの…。この機械の使い方を教えていただけませんか…?」


振り返ったその女性社員さんは驚くほどに綺麗な人だった。一瞬自分も見惚れてしまったほどだ。


「この機械ですか?これは、えーっと…。こうやって使うんですよ」


「はぁ、なるほど…。分かりました。ありがとうございます」


「ふふっ、どういたしまして」


俺は驚きだった。その人が俺に向ける視線は優しい視線だった。何も要求せず、普通に仕事を教えてくれる。俺にとっては初めての経験だった。


そして、彼女の笑みに胸を撃ち抜かれてしまった。



**

そこから恋と気がつくのに時間は掛からなかった。彼女を見ているだけで胸が高鳴ってしまう。話をするだけで幸せな気分になる。



俺にとっては初めての恋だった。今まで、女子には顔目当てで告白をされ、恋なんてするはずがないと思っていた。


それなのに……………。



だから今どうやって夏美さんと接すればいいか困っている。前は頑張って食事に誘ったのだが断られてしまった。でも俺は諦めない。いつか、絶対に告白したいし、あわよくばお付き合いを…。まぁ、今はその段階ではないけど…。でも、これだけは心の中で言わせてください。


好きです…。夏美さん。

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