策謀

 目の前に現れた巨大なサメを見た響は、危険を感じてすぐにサメから離れるように後ろに下がる。後ろに下がりながらも響は、怪物達を喰らいつくしたサメを観察する。すると見覚えのある姿であった。

 響の頭にある疑念が浮かび上がる。――あれはフォルネウスイヴィルダーの生み出したサメではないか? すぐに響は腰にデモンギュルテルを生成する。


〈Demon Gurtel!〉


 響の腰に黒いベルトが生成されると同時に、響は懐からアスモデウスのイヴィルキーを取り出す。そしてすぐさまイヴィルキー起動させれるように、スイッチに手をかける。

 すぐさま変身できるようになった響は周囲を見渡すと、炎の中から人影が歩いてくるのを発見する。警戒しながらも響は物陰に隠れるのだった。


「ふむ……倒したガーゴイルから何かを呼び出せるかと思いましたが……うまくいきませんね。何も出ないならこんな派手に爆発など起こさなかったのですが……」


 炎から現れたのはフォルネウスイヴィルダーであった。フォルネウスイヴィルダーは残念そうな声で一人つぶやきながらも、ショッピングセンターから離れようとする。

 フォルネウスイヴィルダーの言葉を聞いた響は、考えるよりも先にフォルネウスイヴィルダーの前に姿を出てしまう。

 響の姿を見たフォルネウスイヴィルダーは興味深そうな声を出し、顎を指でなぞり始める。


「おや、君はキマリス君じゃありませんか。こんな所で何を?」


「一つ聞かせろ、なんでこんな事をした?」


「そんなことを知りたいのですか? まあいいでしょう。簡単です、ガーゴイルを呼び水として深淵界アビスの住人を呼び込もうとしただけですよ。まあその過程で起きる被害など、どうでもいいですが」


「どうでもいい?」


 フォルネウスイヴィルダーの言葉を聞いた響は、握りしめた手を震わせながらも、怒りに燃えた目をフォルネウスイヴィルダーに向ける。


「ならお前をここで倒す!」


〈Asmodeus!〉


 そう叫んだ響は手に持ったアスモデウスのイヴィルキーを起動させると、デモンギュルテルに装填する。


「憑着!」


〈Corruption!〉


 起動音とともにデモンギュルテルの中央部が観音開きとなり、そこから竜の姿を象った黒色のオーラが現れる。

 竜のオーラは響の周囲を飛行しながら周辺の炎を消し去ると、そのまま響に一直線に突っ込んでいく。

 そして響と竜のオーラが一つになると、背中に大剣を背負った全身が黒に染まった竜の意匠を持つ異形、アスモデウスイヴィルダーに変身した響が立っていた。

 アスモデウスイヴィルダーに変身した響を見たフォルネウスイヴィルダーは、右手にノコギリザメの頭部を模した剣を生成すると、両手で持ち直し構えを取る。

 先に動き出したのは響であった、一気に距離を詰めるとストレートをフォルネウスイヴィルダーの頭に向かって放つ。しかしその攻撃をフォルネウスイヴィルダーは首を横に動かすことで回避する。


