汚くねえよ

 向かい合う響とフォルネウスイヴィルダー。二人はジリジリと動き出し距離を詰めていく。そして先に動き出したのは、フォルネウスイヴィルダーであった。

 フォルネウスイヴィルダーは地面に落ちた剣を拾いに行こうと走り出すが、それを追うように響も走り出す。 しかしフォルネウスイヴィルダーが剣を拾うのを阻止することはできず、剣は拾われてしまう。剣を拾われたことを確認した響は、後ろに下がり距離を取る。


「ふー……」


 フォルネウスイヴィルダーは剣を構えると、ゆっくりと響に近づいてくる。それに合わせて響はゆっくりと後ろに下がる。

 平行して移動する二人であったが、フォルネウスイヴィルダーが走り出して距離を詰めていく。観念した響は、フォルネウスイヴィルダーに向かって走り出すのだった。

 近づいてくる響に向かってフォルネウスイヴィルダーは剣を振るうが、響は姿勢を低くして前転することで攻撃を回避する。

 フォルネウスイヴィルダーの背後を取った響は、立ち上がると大きく回し蹴りを仕掛ける。後ろからの攻撃にフォルネウスイヴィルダーは体を回転させると、剣で蹴りを迎撃する。

 足と剣がぶつかり合うが、両者の力は互角で鍔迫合う状態となる。埒が明かないと思った響は、片足だけで後ろに跳躍する。


「っち……」


 両足で着地した際に剣とぶつかり合った足が痛んだ響は、チラリと視線を向ける。するとつま先からわずかに血が流れていた。すぐさま重心を動かすことで、異常がないことを確認する響であったが問題は無かった。


(痛むけど移動には支障は無いな……)


 とは言え傷ついた足を狙われないように、無傷の足を前に出して構えを取る響。それを見たフォルネウスイヴィルダーは小さく笑うのだった。


「何が可笑しい?」


「いえ、君はどんどん傷ついてると思いましてね……その力を持ち続ければ、これからも傷ついていくでしょうね」


「は! 傷をつけた元凶の言葉かよ」


 響はフォルネウスイヴィルダーの言葉を笑って一蹴すると、痛みなど感じないように走り出し距離を詰めた。そして距離を詰めた響は、フォルネウスイヴィルダーに向かって殴りかかる。

 襲いかかる攻撃をフォルネウスイヴィルダーは空いた手で受け流すと、前に出てその手に持った剣で響に斬りかかるのだった。

 すぐさま一歩後ろに下がった響は横薙ぎに振られた腕を掴むと、そのまま捻じって体を半回転させると一本背負いを仕掛ける。


「な!?」


 まさか一本背負いをされると思わなかったフォルネウスイヴィルダーは驚いた声を上げ、そのまま背中から地面に叩きつけられる。

 倒れたフォルネウスイヴィルダーの腕を響は更に捻じり上げると、そのまま全体重をかけて腕を破壊しにかかる。


「がああああああぁぁぁ!」


 フォルネウスイヴィルダーの肩から鈍い音が鳴り響き、苦しみと痛みに悶える声が周囲に響き渡る。そのまま響は遠慮なくフォルネウスイヴィルダーの体を蹴るのだった。

 肩の痛みに耐えながらもフォルネウスイヴィルダーは立ち上がるが、サブミッションで責められた肩は動きが目に見えて鈍くなっていた。

 響は背中から大剣を抜くとそのまま両手で構えを取る。そしてフォルネウスイヴィルダーに向かって斬りかかるのだった。

 近づいてくる響の攻撃を手に持った剣で防御するフォルネウスイヴィルダー。しかし両手と片手では込める力が圧倒的に違うために、徐々にフォルネウスイヴィルダーは分が悪くなっていた。

 一気に大剣に力を込めて響は斬り上げると、続けて上から下へ勢いよく大剣を振り下ろした。フォルネウスイヴィルダーの体を切断こそ出来はしなかったが、体に深々と傷をつけた。


「仕留め残ったか……」


 フォルネウスイヴィルダーの胸にできた傷を見て響は残念そうに呟く。そのまま後ろに下がったフォルネウスイヴィルダーに目掛け、大剣を振り上げて攻撃を行うのだった。

 襲いかかる大剣を防ぐために、手に持った剣で受け流すフォルネウスイヴィルダー。しかし響は続けて大剣を右薙ぎに払って追撃する。

 フォルネウスイヴィルダーも攻撃に反応して剣で防御するが、勢いは殺すことはできずにそのまま吹き飛ばされてしまう。


「く……」


 防戦一方となったフォルネウスイヴィルダーは、サブミッションを受けた半身を守りながら苦しげな表情で声を上げる。そして剣を離して地面に落とすと、懐からブエルのイヴィルキーを取り出すと、左腕に装着されているガントレットに差し込むのだった。


