第59話 激震の宇宙港

「誰だよ……エアカーで一時間って言った奴は……」


 デランは悪態をつく。


「……す、すみません」


 マイナは委縮して、謝る。


「おかげで検問に引っかからずに港まで来れたんだ。文句は言いっこなしだ」


 結局、港に辿り着くまで四時間もかかってしまった。

 マイナが方向オンチだということを失念していたのが失敗だったが、検問を見る度にハンドルを切ってかわすマイナの運転技術のおかげで厄介事に巻き込まれずに済んだのもまた事実であった。


「そうじゃ、ダイチの言う通りじゃ」


 フルートも味方する。マイナというよりダイチにだが。


「……そんなの、わかってるよ」


 デランはそう言って、周囲を見回す。


「イクミはまだ来てねえのか」

「ああ、連れ去られてなけりゃいいが」


 そうなったら呼び出してくれるはずだが、それがないということは問題は怒ってないのだろう。

 だったら、そろそろ空港に来てくれてもいいんじゃないか。


「……応答なし、か」


 呼び出してみても応答が無い。


「そろそろ予定の便が出てしまうわよ。出国手続きを始めないとまずいんじゃないの!」


 マイナはそわそわしだす。


「だけど、エリス達がいないんじゃ……」


 土星へ行く目的はエリス達の身体の手がかりがある天王星へ行く為。エリス達がいなければ、ダイチ達も行く意味が無い。かといって大金をはたいて購入した航空チケットを無駄にするのも勿体ない。

 かといって、エリス達を置いていくのは……と、堂々巡りが始まり、時間だけがいたずらに過ぎていく。

 三人に通話で呼びかけても、応答が無い。


「はあ……」


 ため息をつく。

 しかし、決断しなければならない。


「この星に残るか」


 チケットは確かに勿体ないが、三人を放ってこの星を出るわけにはいかない。


「まあ、しょうがねえか」

「大体、私達だけで土星に行ってもどこへ行ったらいいのかわからないでしょ」


 マイナの一言にダイチは「ごもっとも」と同意する。


『本日、クリュメゾン全域の旅客機全便を欠航です』


 そんなアナウンスが流れた。


「はあ、全便欠航!?」


 どっちにしても木星から出ることは出来なくなった。


「火星人を意地でもこの国から出さないつもりなのね」

「そこまでするか……」


 デランは呆れる。


『それでは、殺害された領主アランツィード氏より領主の座を引き継いだ新領主ファウナ様より意思表示の声明です』


 そう言われて、大スクリーンに視線を移す。


『兄アランツィードより領主の座を引き継いだファウナ・テウスパールです』


 映し出されたのは美しい桃色の髪をした少女であった。


「この人が、新しい領主……」

「……綺麗な人ね」


 マイナは呟く。


「ヴィーナス様ほどじゃないがな」

「そりゃ相手が悪すぎる」


 デランの一言に、ダイチは苦笑する。


「……しかし、綺麗だけど」


 ダイチにはその凛々しい顔立ちも憎しみの色に染まりあがって、怖い印象を受けた。


『私は領主になって最初に成し遂げたいことがあります。

それは殺害された兄の仇を討つことです。

兄を殺したのは――火星人です。

その火星人を捕らえるために空港を封鎖し、各所に検問を設置し、包囲網をひきました。

クリュメゾンに住まう皆様に不自由をかけてしまったことはお詫びいたします。

しかし! しかし! 私はどうしても兄を殺した火星人を許せないのです!!

この国の総力を挙げててでも、火星人を捕らえ、この手で処刑します!!

