馬と竜、そして見ている者
椿の教室で始まった響対ガミジンイヴィルダー・ブネイヴィルダーの戦いは、両者拮抗状態であった。
ガミジンイヴィルダーが響を殴ろうとするが、響は空いた手で軽くいなし逆にキマリススラッシャーで胴体を斬りつける。次の瞬間ブネイヴィルダーがタックルをすると、響は防御するが耐えきれずふっ飛ばされる。
「ああクソ、馬の方は弱っちいくせに!」
『まあガミジンとブネ、どっちが強いと言われたらブネのほうがほうかな』
『はは、違いない。ドラゴンと馬じゃあな』
響二体のイヴィルダーのコンビネーションに苛つきながらも、精神世界ではキマリスと軽口を叩けるぐらいには余裕だった。
「ブネイヴィルダーほうが厄介なら、まずはそっちを重点的に攻めてやるよぉ!」
挑発するようにわざと叫ぶ響、しかしそれを聞いたブネイヴィルダーは後ろに下がったり防御はせず、またガミジンイヴィルダーは前にも出なかった。
(こいつら、人の意思が感じられない。まるで獣みたいだな)
二体のイヴィルダーの反応を見て、響は変身者の意思が無いと判断するのであった。
「はぁ!」
響はガミジンイヴィルダーの横に近づくと、軽くジャンプをして後頭部に回し蹴りを叩き込む。
勢いよく叩き込まれた延髄斬りをくらったガミジンイヴィルダーは、そのまま顔面から床に叩きつけられる。
ガミジンイヴィルダーが起き上がらない事を確認した響は、急いでブネイヴィルダーの元へ走る。
「次ぃ!」
ブネイヴィルダーの肩の犬とグリフォンの首が伸びると響へと襲いかかる、響は左右にステップして攻撃を回避するが二つの首は響を囲むように襲撃する。
響は二つの首の包囲網を抜け出そうと必死に観察するが、二つの首は巧みに動き回り響を囲み続ける。
そして犬とグリフォンの首は響へと再度襲いかかる、しかし響はベルトのイヴィルキーを抜いてキマリススラッシャーに装填する。
〈Slash Break!〉
「おりゃあああぁぁぁ!」
キマリススラッシャーの刀身にエネルギーを纏わせた響は、襲いかかってくる二つの首のうちグリフォンの首を、走りながら横一文字に切り裂くのであった。
「Ghaaaaaa!」
首筋を斬られたことでグリフォンの首は、甲高い叫び声をあげる。それを聞いた響は、一瞬身をすくませるが直ぐに動き出すのであった。
走り出した響はブネイヴィルダーに向かい、そして上から唐竹割りを狙うが、ブネイヴィルダーの犬の首が突撃してきて邪魔されてしまう。
(本体の回りを守りやがって)
ブネイヴィルダーの肩から生えた首に、響は心の中で悪態をつく。
すぐに響はブネイヴィルダーから距離を取るが、傷が再生したグリフォンの首が再度襲いかかってくるのであった。
風をきる音と共に突撃してくるグリフォンの首、響は足腰に力を入れて首を受け止めると、首を掴んだままブネイヴィルダーに突撃する。
「そぉれ!」
響はブネイヴィルダー本体を中心に、グリフォンの首と犬の首を巧妙に片結びにする。
「「「Gaaaaaa!」」」
片結びにされたブネイヴィルダーの三つの顔は、苦しみと怒りで雄叫びをあげるのであった。
ブネイヴィルダーは怒りに任せて響へと突進する、しかし響もキマリススラッシャーを盾にして突進を防ぐと、そのまま刀身をブネイヴィルダーに向かって振り下ろす。
響とブネイヴィルダーが争っているなか、遂にガミジンイヴィルダーが起き上がる。そして響とブネイヴィルダーの間に向かって、勢いよく突っ込むのであった。
「ッチ」
「Shaaaaaa!」
乱入してきたガミジンイヴィルダーを見て、舌打ちする響と、威嚇するブネイヴィルダー。もはや戦いは一対二ではなく、バトルロワイヤルへと変化していた。
「ヒヒヒ!」