「はぁ!」


 攻撃を避けられた響は続けてフォルネウスイヴィルダーに向かって右上段回し蹴りを放つ。だがフォルネウスイヴィルダーは腕で回し蹴りを防いでしまう。

 響が攻撃した隙を狙って手に持った剣を横薙ぎに振るうフォルネウスイヴィルダー、響に向かって刃が襲いかかるが、響は剣の腹を親指と人差し指で掴むことで防ぐ。

 力を込めることで攻めようとするフォルネウスイヴィルダーと、防御する響。しかし右半身を脱力させた響が、舌から右フックでフォルネウスイヴィルダーに攻撃を仕掛ける。



「っく……」


 攻撃を避けるために後ろに下がるフォルネウスイヴィルダーだが、その瞬間剣に込めていた力が緩んでしまい、剣を掴んでいた響の手も自由になってしまう。

 縛るものが無くなった響は、片足に力を込めて一気に前に飛び出すと、フォルネウスイヴィルダーにタックルを仕掛ける。

 回避をしている瞬間を狙われたフォルネウスイヴィルダーは、タックルを避けることができず食らってしまう。

 タックルを受けたことで、背中から地面に叩きつけられるフォルネウスイヴィルダー。続けて響は追撃するようにフォルネウスイヴィルダーの上に飛び乗り、マウントを取る。


「オラァ! オラァ! オラァ!」


 馬乗りの状態から響はフォルネウスイヴィルダーの顔面に向かって、力を込めて両手で殴りかかる。

 一発、二発、三発、連続で襲いかかる攻撃を、フォルネウスイヴィルダーは避けることもできずに命中していく。

 マウントを取られいるフォルネウスイヴィルダーは、動かせる範囲で響に向かって剣を振り回す。襲いかかる剣を、響は咄嗟に後ろに距離を取ることで回避しようとするが、間に合わず顎をわずかに斬られてしまう。

 上にいた響が居なくなったことで立ち上がるフォルネウスイヴィルダー。響は顎の傷を確かめるために指で触るが、少量の出血だけで済んでいた。


「ふん……やってくれますね」


「は! 言ってろよ」


 再び構えを取る両者。そしてまず動き出したのはフォルネウスイヴィルダーであった。走り出し距離を詰めると、響に向かって剣で突きを仕掛ける。

 すぐに横に避けることで回避した響は、近づいてくるフォルネウスイヴィルダーの勢いを利用して、ストレートをみぞおちに叩き込んだ。


「ぐ……」


 寸分の狂いもなく命中したストレートによって、苦悶の声を上げるフォルネウスイヴィルダー。更に続けて響は屈んだフォルネウスイヴィルダーの背中に向かって肘打ちを加える。

 背中にエルボーを食らったフォルネウスイヴィルダーは後ろに下がろうとするが、響によって体を両手で掴まれてしまう。


「そぉらあああ!」


 そのまま勢いをつけた響は壁に向かってフォルネウスイヴィルダーを叩きつける。フォルネウスイヴィルダーをぶつけられた壁は崩壊して、粉塵が上がっる。

 響は構えを解くこともなく、粉塵に隠れたフォルネウスイヴィルダーの動きを観察する。程なくして粉塵の中から剣を振りかぶっているフォルネウスイヴィルダーが現れる。

 剣で斬りかかるフォルネウスイヴィルダーだが、剣を持った腕を響は手で掴み上げることで防御する。

 そのまま掴んだままフォルネウスイヴィルダーの脇腹に向かって、ミドルキックを叩き込み。そして剣を持った腕を離して距離を取る。


「調子に……」


「乗るんじゃねー!」


 フォルネウスイヴィルダーの言葉を遮るように、響は叫びながらジャンプすると、そのまま両足を揃えて蹴りを放つ。

 大技のドロップキックを見たフォルネウスイヴィルダーは、すぐに横に移動することで回避する。

 避けられた響は着地すると、そのまま連続でパンチをすることで攻めにかかる。素早い動きで放たれるパンチを避けるフォルネウスイヴィルダーだが、遂に一発攻撃を受けてしまう。

 隙を見せたフォルネウスイヴィルダー。すぐさま響は剣の柄頭に向かって鋭い蹴りを叩き込んだ。


「しま……」


「よそ見をするなぁ!」


 柄頭に蹴りを受けた剣は、フォルネウスイヴィルダーの手を離れて地面を滑っていく。咄嗟に剣が落ちた方向に視線を向けてしまったフォルネウスイヴィルダーの頬に、響のストレートがめり込むのだった。

 ストレートをくらったフォルネウスイヴィルダーの体は、そのまま地面に叩きつけられる。

 倒れたフォルネウスイヴィルダーに近づいた響は、そのままフォルネウスイヴィルダーの両足を掴むと体を回転させる。


「そおれ!」


 十分に勢いが付いた瞬間を見計らった響は、フォルネウスイヴィルダーの足を離して壁に頭から叩きつける。

 ジャイアントスイングをくらったフォルネウスイヴィルダーは、頭を抱えつつ地面をのたうち回るのだった。


「まだだ!」


 追撃をかけるように響はジャンプすると、そのまま膝を曲げて攻撃を加えようとする。しかしフォルネウスイヴィルダーは迎撃するように回し蹴りを放ち回避した。

 回し蹴りをくらった響は、体を横に回転させて地面を転がり、すぐに立ち上がる。


「どうした? そんなものか?」


 挑発するように響は指を立てて、あからさまにアピールする。それを見たフォルネウスイヴィルダーは苛ついた様子を見せた。

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