どうか、皆様に協力していただきたいです!!』


 憎悪に満ちた声で告げられた決意表明は、ダイチ達を呆然とさせた。


「火星人を処刑……?」


 連行されたエリスやミリアが心配になってきた。処刑という言葉はどう考えても穏やかじゃない。いくらエリス達が犯人じゃないとわかっていても、容疑をかけられ、連行された時点で処刑されないとも限らない。

 警官達の強引な連行と今のファウナの殺気だった声明を見る限り、あり得ない話じゃないように思える。


「エリス達は無事なのか……?」


 フルートの声で不安が増す。「大丈夫だ」と答えらない。


「イクミ……?」


 ダイチはもう一度、呼び出す。


ザザザァァーザザー


「……?」


 砂嵐のような音が鳴る。


「ジャミングじゃな」


 フルートは言う。何かを感知したようだ。


「ジャミング?」

「通信させないように国がかけてるのかもしれん」

「通信までさせないつもりか、徹底してるな」


 ダイチは困り果てるのと同時に少しだけ感心する。

 そこまでして火星人を捕らえるつもりなのかと。


「フルート、テレパシーは使えるか?」

「おお、よくぞ聞いてくれた!」


 フルートは嬉々として返答する。


「妾のテレパシーならば、どんなジャミングであろうと突破して会話できるぞ!」

「そいつは頼もしいな。ってか、それでエリス達にも連絡をとれるんじゃないのか?」

「ああ!?」


 デランの指摘でダイチは「その手があったか!」と驚く。


「しまったな……はじめからフルートに頼めばよかったな……」

「すまん、妾も提案すべきじゃったわ」


 お互い反省だ、と顔を見合わせる。


「……では、さっそく」


 と、フルートは精神統一しようとしたその瞬間であった。


ズドン!!


 鼓膜を破らんばかりの轟音が響く。

 爆撃で受けたのかと思った瞬間、武装した警官が集団で雪崩れ込んでくる。

 警官だとわかったのは、ホテルでエリスを連行していった警官達に装備と雰囲気が同じであったからだ。


(いけすかない連中だぜ……!)


 ダイチは身構えるが、事を構えようとまでは思えない。


「これより領主の命により、空港は封鎖する! 火星人はすみやかに連行する!!」


 リーダーと思わしき大柄の男が号令をかける。

 すると、警官達は瞬く間に周囲の旅客達の取り調べを始めた。


「IDスキャン……水星人が二人、金星人が一人」

「IDスキャン……木星人が五人」

「IDスキャン……火星人が三人!」


「ただちに取り押さえろ!」


 警官達はただちに火星人と他の星のヒトを判別している。

 おそらくIDカードの高速スキャンにより、判別しているのだろう。


(やべ……!)


 そうなってくると、ダイチのIDカードはまずい。

 何しろ、一応は火星人としてイクミが登録してくれたのだから。


「ダイチ、確かあんたのは……?」


 マイナがそれを察する。


「わりぃ、迷惑を掛けちまった……」

「見つかったら、厄介じゃな……気づかれないうちにずらかった方がいい……」

「ああ、その方がいい」


 ダイチ達は外へ出ようとした。

 そこで、一人の警官と視線が合う。


(――まずい!)


 そう思った時には、もう遅かった。

 その警官はこちらに歩む寄ってくる。


「IDスキャン……金星人一人、水星人一人……」


 いよいよダイチの番になった。

 デランやマイナは武器に手をかける。


ピピピーピッピィィピィィィィッ!!


 その途端、けたたましいエラー音が鳴り響く。


「な!?」


 警官は面を食らう。


(何が起きた?)

「センサーの故障か?」


 ダイチ達が驚いているうちに、フルートが何食わぬ顔で訊く。


(フルート、お前の力か!)


 テレパシーを始めとする不思議な冥皇としての力。それは警官達のセンサーにも干渉し、故障させることを造作もなく行えてもおかしくない。

 実際当人のとぼけつつも勝ち誇ったような物言いから実行したことは間違いないだろう。


「センサーが故障しても、問題なかろう。妾達は火星人ではないのじゃからな」

「ああ、そうだな。俺達は金星人と水星人の旅行者だし、火星人なんて知らねえよ」


 フルートのごまかしにデランが乗る。


「くッ……!」


 警官は歯噛みする。

 二人のごまかしを疑っているものの、センサーが故障しているから確証が得られないのだろう。


「どうした?」


 そこへ別の警官がやってくる。ダイチ達は「まずい!」と思った。


「ああ、こいつらをスキャンしようとしたら、センサーが壊れちまって」

「だったら、俺がスキャンするよ」


 警官がそう答えた瞬間、ダイチだけが目撃した。フルートの手が少しだけ光ったのを。


ピピピーピッピィィピィィィィッ!!