ガミジンイヴィルダーは蹄のような手を振り回して、響を目標に攻撃を仕掛ける。ブンと音が鳴るほどの勢いで放たれる攻撃を、響は回避していくが、そこで横からブネイヴィルダーが響を鋭い爪で引き裂く。
「くぅ」
腕を引き裂かれたことで傷口を押さえて呻く響、すぐさまガミジンイヴィルダーとブネイヴィルダーの二体に目掛けて、両足で蹴りを放つ。そのまま蹴った勢いで響は、距離を取り呼吸を整える。
響が距離を取ったことで膠着した戦いを動かしたのはブネイヴィルダーだった。二つの首は動かなくなったが、背中に生えた翼で教室の中を自由に飛び響へと襲いかかる。
響は近づいてくるブネイヴィルダーに目掛けてジャンプをする、そして膝蹴りをブネイヴィルダーの首に叩き込む。しかし攻撃した瞬間肩に痛みが生じる、ブネイヴィルダーの二つの首が攻撃の瞬間に噛み付いたのである。
「鬱陶しい!」
響は首を片結びにしたのにまだ動いている、ブネイヴィルダーの肩から生えた二つの首を見て悪態をつくのであった。
好機と見たガミジンイヴィルダーは机の上に乗ると、響を目標にしてジャンプして上から襲いかかる。しかし響に単調な攻撃は当たらず、回避された挙げ句に喉にキマリススラッシャーを突き立てられる。
「ブルルルゥ!」
喉へのダメージをくらい無様にも床に落下して、転げ回るガミジンイヴィルダー。
「馬は鹿とでもつるんでろ」
そんなガミジンイヴィルダーを見て響は、吐き捨てるように呟く。
そこに首に攻撃をくらったブネイヴィルダーが立ち上がり、再び教室内を飛行する。そして響へと襲いかかるのであった。
響はブネイヴィルダーの攻撃に合わせてジャンプすると、キマリススラッシャーを振りかざしてブネイヴィルダーの翼を切断する。
「Gyaaaaaa!」
片翼を斬られたブネイヴィルダーは悲鳴をあげて地上に墜落する、その隙に響はもう片方の翼にキマリススラッシャーを突き刺すのだった。
翼にダメージを負ったブネイヴィルダーは地面でもがき苦しむ、しかしそのまま放置する響ではなかった。響はキマリススラッシャーを手放すと、ブネイヴィルダーへと近づいていく。
倒れているブネイヴィルダーを無理やり肩車すると、響は大きくジャンプしてブネイヴィルダーの頭を天井に叩きつける。
「Shaaaaaa!」
頭部へのダメージに叫ぶブネイヴィルダーだが、そんな事は構わず響は空中で体勢を変えてブネイヴィルダーを下に向ける。
そしてブネイヴィルダーの首を下にして、そのまま地面に叩きつけるのであった。二人分の重量が乗った一撃を二度もくらったブネイヴィルダーは、地面で僅かにのたうち回る。
響は床に落ちているキマリススラッシャーを拾うと、ガミジンイヴィルダーへ視線を向ける。
視線を向けられたガミジンイヴィルダーは、一瞬たじろぐが響のもとへ走る。
「ううう……があああ!」
ガミジンイヴィルダーは響を殴ろうとするが、響にはスッと回避され逆にカウンター気味に肝臓を殴られる。
殴られたガミジンイヴィルダーは痛む部位を押さえて後ろに下がるが、響はそのままにせず追撃して腹を殴る。
「やあぁぁ!」
響はすかさずガミジンイヴィルダーの首、右腕、左足、と連続で斬りつける。
「これで終わりだ!」
響はキマリススラッシャーをガミジンイヴィルダーに突き刺す、その深さは刀身の三分の一が肉に隠れるほどであった。
そしてベルトからイヴィルキーを抜くと、キマリススラッシャーに装填する。
〈Slash Break!〉
キマリススラッシャーから音声が響き渡ると同時に、刀身が光輝きガミジンイヴィルダーにエネルギーが流れ込んでいく。
「アアアッ!」
ガミジンイヴィルダーは苦悶の声を上げて爆発する、爆発の近くにいた響はキマリススラッシャーを横に振るうと煙を払うのであった。
