やばい時に間に合うのがダチってもんだろ

 くぐもった音が聞こえる部屋の扉を開けた響達を出迎えたのは、鼻が曲がりそうな程の凄まじい悪臭であった。

 特に顕著なのは、小便と思わしきアンモニア臭であり、刺激臭のせいで二人は目をとっさに閉じてしまう。


「うぇ」


「何この臭い!」


 部屋に漂う悪臭に弱音を吐いてしまう二人。

 目を開けるとまるで物置小屋のような、この家には似つかわしくない殺風景な部屋であった。

 そこに居たのはロープで手足を縛られていて、口には猿ぐつわを噛まされていた四人の女子生徒達であった。

 女子生徒達の顔を見た響は、彼女達が達也に告白してきた美少女ランキングにランクインしている女子生徒だとすぐに気づいた。

 女子生徒達は手足を縛られていて床に倒れ込んでおり、響達を見てさらに声を上げる。


「うーうーうー!」


 女子生徒達は口に猿ぐつわをしているために喋れないが、彼女達のうめき声がくぐもった音だった。

 女子生徒達の股からは黄色いシミが滲み出ており、それが小便だとは響はすぐに気づいたが、それを言わない優しさは響にはあった。


「ちょっと加藤くんこっちに来て!」


 千恵の切羽詰まった声を聞いた響は、すぐさま千恵の元に向かう。

 そこには意識の無い女子生徒と、女子生徒の様子を見ている千恵が居た。

 意識の無い女子生徒の顔を見た響は、「この人は……」と声を出してしまう。倒れている女子生徒は、初めて教室で達也に告白してきた女子生徒であったからだ。


「加藤くん悪いけど他の生徒を助けてあげて、私はこの子の具合を見るから!」


「は、はい!」


 倒れている女子生徒の具合は悪く、何日も拘束されていたためか脱水症状を引き起こしていた。

 意識の無い女子生徒のことは流石に本職に任せようと思った響は、どうにかしてロープを外そうとするがロープは固く縛られていて素手では簡単に外すことはできない。


「加藤くんこれ使って!」


 四苦八苦している響の様子を見た千恵は、ポケットに手を突っ込むと何かを響に投げ渡す。

 千恵から投げ渡された物は、手のひらに収まるほどの十徳ナイフであった。

 十徳ナイフの刀身を使って響は、ロープで縛られている女子生徒達を開放していく。

 手足が自由になった女子生徒達はすぐに立ち上がろうとするが、一日以上ずっと倒れ込んでいたためか、うまく立ち上がれない。


「大丈夫ですか?」


 立ち上がろうとした女子生徒を助けようとする響を見て、女子生徒は口元を指差す。

 それを見た響は、口に噛まされている猿ぐつわを外してほしい、と言う意図なのだと気づいてすぐに外しにかかる。


「はぁはぁはぁ、助けてくれてありがとうございます」


 猿ぐつわを外された女子生徒は、深呼吸をしながらも響に対して頭を下げて感謝する。


「ゆっくりで良いです、何が有ったか教えてくれませんか?」


「よくわからないんですけど、後ろからスタンガンを押し付けられて、気づいたら手足を縛られて此処に……」


 そう言いながら女子生徒は響に自身の首元を見せつける、そこにはスタンガンを押し付けらた時にできたと思わしき二点の火傷があった。


「う……」


 首筋にできた火傷を見た響は、その凄惨さに目をそらしてしまう。


「すいませんその傷は桜木先生に言ってください」


「はい、ごめんなさいね」


 女子生徒は響に謝りながらもゆっくりと立ち上がる。それを見届けた響は、まだロープで縛られている女子生徒を開放すべく移動するのであった。

 一人一人女子生徒の手足を縛るロープと、猿ぐつわを外していった響はなんとか全員の分を開放し終えた。

 女子生徒を開放し終えて一息つく響、その瞬間バイブレーションが部屋の中で響き渡る。

 バイブレーションを聞いた全員が、その音に驚いてビクッと体を震わせる。

 バイブレーションの出どころは響のスマートフォンであった、すぐに響はスマートフォンを手に取ると画面には椿からの電話が着信していた。


「もしもし……」


「先輩今大丈夫ですか!?」


 スマートフォンの向こう側から聞こえた椿の声は、切羽詰まった声であった。


「どうしたんだい椿君?」


「今私の真下で立花先輩が変身していて、それで血まみれでボロボロになっているんです!」


 スマートフォンから聞こえる椿の声は、スピーカー機能を使わずとも響の周りに聞こえる程の大きさだった。