「まさかこんなに早く使わされるなんて……」


〈Buer!〉


〈Buer! Ability Arts!〉


 ガントレットから認証音が鳴り響くとフォルネウスイヴィルダーの背後に、ライオンの頭にヤギの足が五本生えた異形ブエルが現れる。

 ブエルは五本のヤギの足を器用に動かしてフォルネウスイヴィルダーを撫でる。すると何ごとも無かったかのように、フォルネウスイヴィルダーは両腕を回し始めるのだった。


「くそが……何度も見ているけどそれアリかよ」


 先程まで重傷であったはずの肩を軽々と回すフォルネウスイヴィルダーを見て、響は悔しそうに呟く。しかし響は大剣を手放すが諦めずに、フォルネウスイヴィルダーに向かって走り出す。

 近づいた響はフォルネウスイヴィルダーへと回し蹴りを放つ。だがその一撃は小さく屈むことで回避される。すぐに続けてフォルネウスイヴィルダーに殴りかかるが、それを手で掴まれてしまう。


「ふん!」


 フォルネウスイヴィルダーは掴んだ響の頭をそのまま壁に叩きつける。叩きつけられた壁は崩れ落ち、響は地面を転がっていく。

 すぐに立ち上がった響はジャンプをすると、フォルネウスイヴィルダーの頭上を飛び越えて背後を取る。そして後ろ蹴りを叩き込むのだった。

 後ろ蹴りが命中したフォルネウスイヴィルダーは一瞬バランスを崩すが、即座に姿勢を立て直す。

 響はその隙に殴りかかるが、フォルネウスイヴィルダーは紙一重で回避する。返しに剣を振るうフォルネウスイヴィルダーであったが、その一撃は空を切るのだった。

 響はフォルネウスイヴィルダーの体を掴むと、そのまま引っ張っていく。そしてそのまま炎上しているバスに顔を叩きつけるのだった。

 バスに叩きつけられるたびにフォルネウスイヴィルダーの顔から、肉が焼けるような音が鳴る。それでも響は叩きつけるのを止めず、何度も叩きつけた。


「そぉらあああ!」


 そしてフォルネウスイヴィルダーの後ろに移動すると、腰を両腕で抱え込んで後ろにブリッジする。受け身を取れなかったフォルネウスイヴィルダーは、頭から地面に叩きつけられる。

 すぐに拘束を外した響は距離を取ると、デモンギュルテルに装填されたイヴィルキーを二度押し込む。


〈Finish Arts!〉


 

 デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと共に、巨大な竜の影が響の背後に現れる。そして響はジャンプするとフォルネウスイヴィルダーに目掛けて飛び蹴りを放つ。それと同時に竜が響に向かって炎を放つのだった。

 フォルネウスイヴィルダーは起き上がるが、響の攻撃はすでに目の前まで近づいており、避けることは叶わなかった。

 炎をまとった響の一撃はフォルネウスイヴィルダーとバスを貫いて、地面に着地するのだった。


「があああぁぁぁ!」


 巨大な爆発と共にフォルネウスイヴィルダーの悲鳴が響き渡る。そして地面には小さく乾いた音と共にフォルネウスのイヴィルキーが落ちていた。


「あ? どうゆうことだ……」


 響はフォルネウスのイヴィルキーを拾い上げるが、頭に浮かんだ疑問を口にする。周囲をいくら探しても、イヴィルダーに変身していた人間が見つからないのだ。

 いくら探しても変身者が見つからなかったために、響はデモンギュルテルからイヴィルキーを抜き取ると変身を解除する。そしてレライエと合流するために走り出した。




 十分以上レライエを探すことで、ようやく響はレライエと合流する事ができた。レライエは先程の姿と比べて煤で服が黒ずんでいて、響に服を見られると恥ずかしそうに腕で隠した。


「レライエ! そっちはどうだった」


「ん……けが人が居たけど安全な場所に移したよ……」


「どうかしたか?」


「ちょっとね……ほら、煤で汚くなってるから見られたくないなって……」


「汚くねえよ、一生懸命やってくれたって証じゃん」


 響の言葉を聞いたレライエは恥ずかしさで顔を赤くしてしまい、バシバシと響を軽く叩いてしまう。痛くないとはいえ叩かれるのになれなかった響は、レライエを止めようと両手を掴むのだった。


「じゃあ帰るかレライエ」


「ああ……そうだな響」


 二人は並んで歩き出すと、家に帰る道をたどっていくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る