なら教えてやるよ、一+一は二じゃないことを!

 現場に到着した響と達也は、ハーゲンティイヴィルダーとザガンイヴィルダーに向かい合うように並ぶ。

 捜査官達は攻撃が止まったと見るや、負傷者を抱えて倉庫の外に退避するのであった。

 次の瞬間ハーゲンティイヴィルダーが達也に掴みかかり、そのまま壁に突進していく。


「達也!」


「俺はこっちを相手する。響はそっちを頼む!」


 達也がそう言い切る直後、達也とハーゲンティイヴィルダーは壁を破壊して外に出るのであった。

 響はザガンイヴィルダーへ視線を向けると構えを取る。ザガンイヴィルダーは可笑しそうに笑うが徐々に頭をかきむしり始める。

 突然の奇行に驚く響であったが、すぐに心を落ち着けてキマリスに目の前のイヴィルダーについて聞く。


「私の計画を邪魔する奴がこう出るなんてぇぇぇぇ!」


『うわ、何だこいつ、それよりキマリスこいつは?』


『翼を持った牛に黄金色、それならハーゲンティかザガンだ。だがさっき外にでた奴より目の前の奴のが強い、こいつはザガンイヴィルダー! 気をつけろ響、こいつはベリアルと同じ王の爵位を持つ』


『わかった気をつける』


 達也VSハーゲンティイヴィルダー、響VSザガンイヴィルダー、それぞれの戦いのゴングは今始まった。







「死ねえぇぇぇ」


 ハーゲンティイヴィルダーに捕まった達也は、そのまま倉庫の外まで移動してしまった。そして遂には倉庫の外に置いてあったトラックに、勢いよく叩きつけられる。


「うおおおおおおぉぉぉ!」


 このまま攻め手を取られ続けるのは危険だと判断した達也は、左腕に巻き付いている蛇に命じてハーゲンティイヴィルダーに襲わせる。

 蛇は達也の腕から音もなく動き、ハーゲンティイヴィルダーの首を勢いよく噛み付くのであった。


「うぉ!」


 首を噛まれたことに驚いたハーゲンティイヴィルダーは、達也を掴む手を離してしまう。そのスキを突いて達也は、足払いをかける。

 バランスを崩すハーゲンティイヴィルダー、がら空きの胴体を達也の拳が襲うのであった。


「はぁ!」


 一撃、二撃、三撃、と続けて放たれる拳の嵐。ハーゲンティイヴィルダーも防御するが、首を蛇に噛まれていることが災いして防ぎきれない。

 そのまま達也はジャンプすると、ハーゲンティイヴィルダーの防御上に蹴りを放つ。勢いよく放たれた蹴りを受けたハーゲンティイヴィルダーは、ふっ飛ばされて地面を転がる。


「てめえぇ!」


 達也にいいように翻弄されていることに怒るハーゲンティイヴィルダー。すぐに立ち上がると、達也へ勢いよく殴りかかる。

 しかし達也は首に噛み付いている蛇をロープのように操り、ハーゲンティイヴィルダーの重心を崩しにかかる。


「ぬぉおおお!」


 達也に蛇を左右に振り回されたことにより、無理やり左右に移動させられるハーゲンティイヴィルダー。うまく彼は進めず、攻撃ができない。

 ハーゲンティイヴィルダーが体勢を崩している内に達也は、突進をしてハーゲンティイヴィルダーに体当たりを仕掛ける。

 勢いよく突っ込んできた達也を、ハーゲンティイヴィルダーは防御できずふっ飛ばされてしまう。そこに達也は追撃と言わんばかりに、左腕の蛇に命じてハーゲンティイヴィルダーへ噛みつかせる。


