屍食鬼

「ふぁ~あ」


 昨日キマリスに嬲られた響は眠そうにしながら、大きなあくびを一つする。

 あまりの大きさに教室内のクラスメイトが響に視線を向けるが、眠そうな響はそんな視線を一蹴する。

 時折首を左右に揺らしながらも、響は眠気と戦っていた。

 そして休み時間が終わるまで残り五分といったところで、不意にポケットに入れている響のスマートフォンが振動し始める。

 いきなりのヴァイブレーションに体を急に反応させて驚く響、急な動きにクラスメイト達も驚くのであった。


「なんだ……?」


 響がスマートフォンを取り出して画面を見ると、一件のメールを受信していた。

 すぐに椿からのメールを開くと短い本文と、一つの画像が添付されていた。


『体育館裏で発見しました』 


 そして添付されていた画像には、剣と槍、そしてハンマーを持った三人の薄暗い肌をした異形が写っていた。

 画像を見た響は即座に立ち上がると、急いで教室を後にしようとした。

 いきなり立ち上がった響に驚くクラスメイト達だが、一人別の反応をするものが居た。


「おい響、次の授業は!?」


「悪い、用事ができた!」


 達也の静止を振り切って響は、教室を後にするのであった。


「どいてくれ!」


 廊下に飛び出して走り出して行く響を見て、廊下にいた生徒達は端によって避けていく。

 そして走ること三分程経った後、体育館裏に響がたどり着く。

 そこにはまるで徘徊しているような三体の異形と、異形を遠くから観察している椿がいた。


「椿君」


 三体の異形には聞こえないように、響は小さく椿に聞こえるように声をかける。

 呼ぶ声に気づいた椿は「先輩……」と同じく小さな声で返事するのであった。


「あれが写真の怪物なんですが……」


「ありがとう椿君、君は授業に戻ってて」


「あのご武運を……」


 椿は心配そうな表情をしながら、響の事を何度も振り返りつつその場を後にするのであった。

 周囲に誰もいない事を確認した響は、ポケットからキマリスのイヴィルキーを取り出す。


〈Demon Gurtel!〉


 それと同時にデモンギュルテルが起動音と共に、響の腰に装着される。


〈Kimaris!〉


 キマリスのイヴィルキーを起動させると、呼応するかのように起動音鳴り響く。

 そして響は腰のデモンギュルテルに、キマリスのイヴィルキーを装填するのだった。。


「憑着!」


〈Corruption!〉


 起動音と共にデモンギュルテルの中央部が開き、そこから騎士の姿をしたケンタウルスが現れる。

 そして騎士はバラバラにパーツへと分解されると、響の体に装着されていく。

 両腕、両足、肩、胴体、各パーツが装着されて、響はキマリスイヴィルダーへと変身するのであった。


「好き勝手してんじゃねえぞ!」


 そう言った響は三体の異形に殴りかかるのであった。

 三体の異形達は乱入者の姿を見ると、所持している己の武器を構えると、囲むように走り出していく。

 完全に周囲を囲まれた響であったが、慌てずに構えを取り異形の様子を観察する。


『響、あいつらはグールだ。死人の肉を食らう鬼だ』


「へぇ名前が分かっても殴るだけだがなぁ!」


 そう言って響は剣を持ったグールに殴りに行く。

 反応するグールは手に持った剣で防御する、しかし響は続けてステップで横に移動すると、側頭部を全力で殴りつける。

 ふっ飛ばされたグールを横目に他のグール達は、各々の武器を構えて響に襲いかかる。

 簡単に人間を貫ける槍による刺突を響は紙一重で回避し、振り下ろされたハンマーを両手で防御する。


「がぁ……」


 ダメージをある程度防ぐことは出来たが、衝撃は完全に殺すことはできずに両手に衝撃が走って苦痛が漏れる。

 殴られたハンマーを手に持った響はそのまま下に叩きつけると、足でハンマーを踏みつけてそのままグールの喉にめがけて抜き手を放つ。

 生暖かい血が響の手を染めるとともに、抜き手を食らったグールは苦しそうに後ろに下がっていく。

 