 別の警官からも、同じようにけたたましいエラー音が鳴る。


「な!?」

「お前のもか!」

「そんなバカな……二人同時にセンサーが故障するなんて!」


 唖然とする警官達に対して、フルートは得意顔になっている。


「もう気がすんだか?」


 警官達の神経を逆撫でにする。


「く、こうなったら、全員連行してでも!」

「ああ、それがいいな!」


 二人の警官が銃に手をかける。


「お、おい、マジかよ!?」


 センサーが故障して、ダイチ達は火星人達なのか確証さえないのに、「とりあえず連行」というのはいくらなんでも横暴すぎる。


「――!」


 デランは剣に手をかける。

 あの程度の警官だったら、百人いても蹴散らせる、と豪語するようにデランの技量なら二人くらいすぐに倒せるだろう。問題は倒したあとなのだが、とりあえずこの場を切り抜ける。その先のことまで考えている余裕はダイチ達には無かった。


「お前達、来てもらうぞ!」


 そう言って、警官が動き出そうとした時、事態がまた動き出した。


ズドン!!


 再び爆撃のような轟音が響く。


「な、なんだぁッ!?」

「敵襲か!?」

「敵襲って、北か、西か!?」


 警官二人がそんなやり取りをしていて、ダイチは逃げ出すなら今だと直感する。


「こっちよ!」


 それよりも先にマイナが動いて誘導する。

 ダイチ、デラン、フルートはそれに続く。


「あ、お前達! 待て!」

「いや、緊急招集だ! この襲撃はレジスタンスだ!」


 そんな警官二人のやり取りを耳にしつつ、ダイチ達は全速力でこの場を離れる。


「追いかけてこないな……」


 警官達が追ってきてないとわかって、足を止める。


「あいつら、敵襲だと言ったな」

「敵って誰よ?」

「そんなこと俺が知るかよ」


 マイナとデランが言い争いしている間、ダイチは考える。

 あいつらが敵と呼んでいたのは何なのか。

 まず最初に思いつくのが火星人。容疑をかけられて自分の身を守るために警官達に襲い掛かった、というのを想像してみたが、ここまで規模の大きい攻撃を仕掛けられるのだろうか。


「北とか西とか言ってたけど、何のことだったんだろう……」

「レジスタンスが襲撃してきた、とも言っておったのう」

「レジスタンス? 反乱軍みたいなものか?」


 響きだけを聞くとそうなるのだが、どうもダイチにはピンとこない。

 わからないことだらけで、どう動いていいのかわからない。


「ちょっと、様子をみてくるか」


 ダイチはいてもたってもいられなくなって提案する。


「え、ちょっと」


 マイナは止めようとする。


「いや、ここでじっとしててもしょうがねえ」


 デランは賛成する。


「まあ、そうじゃろうな」


 フルートもやれやれといった面持ちでダイチについていく。


「ちょっと、待ちなさいよ!」


 マイナはそう言いながらも置いてけぼりを食うのが怖くてついていく。


バァン! バァン! バァァァン!!


 廊下を進んでいくと銃声が鳴り響いている。

 警官とレジスタンスが戦っているのだろうか。

 足が震える。

 すぐそこで戦いが起こっている。

 金星でのテロ騒動よりも遥かに規模が大きいのは容易に想像がつく。それだけに恐怖を覚える。


(あの時は、エリスやミリアがいてくれた……だが、今はいない……

くそ! いつまでも頼ってばかりじゃいけないんだ!)


 勇気を出して一歩踏み出す。


ガシャン!!


