人の欲

悩み、考え、己を知る

 フォルネウスイヴィルダーとの戦いの翌日、響は桜木千恵の家にいた。来た理由は一つ、フォルネウスイヴィルダーについての説明だった。

 部屋には響、千恵、クスィパスの三人が席に座っていて、部屋の空気は緊迫したものとなっていた。


「それで加藤君が戦ったイヴィルダーというのは……」


「はい桜木先生、フォルネウスイヴィルダーは他のイヴィルダーを倒して、そのままイヴィルキーを持ち去りました」


 先に報告を聞いていたとはいえ、恐る恐る質問する千恵。そしてきっぱりと断言する響の回答を聞いて、千恵は頭を悩ませるのであった。


「うーん、本当にそんなイヴィルダーが居るとはね……」


「やはり桜木、あの報告は本当では?」


「そうかもね」


 千恵とクスィパスは二人だけが分かる内容の話をしだしたために、響は話についていけずに困惑した表情になる。


「実はね以前から怪物が暴れている、っていう情報がこっちに流れていたのだけれど。その情報を確かめてる内に、怪物は倒されたって報告が来ることが多発してたの」


 事前知識のない響に説明する千恵、彼女の言うことが本当であれば。以前からイヴィルダーを狩るイヴィルダーは、実在していた可能性があるのだ。


「じゃあ俺たちの知らないところでイヴィルダーが狩られていて、さらにいくつものイヴィルキーを所持していることに……」


「そうなるわね」


 響を悩ませる新事実は、千恵の肯定によってより響の体に重くのしかかる。さらに千恵は「それだけじゃないわ」と続ける。


「例のフォルネウスイヴィルダーは、イヴィルキーを使う新たなシステムを構築する技術力も持っている。これは私達でもまだ出来ていないことよ」


 フォルネウスイヴィルダーが使用した謎のガントレット、それはイヴィルキーの力を引き出す謎の技術であった。そして本来イヴィルキーを研究していた学院ですら、そのような技術を開発出来ていなかったのだ。


「ねえメンダークス君、学院一の天才と言われる君なら例のシステムの類似品は開発できるかしら?」


「難しいですね桜木、私にはイヴィルキーを研究する機会が無かった。もし長時間イヴィルキーを研究できれば出来たかもしれないが……」


 千恵の質問に対してクスィパスは、否定も肯定もしなかった。

 その後三人の話し合いは流れていき、三十分後には響が所持していたモラクスとベリアルのイヴィルキーを渡して解散となった。






 家に帰った響は自室に戻ると、ベットの上に寝転がるのであった。


「俺たちや、暴れる奴でもない。第三のイヴィルダーか……」


 響はベットの上で、物憂げに呟くのであった。戦うのが嫌になったのではない、ただ家族や周囲の平和を守る戦いから、別のものになっていく予感がして、それが嫌になったのだ。