「があああ」


 再び首元を蛇に噛まれたハーゲンティイヴィルダーは、悲痛な声をあげる。しかし達也にはそんな事は関係なく、距離を詰めてハーゲンティイヴィルダーへパンチを放つ。

 放たれた攻撃をハーゲンティイヴィルダーは防ぐが、達也は続けて防御してない箇所を殴る。

 ハーゲンティイヴィルダーはうめき声を上げるが、力を振り絞って達也の体を掴むと膝蹴りを叩き込む。


「ぐううぅ」


 ハーゲンティイヴィルダーの反撃に膝を付きかける達也、しかしすぐに体勢を立て直す。

 立ち上がった達也は、ハーゲンティイヴィルダーとの距離をとり三度蛇に命じて攻撃させる。


「そう何度も!」


 しかしハーゲンティイヴィルダーは蛇を掴むと、そのまま蛇を引っ張って達也を引き寄せる。

 そのまま勢いよく近づいてきた達也を、ハーゲンティイヴィルダーはストレートを放つのだった。

 強力な一撃をくらった達也は、地面に倒れ込んでしまう。そこにハーゲンティイヴィルダーは達也の鳩尾を、力いっぱい踏みつけるのだった。


(このばか力が……)


 達也は内心でハーゲンティイヴィルダーを罵倒しながらも、解決の策を練っていた。

 ハーゲンティイヴィルダーの足で踏みつけられている部分からは、ギリギリと肉が軋む音が鳴る。

 達也はハーゲンティイヴィルダーに妙な動きをされないように、一瞬でベルトのキーを一回押し込む。


〈Unique Arts!〉


 ベルトから起動音が鳴り響くと共に、何処からか五メートルある巨大な蛇がハーゲンティイヴィルダーを襲う。


「ぐわぁぁぁ」


 ハーゲンティイヴィルダーは悲鳴を上げながら、巨大な蛇によって倉庫の壁へ叩きつけられるのだった。


「すう、はぁ」


 体を襲っていた圧迫感から開放された達也は、思いっきり呼吸をすると息を吐き出した。

 達也は視線を、ハーゲンティイヴィルダーが叩きつられた壁に向ける。そこには大の字で壁にめり込んだハーゲンティイヴィルダーが居た。


「これで終わりだ」


 足元をフラフラさせながらも達也は、ハーゲンティイヴィルダーに聞こえるか聞こえないぐらいの声で呟くと、ベルトのキーを二度押し込んだ。


〈Finish Arts!〉


 ベルトから起動音が鳴り響くと、達也の足へ紫色のエネルギーがまとわり付く。

 そして達也は、ハーゲンティイヴィルダーに向けて必殺のドロップキックを放つのだった。


「はぁー!」


 ハーゲンティイヴィルダーは「うぅぅん」とうめき声を上げながら視線を前に向ける、そこには両足をこちらに向ける達也の姿があった。

 すぐさまハーゲンティイヴィルダーは逃げようとするが、時既に遅し達也の放った必殺の一撃が命中するのであった。


「がああぁ!」


 ダメージをくらったハーゲンティイヴィルダーは、大きな悲鳴を上げて爆発する。そして爆炎の後に残っていたのは、倒れているアロハを着た男とハーゲンティのイヴィルキーだった。

