踏みにじる悪意
時間は響が椿のメールを見て、急いで食堂に向かう少し前まで戻る。
食堂は昼食を取る生徒でごった返し、空いてる席はほとんど無く、探すにしても細かく見ないといけないほどに混雑していた。
そんな生徒で混雑している食堂で、椿は珍しく学食を食べていた。学食を食べている理由は、今日寝坊してしまい弁当を作れなかったためだ。
なので椿は学食を注文してお昼を過ごしていたが、彼女が学食を食べきった瞬間、反射的に目を瞑ってしまうほどの突風が食堂を襲う。
「きゃあああぁぁぁ!」
いきなり吹きあふれる突風に、顔を両腕で隠し悲鳴を上げる椿。学食に居た周囲の生徒達も、悲鳴を上げて周囲は阿鼻叫喚の渦に巻き込まれるのだった。
そんな中、突風が収まったために目を開けた椿の視界に赤い影達が現れる。それは響達の前にも現れたカラスの翼を背中にはやした、赤い顔の異形であった。
異形達は翼をはためかせて空を飛びながら食堂に侵入する、それを見た生徒達は恐怖し、悲鳴を上げて逃げ出すのだった。
逃げ出す生徒達を見て異形達は、まるで嘲笑するかのような声を上げる。次の瞬間生徒に襲いかかると、襟を掴み上げるそのまま空中に飛び上がる。
椿は近くにあった机を倒してまるでバリケードのようにすると、即座に机の影に隠れる。そして急いで響に助けて欲しいとメールを送る。
そうして響に助けを求めている間にも、増々生徒達は異形に襲われて空中に持ち上げられていく。中には蛍光灯に吊り下げられる生徒も居た。
「げげげ!」
まるで悲鳴を上げる生徒を見て、楽しむかのように笑い上げる異形。遂には生徒を高所から離してそのまま床に叩きつけることまでしだす。
そして遂に異形は隠れている椿を見つけて、襲いかかろうと翼を羽ばたかせながら近づいてくる。
「ひっ……」
怯えた様子の椿を見るとまるで嗜虐的な笑みを浮かべながら、わざとゆっくりと近づいていく異形だったが、次の瞬間、真横に吹き飛ばされるのだった。
「ぎゃ!」
「え……」
一体何が起きたのか、まるで訳がわからなかった椿であったが、吹き飛んだ異形を見るとすぐに理解する。そこには異形を踏みつける響の姿があった。
「ゴメン椿君! 遅くなった!」
「先輩! いえ遅くないです!」
異形を踏みつけながら無事な異形を睨みつける響、そんな響のそばに近づいていく椿であったが、次の瞬間空を飛んでいた異形が響と椿の間をすり抜ける。
「きゃ!」
「椿くんはこの場から逃げて! ここは何とかするから」
「は、はい。頑張ってください!」
椿は逃げ遅れた生徒を助けて食堂から逃げるように走り出す、その無防備な背中を狙おうとする異形達を、響は牽制するように威嚇するのだった。
「おら! こっちを見ろよ!」
「げげげ、げー!」
空中から急降下して響に襲いかかる異形であったが、響は一番近くにあった長机を持ち上げると、そのまま異形の頭に叩きつける。
長机で頭を叩きつけらた異形はそのまま地面に落下する。それを見た他の異形達はまるで笑いもののように笑う。
「こいつら笑ってやがる……」
『響! こいつらは天狗だ。人間も同族も玩具にしか思ってない』
『天狗ね、どっちにせよ友好的じゃなさそうだ。遠慮はいらないな!』
笑う天狗を見て不気味に思う響、そんな中キマリスは異形の名前を響に教えるのだった。
そして別の天狗が空から急降下して響に襲いかかる。しかし響は余裕で回避すると、そのまま天狗の頭を掴み上げ、食堂にあった業務用の食器洗い機に顔を突っ込む。
水攻めされた天狗は逃げようと翼や体をジタバタするが、そんなこと関係ないと響は天狗の顔を水面から出しては、水面に沈ませる行為を何度も繰り返す。
無防備な響の背中を狙って、水攻めされていない天狗上空からが襲いかかる。しかし響は察知すると天狗を離すと、ジャンプしてそのまま飛び回し蹴りを放つ。
「フライングレッグラリアートォ!」
「げえ!」
首にフライングレッグラリアートを食らった天狗は、カエルが潰れたような声を上げて、そのまま地面に墜落する。