 そんな響を見て、キマリスは実体化をして響の頭を優しく撫でるのであった。


「うわ! 何するのさキマリス」


「君が悩んでいるからね、ちょっと気分転換さ」


 キマリスの柔らかい手に撫でられている内に、響の気分は落ち着いたものになっていき、眉間のシワも消えていくのであった。


「ねえ響、フォルネウスイヴィルダーの戦いに備えて、今持っているイヴィルキーの確認でもしないかい?」


「確認ねぇ、やってみるか!」


 キマリスの提案を受けて響は、ガバっと上半身を立ち上がらせる。その瞬間響とキマリスの顔の距離が、縮まるのであった。


「うわぁ」


 響との顔の距離が近づいて驚くキマリス。しかし響は、なぜキマリスが驚いたのか分かっていなかった。


「じゃあまずはキマリスだな」


〈Demon Driver!〉


 響はキマリスのイヴィルキーを取り出す、すると響の腰にベルトが巻き付く。それを確認した響はイヴィルキーを起動させて、ベルトに挿入する。


〈Kimaris!〉


「憑着」


〈Corruption!〉


 ベルトから起動音が鳴り響くと共に、ベルトの中心部が観音開きになり、そこから鎧のパーツが飛び出して響の体に装着されていく。

 全てのパーツが装着し終わると、そこにはキマリスイヴィルダーに変身した響がいた。


「キマリスイヴィルダー、僕の力を使った姿だね」


「この姿だと剣を使えるんだよな」


「響はあんまり使わないけどね!」


 キマリスは両手を腰に当てて、嫌味を言うように語尾を強くして答える。

 そんな彼女の態度を見て響は、ゴメンと言いながらも続けてキマリスイヴィルダーの特徴を言う。


「後、全体的に鎧があるから防御力もあるし、あとは四足歩行になることで機動力もあるな!」


 響が挙げたキマリスイヴィルダーの特徴を聞いて、キマリスはウンウンと嬉しそうに頷く。機嫌が良くなったキマリスを見て、響は内心ホッと安心すると次の確認に移るのであった。

 レライエのイヴィルキーを取り出した響は、キーを起動させるとベルトに挿入する。それと同時にベルトの中心部が閉まる。


〈Leraie!〉


「憑着」


〈Corruption!〉


 ベルトが起動音を鳴らすと、中心部が開いて緑のマントが現れる。緑のマントは響の体を包み込むと、レライエイヴィルダーに変身した響が現れた。


「レライエイヴィルダー、レライエの力を使う姿だね」


「この姿だと銃が使えるから便利だよな」


「天丼かい? 君あんまり使わないだろ」


 キマリスから事実を言われて、苦笑する響であった。


「まあその姿は長距離狙撃ができるから差別化はできるよね、響にできるかは知らないけど」


 キマリスはヤレヤレと肩をすくめながら、小馬鹿にしたように響に言うのであった。


「俺にだってできるはず、まあ最後だな」


 響はそう言うと、ハルファスとマルファスのイヴィルキーを取り出す。そのままイヴィルキーを起動させると、ベルトに挿入するのであった。


〈Halphas Malphas!〉


「憑着」


〈Corruption!〉


 ベルトから起動音が響くとともに、二枚の羽がベルトから現れて響を包み込む。そして中にはハルファス・マルファスイヴィルダーに変身した響がそこには居た。


「ハルファス・マルファスイヴィルダー、二体の悪魔の力が込められた姿だね」


「キマリス、一枚のキーに二人以上の悪魔の力が込めることはできるのか?」


「無理だね」


 響の質問に、キマリスは即座に断言するのであった。曰く、同一視されている悪魔は多数居ても、力のバランスが違いすぎて普通はこのような現象は起きないとのことだった。


「なるほどなー」


「この姿だと飛べたり、身動きが取りやすいから響に一番あってる姿じゃないかな?」


 キマリスはジト目で響を見ながら、そう言うのであった。

 ジト目で見られた響は、焦りながらも話題を変えようと必死に頭を回転させていた。そして一つの話題を見つけるのであった。


「そう言えばさ、デモンギュルテルの左側ってどうなってるんだ?」


 響は早口でキマリスに質問を投げかける。普段響はデモンギュルテルの右側にイヴィルキーを差し込んでいるが、ベルトの左側には一切触ったことがない。

 そのままベルトの左側を指で触ると、右側同様に何かを入れる事ができるスロットは存在している。しかしイヴィルキーを入れようとするが、規格が合わないのか入らない。


「あれ? 入らない」


 そのまま響はベルトの左側にイヴィルキーを入れようと、USBを差し込む時のように表裏を逆にしたりするが入らない。


「僕も詳しくは分からないけど、元々あったから何かを入れる部分のはずだよ」


「はあーなるほどねー」


 その後変身解除した響とキマリスは並んで座ると、ベルトの左側について一時間程語るのであった。

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