 ハーゲンティのイヴィルキーを回収した達也は、すぐさま響と合流すべく倉庫に向かうのであった。







 達也がハーゲンティイヴィルダーを撃破した直後から時間を戻して、響とザガンイヴィルダーが戦闘開始した直後。

 まず最初に響が走り、ザガンイヴィルダーに殴りかかる。しかしその一撃は、ザガンイヴィルダーの片手で止められてしまう。

 すぐに響はもう片手で殴りかかるが、ザガンイヴィルダーの空いた手で受け止められる。


「この程度ですか?」


 ザガンイヴィルダーはせせら笑うように呟く。響は脱出を試みるが、ザガンイヴィルダーの力が凄まじく抜け出すことが出来なかった。

 ザガンイヴィルダーが握りしめると、ギリギリと響の両手から骨が軋む音が鳴り響く。


「うわあああぁぁぁ!」


 倉庫の外にまで聞こえそうなほどの悲鳴を、響は思わず上げてしまう。

 しかしすぐにザガンイヴィルダーを睨みつけると、響はジャンプしてゼロ距離から両足で蹴りを放つ。

 ズンと鈍くて重い音が、ザガンイヴィルダーの腹から出る。ダメージに耐えきれなかったのかザガンイヴィルダーは、響の両腕を離した。

 その隙をついて響はバックステップで距離をとり、痛みを引かせようとする。


『くそ、コイツなんて力だ。ベリアルイヴィルダーより強いんじゃないか?』


『ベリアルの時は契約者の彼が反発していたからね、でもこいつは違うベリアルよりも強いと心得たまえ』


 キマリスの忠告を身にしみた響は無言で頷いた。そしてこの目の前にいるザガンイヴィルダーは、とてつもなく強いのだと響は確信した。


「バラバラにして海に沈めてくれる!」


 ザガンイヴィルダーはそう叫ぶと、凄まじい速さで距離をつめて響を殴る。

 すぐに響は攻撃を回避するが、続けて放たれたアッパーカットを回避できずにそのまま天井に叩きつけられてしまう。


「がぁ」


 そして天井から落下していく響だが、ザガンイヴィルダーが真下に待ち構えていた。

 ザガンイヴィルダーは響を両腕で抱きかかえると、そのまま響の背中を真っ二つに折ろうと絞めつける。


「ぐわぁぁぁ」


 背骨、助骨、脊椎、響の背中にある各所が声のない悲鳴を上げる。


「ははは、いいぞもっと悲鳴を上げろ!」


 響の悲鳴を聞いてザガンイヴィルダーは、サディスティックな笑みを浮かべる。


『響、逃げられないのかい!?』


『くそ凄い力だ、本当に真っ二つになりそうだ』


 響の悲鳴を聞いて焦るキマリス、響も逃げ出そうとあらゆる手段を考えるが逃げられない。 

 そのまま背中を真っ二つにして殺してやろう、そう思いながらザガンイヴィルダーは絞め上げていた。

 しかし次の瞬間倉庫の外から蛇が侵入し、ザガンイヴィルダーの腕を噛む。


「ぬう!?」


 突如として襲ってきた蛇に驚くザガンイヴィルダー、そこに新たな侵入者が現れる。


「大丈夫か響!」


 侵入者はアンドロマリウスイヴィルダーに変身していた達也だった、そのまま達也は走ってザガンイヴィルダーの体を勢いよく蹴り飛ばす。


「ちっ!」


 蹴られた衝撃でザガンイヴィルダーは響を離してしまう、自由になった響は急いで距離をとり達也の元に走る。

 響に逃げられたことと、乱入者が出てきたことにに舌打ちするザガンイヴィルダー。


「響大丈夫か?」


「ああ、助かったぜ達也。それでそっちは?」


「問題なく倒した」


 響の質問に対して、達也はハーゲンティのイヴィルキーを見せつけて答える。

 二人になったことで声色が良くなった響を見て、ザガンイヴィルダーは「フン」と鼻で笑う。


「所詮一が二つになっただけだ私に勝てるはずがない!」


「なら教えてやるよ、一+一は二じゃないことを!」


 ザガンイヴィルダーの見下した挑発を、響は胸を張って反論するのであった。


「調子に乗るなぁ!」


 響の態度が気に食わなかったザガンイヴィルダーは、激昂して響達へと詰め寄り襲いかかる。


「響!」


「応!」


「「悪夢のコンビネーション其の四、スカルピッチング!」」


 響と達也はザガンイヴィルダーの突進を二手に分かれて回避すると、ザガンイヴィルダーの左右の耳を狙ってドロップキックを放つ。

 呼吸を合わせた連携攻撃ツープラトンは、ザガンイヴィルダーに回避をさせずに命中する。

 左右から襲いかかる頭部への衝撃に、ザガンイヴィルダーは膝を付いてしまう。


「まだだ!」


 隙を見せたザガンイヴィルダーに対してすかさず響は、後ろから両腋に手を通して羽交い締めをする。

 そのまま身動きが取れなくなったザガンイヴィルダーへ、達也は連続パンチを繰り出すのだった。


「はあああ!」


 パンチ、パンチ、パンチ、と拳の嵐がザガンイヴィルダーの頭へ襲いかかる。