他の天狗達はそんな様子を見て、こいつは獲物ではなく敵だと判断したのか、手に持った錫杖を構えると次々に襲いかかる。
上空から襲いかかる天狗の攻撃を、響は左右に避けながら両手で構えると腰にデモンギュルテルが生成される。
〈Demon Gurtel!〉
そして懐からアスモデウスのイヴィルキーを取り出した響は、イヴィルキーを起動させるとデモンギュルテルに装填するのだった。
〈Asmodeus!〉
「憑着!」
〈Corruption!〉
起動音とともにデモンギュルテルの中央部が観音開きとなり、そこから竜の姿を象った黒色のオーラが現れる。
そして竜のオーラは響の周囲を飛行しながら、叩き落された天狗と水攻めされた天狗以外の天狗を蹴散らしていく。そしてそのまま響に向かって飛行するのだった。
響と竜のオーラが一つになると、背中に大剣を背負った全身が黒に染まった竜の意匠を持つ異形、アスモデウスイヴィルダーに変身した響が立っていた。
「さっきちょっかいかけてきた天狗で二体、それに無傷の天狗が二体か……だが数なんて関係ない! さあ、こいや!」
背中に背負った大剣を抜刀した響は、天狗達を見据えると挑発的な笑みを浮かべて、飛んでいる天狗に向かって斬りかかるのだった。
一番近くにいた天狗に大剣を振り下ろし斬りかかる響、しかし天狗も手に持っていた錫杖で攻撃を防ぐ。そして大剣と錫杖がぶつかり合い、甲高い音と火花が散る。
攻撃が防がれた響はすぐにバックステップで後ろに下がると、回り込むように走り慣性を乗せるように横から左薙ぎを放つ。
勢いの乗った大剣の一撃を再び錫杖で受け止めようとする天狗であったが、慣性の乗った攻撃は完全に防ぐことはできず、そのまま後ろに吹き飛ばされる。
「げげげぇぇぇ」
一体の天狗に集中している響の後ろを狙って、別の天狗が背後から襲いかかろうとする。しかし響は後ろを見ずに裏拳を放ち迎撃するのだった。
殴られた天狗は苦悶の悲鳴を上げると、後ろに倒れ込んでしまう。そのまま響は大剣を手放し後ろに振り向くと、殴った天狗の腰を両腕で抱え込み、そして後ろにブリッジして地面に叩きつける。
「げええええぇぇぇ」
地面にフロントスープレックスで叩きつけられた天狗は、響の拘束から開放されると地面に仰向けになって倒れる。それを見届けた響はブリッジを止めて元の姿勢に戻る。
姿勢を正している響を狙って他の天狗が、錫杖で突き刺そうと空中から降下しながら近づいてくる。
なんとか回避しようとする響であったが、放たれた攻撃は響の脇腹を切り裂き、わずかに出血して周囲を赤く染める。
「っち、痛えなぁ!」
痛みに顔をしかめる響だがすぐに錫杖を掴み上げると、そのまま自身に近づけるように引っ張るのだった。
そして近づいてきた天狗に向かって、勢いよく頭突を頭に向かって放つ。
防御できない距離から放たれた一撃にふらつく天狗であったが、その隙を響は逃さずに膝をつくと、そのまま向き合ったまま肩車する。そして肩車した体勢から、天狗の頭を天井にぶつける勢いでジャンプするのだった。
「が!?」
勢いよく天井に叩きつけられた天狗は悲鳴を上げるが、響は続けて重心を逆さまにして、天狗の頭を床に叩きつける。
地面に叩きつけられた天狗が倒れ込みそうになったことを確認した響は、肩車を解除するとそのまま床に落ちた大剣を拾い上げるのだった。
「くらえやあああぁぁぁ!」
響は逆手持ちで構えた大剣を持ち上げると、そのまま倒れ込んだ天狗の下っ腹に向けて突き刺すのだった。
天狗は小さくうめき声を上げると、大剣で貫かれた腹から大量の血が流れ出して、響を返り血で赤く染め上げる。
「ふん、一体目!」
血まみれになった響が後ろへ振り向くと、起き上がった二体の天狗とまだ空中に飛んでいる無傷の天狗が居た。
大剣を肩に背負った響はまだ無事な三体の天狗を前にしても、不敵に笑い走り出し天狗に斬りかかるのだった。
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