 いきなり壁が崩れる。


「うわあッ!?」


 ダイチは驚いて仰け反る。


「ダイチ!」


 デランが前に出て、レーザーを剣で薙ぎ払う。


「わりぃ、助かった」

「礼なんて言ってる場合かよ!」


 デランがそう答えると、またレーザーが飛んでくる。

 廊下を抜けた先にあるエントランスホールでは激しい戦いが繰り広げられていた。

 武装した警官が同じく武装した集団を相手にしている。

 警官の方はハンドガンやスタンスティックといった支給品で襲撃した集団は、実弾銃や光線銃、金属剣やレーザーブレードと武器はは様々で統一されていない。しかし、連携は取れているらしく、一人ずつ警官を倒していった。


「警官達、おされているじゃねえか!」


 デランは状況を見て、言う。


「どうする、ダイチ?」


 フルートは訊く。


「……決まってる」


 一瞬迷ったが、すぐに決断する。


「空港を出るぞ!」


 警官達が劣勢に追い込まれているからって味方する義理は無い。

 自分達の身の安全を確保するが何よりも先決だ。


ドクン! ドクン!


 心臓が鳴りだす。

 以前、木星に来た時テロリストの襲撃を受けたことを思い出す。

 あの時、どうしたらいいかわからず人の波に飲まれてしまい、フルートを守り切ることが出来ず、本当に何も出来ないまま、連れ去られてしまった。

 あまりにも不甲斐なくて、もどかしかった。

 二度と繰り返すものかと自分に言い聞かせる。


(今度はそうはいかない、あの時とは違うんだ!)


 ダイチは駆け抜ける。


「――待て!」


 警官がそれを引き留めようと叫ぶ。


「待てと言われて待つ奴がいるか!」


 そう返して、エントランスホールを駆け抜ける。


バァン! キィィン!! ドォォォォン!


 銃声、斬撃音、爆音、様々な戦いの喧騒が鳴り響く。

 鼓膜がいかれそうなほど激しい音が絶え間なく響き渡り続けている。


ドォォォォォォォォン!!


 時折、床を揺るがすほどの衝撃が伝わってくる。


(まるでグラールの試合をみているみたいだ……)


 金星でのワルキューレ・グラールの試合を彷彿させるような戦いぶりだが、今はあの時みたいに観客で安全圏から見るだけとはいかない。

 今は、観客ではなく紛れもなく当事者。いつこの衝撃が自分達に身に降りかかってくるかわからない。


(怖がってる場合じゃねえんだ!)


 足をすくませるような恐怖を無理矢理飲み込んで突き進む。

 目指すは空港の出口。空港さえ出ればもう安全なはずだ。


「逃がすかぁッ!」


 そこへ警官が二人立ち塞がる。


「く、邪魔だ!」


 デランは迷いなく斬りかかる。


キィィィィン!!


 デランの剣と警官の警棒がぶつかる。


「チィ!」


 すかさずもう一人の警官が銃口を向ける。


「させるか!」


 ダイチは即座に光線銃を抜いて、銃を撃ち落とす。


「あぐ!」


――相手が怯んだら、迷いなく打ち込みなさい


 エインヘリアルでのパプリアの教えが脳裏をよぎる。

 短期間だが、何百何千と数えきれないほど打ち合った末に様々な戦いの心得を教えてもらった。それを今生かすときだ。


「でぃぃぃやッ!」


 教えられた通り、迷いなくレーザーブレードを打ち込む。


「ガハッ!」


 まともに頭に撃ち込まれて、警官は昏倒する。


「グハ!」


 その直後に警官が悲鳴を上げる声が聞こえた。デランが倒したようだ。


「貴様らぁ、何をしているッ!」


 そうこうしているうちに、また二人警官がやってくる。


「しつこいぜ!」


 ダイチはレーザーブレードでスタンスティックを受ける。


(こいつ、手ごわい!)


 手が痺れる感触からさっき倒した警官よりも数段上の実力者だと悟る。


キィィィン! キィィィン! キィィィン!!


 激しい攻めに、ダイチは防戦一方になる。


「何やっとるんじゃ! 反撃せんか!」


 フルートがヤジに似た声を飛ばしてくる。


(反撃する隙がねえんだよ!)


 心でそう答えて、スタンスティックを受ける。

 デランも同じように苦戦している。


ドォォォォン!!