 防御も取れず攻撃をされるがままとなったザガンイヴィルダーは、足元がおぼつかなくなる。

 達也が後ろに引いたことを確認した響は、ザガンイヴィルダーの腰に手を回すとそのまま胴をクラッチする。そして後ろに反って勢いよく放り投げるのだった。


「そぉら!」


 勢いよく頭から地面に叩きつられたザガンイヴィルダーは、仰向けのまま大の字になって倒れる。

 その隙をついて響は、両足をザガンイヴィルダーのももに絡ませて、両腕を掴むと後ろに倒れ込む。ザガンイヴィルダーの体は天井に向けて、弓なりに反らされていく。


吊り天井固めロメロ・スペシャル!」


 ロメロ・スペシャルをかけられたザガンイヴィルダーの体は、背骨と両腕が少しずつ痛めつけられていく。

 天井を見せられているザガンイヴィルダーの視界に、一筋影が差し込む。それはジャンプした達也の姿だった。


「悪夢のコンビネーション其の一!」


「デスエルボードロップ!」


 片肘を針の如く曲げた達也の一撃が、ザガンイヴィルダーの無防備なみぞおちへ突き刺さる。

 ロメロ・スペシャルによって腹に力を入れられなくなっていたザガンイヴィルダーは、鋭い一撃をその身にくらったのである。

 身動きが取れなくなった相手のみぞおちへ、強烈な一撃を叩き込む連携攻撃ツープラトン。それはまさしく死神の一撃であった。


「ぐううう……」


 凄まじい痛みに苦しむザガンイヴィルダーであったが、二人の猛攻は止まらない。


「いつまでも絡んでんじゃねー!」


 響が片足のクラッチを外すと、そのまま背中に足を押し付ける。そして勢いよく蹴り上げると、それと同時に残りの拘束を全て外す。

 勢いよく蹴られたことにより天井に叩きつけられたザガンイヴィルダー、そんな彼の真下では二人の悪魔イヴィルダーが待ち構えていた。

 天井から落下するザガンイヴィルダー。その下で向かい合い、右腕を少し曲げて掲げる響と達也。

 ザガンイヴィルダーが二人の視線に交差した瞬間、二人は右腕を伸ばして走り出す。


「「悪夢のコンビネーション其の二、クロス・ラリアット!」」


 落下したザガンイヴィルダーの前後両サイドを挟むように放たれたラリアット、一人での技よりも何倍も強烈な一撃がザガンイヴィルダーの首を襲うのであった。

 クロス・ラリアットをくらったザガンイヴィルダーは再び空中に舞い上がる、その下で響と達也が背中合わせで待っていた。


「「クロス延髄!」」


 落下してきたザガンイヴィルダーへ今度は、挟み込むように延髄斬りを放つ。阿吽の呼吸で放たれた鋭い一撃は、ザガンイヴィルダーをダウンさせるのに十分だった。


「決めるぜ達也!」


「ああ」


 二人は距離をとると、ベルトのキーを二度を押し込む。


〈Finish Arts!〉


 ベルトから起動音が鳴り響くと響の足には黒白のエネルギーが、達也の足には紫のエネルギーが充填される。


「でやぁぁぁ!」


「はあぁぁ!」


 二人は同時にジャンプすると、ザガンイヴィルダーに目掛けて飛び蹴りを放つ。

 倒れていたザガンイヴィルダーは立ち上がるが、既に目の前には二人が居たために逃げることは出来なかった。


「ぐあああぁぁぁ!」


 二人の必殺の一撃をくらったザガンイヴィルダーは、苦悶の声あげて爆発する。

 爆発が晴れた後に残っていたのは、倒れているアロハの男とザガンのイヴィルキーだった。


「「よし!」」


 ザガンイヴィルダーを無事に倒せたことを確認した二人は、拳をぶつけ合う。しかしそこに捜査官達が倉庫に再び突入するのであった。


「動くな!」


 人間相手に戦闘する気はなかった響達は、ザガンのイヴィルキーを拾い上げると倉庫の窓を破壊して脱出する。

 外まで追ってくる捜査官達だが、空へ飛んでいく二人を見ていることしか出来なかった。




 後日家のリビングでゆっくりとしていた響のもとに、一件のメールがスマートフォンに届く。千恵から送られたメールの内容は、ザガンとハーゲンティの契約者の悪事についてであった。

 彼らは元々薬物の売人だった。ザガンとハーゲンティと契約して二体の権能で水からワインを作り、そこに少量の麻薬を混ぜることでBlood Wineを作り売りさばいていたのであった。


「現代の人間は怖いね、昔はワインを作るだけで満足していたのに、今じゃそっから混ぜものを作るなんて」


 メールを覗き見たキマリスが、興味なさげに呟く。それを聞いた響は「じゃあ俺は怖くないのか?」と聞く。


「フフフ、もちろん怖いさ」


 キマリスは満面の笑みを響に向けると、そう言うのであった。

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