「そぉら!」


 残った槍を持ったグールに向かって響は蹴りを放つが、槍を巧みに使って防がれてしまう。

 しかしそのまま立つために使っている足だけでジャンプした響は、グールの頭上を超えて後ろを取る。

 そして着地した響はグールに向かって、回し蹴りを胴体に叩き込むのだった。


「ガアアアァァァ……」


 うめき声とともに地面を転がるグール、それを横目に立ち上がった剣を持った個体が後ろから響に斬りかかる。

 背中を斬られて血が出るとともに、痛みに耐えながらも響は振り向いて剣を掴み取る。


「痛えじゃないのコラ……」


「グ!?」


 剣を掴まれたグールは振り払おうとするが、掴んでいる手から血が出るほどに掴まれた剣はビクともしない。

 そのまま剣を掴みながら響はグールの足を片足で踏みつけると、勢いよくチョップを放つ。

 そして続けざまにがら空きの胴体に向かって連続でパンチを放つのだった。

 一発、二発、三発、連続で放たれるパンチに苦しむグール。

 最後にトドメと言わんばかりにジャンプした響は、両足を揃えて飛び蹴りを放つのだった。


「そい!」


「グウウウ!」


 ドロップキックを食らったグールはそのまま壁に叩きつけられ、すぐに立ち上がれないダメージを受ける。

 その間に槍とハンマーを持ったグールが響に向かって襲いかかる。

 薙ぎ払うように振り回された槍を響は、穂先の部分を避けて受け止めると、そのままグールをハンマーを持った個体の攻撃の盾にする。

 グールに同族意識は無いのか気にせずに攻撃を仕掛けるが、槍を持った個体で完全に防がれるのだった。

 そしてそのまま響は槍を持ったグールを蹴り飛ばして、ハンマーを持ったグールにぶつける。

 倒れ込むグール達であったが、すぐに立ち上がると再び響に襲いかかる。


「ガアアアァァァ」


 振り下ろされるハンマーと、突き出される槍を、響はジャンプして空中で回転しつつ回避すると、立ち上がろうとする剣を持ったグールに走って近づいていく。

 走った勢いを付けてジャンプした響は、再度空中で回転しながら飛び蹴りをグールの頭に向けて放つのだった。

 グシャリと頭が潰れる鈍い音と共に、グールの頭部は蹴りによって半壊すると、残ったボディと剣はまるで元々無かったように塵となって消えるのであった。

 消えていったグールを見て、他の二体のグールは怯えて後ろに一歩下がるが、響を倒さねば逃げることができないと悟ったのか襲いかかる。

 響はハンマーを持った個体へと走って近づくと、そのままジャンプして飛び蹴りを首に向かって放つ。

 悶え苦しむグールをよそに、槍を持った個体は響に向かって刺突をするのであった。


「ぐう!」


 肉体に槍が深々と突き刺さり苦しむ響、そのままグールは嗜虐的な笑みを浮かべながら槍を動かすのであった。

 体に刺さった槍を抜いた響は、苦しむ声を上げながらも決して槍を離すことは無かった。

 槍を掴まれたグールは驚いて槍を引こうとするが、掴まれた槍はピクリとも動かない。

 そのまま力づくで槍を放り投げた響は、一気にグールとの距離を詰めると隙だらけの胴体に向かって抜き手を放つのだった。

 抜き手を受けたグールの体からは血が大量に滴り落ちて地面を赤く染める。


「ウウウゥゥゥ……」


 そしてうめき声を上げながらグールの体は塵となり、まるでいなかったかのように消えていくのだった。


「ふー」


 一息ついた響の頭に鈍い衝撃が走る、痛みで地面を転がる響だったが、転がりながらも後ろへ視線を向けると、そこにはハンマーを振り下ろしたグールの姿があった。

 息も絶え絶えの状態ながらも響は、立ち上がると構えを取りハンマーを持ったグールを見据える。

 互いに動きを観察しながらも、次に動き出したのはグールであった。


「ガアアアァァァ」


 雄叫びを上げながらもグールはハンマーを振り上げると響に襲いかかる。

 響は振り下ろされた一撃を回避すると、右腕にキマリススラッシャーを生成して斬りかかる。

 グールの左腕に切り傷が走るが、そんなことも気にせずにハンマーを持った個体は再び振りかぶり襲いかかる。

 後ろに下がることで紙一重で避けた響は、キマリススラッシャーを振るいグールの体をXの字に切り刻むのであった。


「ゴワアアアァァァ!」


 Xの字に斬られたグールは胸を抑えながら苦しみの叫び声を上げつつ、塵となって消えていくのだった。

 全てのグールを倒したことを確認した響は、デモンギュルテルからイヴィルキーを抜くと変身を解除するのだった。


「ふー終わった終わった」


 すぐにスマートフォンを取り出した響は時間を確認すると、まだ授業が開始して数分しか経っていない時間であった。


(これなら少し怒られるだけで済むな)


 楽観視しながらも響は急いで教室に戻るのであった。

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