爆発の後には倒れた椿のクラスメイトと、ガミジンのイヴィルキーがあった。
「ひとぉつ」
ガミジンイヴィルダーを倒したことを確認した響は自慢気に胸を張る、そしてブネイヴィルダーへと向き合うのであった。
「「「Urrrrrr!」」」
飛べなくなったブネイヴィルダーは叫びながら響へと爪を振るう、すぐに響はキマリススラッシャーで攻撃を防ぐ。
攻撃を難なく防がれたブネイヴィルダーは、体を後ろに向けると窓へ向かい教室の外へ逃げ出そうとする。
「待て!」
響はブネイヴィルダーを追いかけるが、ブネイヴィルダーは窓から飛び降りてしまう。
窓に乗った響はベルトのイヴィルキーを二度押す、そしてブネイヴィルダーを追ってジャンプするのであった。
〈Finish Arts!〉
ベルトから起動音が鳴り響くと同時に、響の足にエネルギーが充填されていく。
そして空中のブネイヴィルダーに響は、必殺の飛び蹴りを放つのであった。
一撃をくらったブネイヴィルダーは爆発する、そして空中に椿のクラスメイトとブネのイヴィルキーが放り出された。
(あああぁぁぁ!)
流石にこの高度から地面に叩きつけられたら、クラスメイトは無事では済まない。そう判断した響は急いでハルファス・マルファスのイヴィルキーを取り出して、起動、ベルトに装填する。
〈Halphas Malphas!〉
「憑着!」
〈Corruption!〉
翼を持つ黒白の戦士ハルファス・マルファスイヴィルダーに変身した響は、空を飛び空中で椿のクラスメイトとブネのイヴィルキーを回収して先程まで居た教室に戻る。
この時地上では学生が巨大な鳥のようなものを見た、といって騒ぎになっていたが響には些細なことだった。
「よっと」
椿の教室に戻った響は変身を解除すると、ガミジンのイヴィルキーを回収して倒れているクラスメイトを持ち上げるのだった。
倒れた二人の生徒を持ち上げた響は、急いで保健室に向かうのであった。
「えっほ、えっほ」
保健室の前に着いた響は足で扉をノックする、すると直ぐに「どうぞ」と千恵の声が返って来たので遠慮なく入るのであった。
「桜木先生、アレで二名です」
流石にイヴィルダーについて直接言うのは難しいので、響は隠語で千恵に説明した。
それを聞いた千恵はすぐに椿のクラスメイト一人を受け取るとベットに寝かせるのだった。
「お疲れ様、加藤君」
響ももう一人の椿のクラスメイトをベットに寝かせると、ふぅと一息つく。
「もうなんですか、コックリさんを始めたら悪魔が出てきて、無理やりイヴィルダーにして暴れるなんて」
響はパイプ椅子に座った直後、いきなり愚痴を言い出す。
それを聞いた千恵は、「あはは」と苦笑しながらペットボトルのお茶を取り出す。
「お疲れ様加藤君、はいお茶どうぞ」
「いただきます」
お茶を飲みながら響は、椿へ無事に事態が収束したことをメールで伝えるのであった。
数分もすると椿が保健室にやって来る、そして響の顔を見ると安心した表情になる。
「よかった、無事だったんですね先輩」
「もちろん」
響は椿に向けてサムズアップをする。結局二人は十分ほど保健室で、お茶を楽しむのであった。
響がガミジンイヴィルダーとブネイヴィルダーを倒した日の夜、僅かな明かりが灯った何者かの自室。
何者かは恍惚とした表情で写真を見る、その写真は今日起きたブネイヴィルダーと戦う響の写真であった。
さらに机にはガミジンイヴィルダーと戦う響の写真や、椿のクラスに到着した瞬間の写真まで置いてあり鮮明に写っていた。
部屋の壁には過去の響がイヴィルダーとして戦っていた場面の写真が、何枚も所狭しと貼ってあった。
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