 爆撃を受けたかのように空港が揺れる。

 それでダイチ達は体制を崩した。


「しま」


 った! と言う前に、突然警官の動きが止まる。

 側面の死角から何者かが攻撃したからだ。


バシャアアアアア!


 警官は血飛沫を上げて倒れる。


「あ、あ……!」


 血を見て動揺するが、そんな場合じゃないと奮い立たせる。


「ありがとう、ございます……」


 警官を斬り倒してくれた人に礼を言う。


「礼ならいらないわ」


 その人は長い黒髪をした女性で、凛とした佇まいで思わず見とれてしまう。だが、手に持ったレーザーブレードで一撃で警官を倒したことから間違いく手練れだと認識すると自然と身構える。


(助けられた、けど、この人は警官じゃない)


 つまり、空港を襲い掛かってきた集団で、テロリストかもしれない。

 テロリストには以前酷い目にあわされているから警戒せずにはいられない。


「早く空港を出なさい」

「え……?」


 思ってみなかったことを言われて、唖然とする。


「早く!」


 二度目は強い口調で促す。


「は、はい!」


 ダイチはそう答えて、出口へ走ろうとしたその時だった。


「逃がさねえぞ!!」


 そこへ巨人を思わせるほどの大柄な男が二人の青年を抱えてやってくる。


「た、隊長、すみません……」


 抱えられた青年は女性に向かって弱々しい声で謝る。


「よくも……!」


 女性は歯噛みしてレーザーブレードを握りしめる。


「レジスタンス第二隊隊長ユリーシャ・シャルマーク! お前で間違いないみてえだな!」


 巨漢はギラリと目を燃やす。


「俺はブラン巡査! お前を捕らえて、出世してやるぜぇッ!!」


 二人の男を投げ飛ばし、巨漢はスタンスティックを改造したレーザーブレードをかざしてくる。

 明らかに三メートル程もあって思わず圧倒される。


「でかい!?」


 マイナも同様にたじろぐ。


「でかいだけの能無しだろ、あんなのどうとでもなるぜ!」

「そういうことね」


 意外なことにユリーシャと呼ばれた女性はデランに同意する。


「あんなものをふりかざして、威張っているような奴に負けるものか!」


 ユリーシャは剣を構える。


「へ、気が合うじゃねえか」


 それを見て、デランは笑う。

 そうこうしているうちに、ブランが引き連れてきた警官に取り囲まれる。


「ダイチ、残りの雑魚は任せたぞ!」

「お前は?」

「聞くまでもねえだろ」


 その返答で、ダイチは察する。

 あのブランという巨漢、実にバトルマニアが好みそうな奴だからだ。


「こういうときのオーダーメイドのスティックだぜッ! こいつで出世街道を爆心するぜッ!!」


 どうみてもレーザーブレードなのだが、大きさは冗談じゃすまされないほど巨大であった。その図太い剛腕から振り下ろされるのは爆撃といっていい。


ズドォォォン!!