 そのためか千恵は響の肩を持つと、「行きなさい加藤くん」と真剣な表情で告げるのであった。


「わかりました、この場はお願いします!」


「後は私に任せなさい!」


 響がサムズアップをすると、見た千恵もサムズアップを返すのだった。

 走って部屋を後にする響。女子生徒達は分からなかったが、確かに二人には通じ合った物があるのであった。




 廊下を全力で駆け抜け、階段を一段飛ばしで降りていき、悪臭漂う部屋をくぐり抜け、響は家の外に出る。

 家の外に出た響の腰には、デモンギュルテルが装着されており既に準備は万全であった。


〈Demon Gurtel!〉


 響は懐からハルファスとマルファスのイヴィルキーを取り出すと、親指でイヴィルキーを起動させる。


〈Halphas Malphas!〉


 起動音がイヴィルキーから響くと共に、響はイヴィルキーを持った手でXの字を切り、デモンギュルテルにイヴィルキーを装填するのであった。


「憑着」


〈Corruption!〉


 デモンギュルテルから起動音が鳴り響くと共に、ベルトの中央部が観音開きになる。そこから白と黒の二羽の鳥が飛び出し、響の周囲を飛び回る。

 そして二羽の鳥が響の体に吸い込まれると、響の体が異形へと変化していく。

 完全に異形へと変化した響の体は、白と黒のシンメトリカルな鳥の意匠を持つ怪人、ハルファス・マルファスイヴィルダーへとなったのだった。

 響はゆっくりと走り出し、一歩、二歩、三歩、と走っていくそしてスピードが最大限になった瞬間、勢いよくジャンプするのであった。


「うおりゃあああぁぁぁ!」


 叫び勢いよく飛び立つ響、向かう先は上之宮学園であった。





「さすがにキツイな……」


 十分以上オセイヴィルダーの攻撃を受け続けていた達也は、苦しそうにそう呟いた。

 達也が立つ地面は既に血で真っ赤に染まっていて、赤い水たまりが出来ているほどであった。


「ウフフもう少し、もう少しで貴方は私の物になる」


 オセイヴィルダーは楽しそうに、まるで歌を歌うかのように楽しげであった。


「勝手に人を物扱いしないでくれるかな……」


 傷口を抑えながら文句を言う達也であったが、既に流れた血が多いせいか立つのもままならない状態であった。

 それでも倒れた瞬間に負けるのはゴメンだと、そう思いつつ達也は立っていた。

 そんな達也の状態を見たオセイヴィルダーは、嗜虐心が刺激されたのか爪を舌で舐め回す。


「そんなに我慢しなくても、誰も助けは来ないですよぉ!」


「そうか? そうかもしれないな……だが最後まで足掻かせてもらう!」


「アハァ! 良いですよその表情が歪む様がみたいですぅ!」


 オセイヴィルダーは動けない達也に向かって走り出し、その鋭い爪を突き立てようとする。

 その瞬間。


「待ったぁぁぁー!」


 響の静止する声と共にオセイヴィルダーが勢いよく蹴り飛ばされる、一体何がと達也は声のする方向に視線を向ける。

 そこには空を飛びながら飛び蹴りの姿勢をしている響がいた。


「よお、間に合ったか達也?」


「遅すぎる、が間に合ったな」


 地面に降り立つ響は達也の体を支える、そして二人は拳をぶつけ合うのだった。


「それで響あのオセイヴィルダーだが、告白してきた生徒がいきなり顔を変えて襲ってきたんだ」


「何その情報量の多いアドバイス、こっちも大変だったんだぜ」


「ふん、どうやら騒ぎを終わらせて、ゆっくり話し合って情報共有したほうが良さそうだな」


「全くだ」


 達也は響が来たことで先程の様子とは全く違い、にこやかに話し合う。


「何ですか、何ですか、二人して良い空気出して、私のこと何か眼中にないってことですかぁ!?」


 オセイヴィルダーはそんな二人を見て、激昂し両手の爪を振り回し当たり散らす。

 それを見た達也はオセイヴィルダーに向かって構えを取ろうとするが、すぐに意識が薄れてフラッと倒れそうになってしまう。そんな達也を響は受け止めそのまま地面に座らせる。


「達也、こっから先は俺に任せとけ!」


「なら勝てよ、お前が負けてアイツに襲われました。なんて格好つかないからな」


 そう言うと響はオセイヴィルダーに向かうのであった。

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