 ユリーシャは爆撃にも等しい攻撃を剣で受け止める。


「ぐッ!」


 一撃を受け止めて、足元がぐらつく。

 さすがに見た目が派手なだけあって、一撃の威力も相当なものだろう。


「やるじゃねえか!」


 デランはその隙をぬって、攻撃を仕掛ける。


「そんな攻撃が効くかよ!」


 ブランは肩当てでデランの一撃を受ける。


「おぉ!」


 デランは体制を立て直す。


「見掛け倒しじゃねえってわけか!」

「あんな一撃じゃ雑魚だって倒せないわよ!」

「次はちゃんとぶったおしてやるからよ!」

「いいえ! あれは私が倒すわ!!」


 デランとユリーシャはお互いに一歩ずつ詰める。


「二人がかりだろうが、関係ねえぜ!」


 ブランはすかさずレーザーブレードを振るう。


 距離はあっても、レーザーの熱気と風圧で十分射程距離となっている。


「お、俺達まで巻き込むつもりか!?」


 ダイチとマイナは取り巻きの警官達と戦いながら、ブランの攻撃をかわす。


「ぐえええッ!?」

「ぎゃああッ!?」


 かわせなかった警官は吹き飛ばされて悲鳴を上げる。


「味方ごと巻き込んでおかまいなしってわけね!」


 マイナはフルートを抱えながら、攻撃をかわす。


「ああ、フルートを頼む!」

「うむ、頼まれたぞ!」

「って、それ私の台詞よ!」


 そんなやり取りをしつつ、ダイチは警官をレーザーブレードで倒す。マイナもなんやかんやで攻撃をかわして、飛んできた瓦礫を蹴っ飛ばす。


『飛ばした物体を加速させてぶつける』


 それがマイナの能力であった。瓦礫をぶつけられた警官はたまらず吹っ飛ぶ。


「おお、やるではないか!」


 フルートはその様を見て、目を輝かせて褒め称える。


「あはは、それほどでも!」


 マイナは照れ笑いする。


バゴォォォォォン!!


 そんな乱戦の中心になっているのが、ブランとユリーシャ、デランであった。

 ブランの凄まじい一撃をユリーシャとデランが交互に受けつつ、反撃を与える。あの二人、この場に居合わせただけだというのに連携が取れる程に息が合っていた。


「やるわね!」

「そっちこそな! だが、いい加減決めるぞ!」


 デランは剣を構える。


「いいえ、私が決めさせてもらうわ!」


 ユリーシャは突進する。


「は! 獲物がそっちからやってくるとはな! 飛んで火にいる、なんていったか、まあいい! ぶっ殺してやる!!」


 ブランはレーザーブレードを振りかざす。

 ユリーシャは構わず突っ込む。


「お、おい!」


 デランは止めようとする。どうみても無茶な突撃だ。

 だが、デランは見た。ユリーシャの剣が大きくなっているのを。


「メタル・グランディール!!」


 思わぬ距離からの攻撃で、ブランは一撃食らう。


「がはッ!?」


 必殺の一撃で、ブランは仰け反る。


「それがお前の能力か!」


 デランをそれを見て、嬉々として突っ込む。


「だったら俺も見せてやる!!」


 デランの左腕が銀色に輝く。


「いくぜ! 研ぎ澄ませ、メッサァァァァッ!!」


 文字通り奥の手である必殺の剣と化した左腕を存分に振るう。


ザシュゥゥゥゥッ!!


 真一文字に斬られたブランはぶっ倒れる。


「ちくしょう! せっかくの出世チャンスだったのによ!! 今度あったら絶対にぶっ殺してやる!! 一対一だったら絶対に負けないぜ!!」


 元気に負け惜しみを言っている。

 これにはデランも仕留めそこなったか、踏み込みが足りなかったかと反省する。


「なんだってんだよ、こいつ……」

「わけがわからないけど、手ごわい敵だったことは確かね」


 ユリーシャは爽やかにデランに言う。


「ああ、そうだな」

「あなたのおかげで倒せたわ」


 ユリーシャは手を差し出す。デランはそれに応じて握手する。


「私はユリーシャ・シャルマーク」

「俺はデラン・フーリス。あんた、強いんだな」

「あなたの方こそね。その力、金星人かしら?」

「ああ」


 デランはそう答えるやいなや、斬りかかってきた警官の相手を受けて立つ。


「これでも騎士目指してるんでな!」

「そう!」


 ユリーシャは自分を狙って飛んできた銃弾を剣で弾く。


「だったら、ここを切り抜けて早く脱出しなさい!」

「そのつもりなんだが、こいつらがそうさせてくれないんだ!」

「早くしないと攻撃に巻き込まれるのよ!」

「攻撃?」


 デランはその発言に違和感を覚える。


「攻撃してるのはお前ら、レジスタンスじゃねえのか!?」

「いいえ、違うわ。私達はここにいる人達を解放するために来たのよ、攻撃に巻き込まれないためにね」


 デランにはさっぱりのみこめない返答だったが、率直に出た疑問を口にする。


「じゃあ、その攻撃って何なんだよ?」


 ユリーシャは外を見張らせるテラスへ目を向けて答える。


「攻撃は、――外からやってくるのよ!」

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