第19話 キーン、交流戦を見学する。


 魔術実技の担当教師バーレルから、交流戦の校内選抜試合に出てみないかとキーンが言われた日から、2週間と少し経った休日。


 今日は軍学校との交流戦の日だ。


 学内で1週間ほど前に3年生による交流戦選手選抜競技会が開かれており、成績順に全3種目各5名ずつ計15名の交流戦対校選手が選ばれている。実際の選手の合計人数は競技を掛け持ちする優秀な生徒がいたため、15名より少ない。



 ここは2、3年生用の訓練場。


 1年生用の訓練場は標的が置いてある射撃場にすぎない簡単なものだったが、2、3年生用の訓練場は観客席の付いた競技場、いわゆるアリーナに大型の射撃場が併設されたものだった。アリーナでは通常訓練の他、こういった対外試合なども行われる。交流戦の開催場所は二校で持ち回りで、今年の軍学校との交流戦は付属校のこのアリーナで行われる。


 キーンとクリスは今日が休日ということもあり、学校の制服ではなく普段着を着て交流戦の会場に入っていった。


 階段状になった観客席にはまだ生徒はまばらで、数人ずつのグループが仲間うちで固まっている。


 交流戦で行われる三つの競技は以下の通りだ。各競技とも両校5名ずつの選手で競われる。


1、鋼柱破壊競争:競技場に立てられた直径5センチ、高さ180センチの鋼柱を破壊する時間を競う競技。競技場には10本の鋼柱が立てられる。公平を期すため招待校側があらかじめ10本の鋼柱の中から自分たちの破壊する5本を選ぶ。

 両各校同時に最初の選手が最初の鋼柱に取り掛かり、破壊と同時に次の選手と交代するリレー方式で競われる。先に5本の鋼柱を破壊した側が勝者となる。


2、的当て競争:30メートルほど離れた縦横3メートルの正方形の標的が縦横10分割され、その中に直径30センチの円形のまとが総数100個並んでいる。その100個の的は交互に黒白に色分けされており、3分間で白的しろまとに何個ダメージを与えるか競う。

 白的しろまとは一度ダメージを受けると黒くなり黒的くろまとになる。逆に黒的がダメージを受けると白くなり、白的になる。3分後に残った白丸の数が満点の50点から引かれる。開催校が先攻となり両校選手が交互に競技に臨む。合計点の高い側が勝者となる。


3、持久走:両校5名の選手によるリレー。付属校は一辺200メートルほどの正方形の敷地を有しており、その周囲は道路で囲われている。スタート地点は競技場の真ん中で、選手はスタートしたら、競技場の開け放たれている出入口を通り正門へ向かい、そこから学校の周囲を五周した後校門を入って競技場のスタート地点に戻ってそこで待つ次の走者に交代する。先に5人が走り終わった側が勝者となる。



 どの競技も勝てば点数は1点なので、2競技勝った側が優勝となるわけだが、ここ数年3対0で付属校が圧勝を続けている。付属校の観客数の少ないのはそのせいかもしれない。


 三番目の競技の持久走は、最も盛り上がる競技であるため、そのころには観客席も埋まる可能性がある。




 キーンとクリスがアリーナの観客席に座っていたら、キーンの見たこともない制服を着た生徒たちが試合場を挟んだ向かいの観客席にどんどん増えていった。ざっと数えても100人は下らない。


「向こうにたくさんいるのが、軍学校の生徒達だよね?」


「そうみたい。うちの学校の観客はまだそんなにいないのに、向こうにはずいぶんたくさんの観客がいるのね。軍学校はうちより生徒数が少ないはずだけれど、熱心なのね」


「そうだね。自分たちの代表が試合をするわけだから、僕としては軍学校の生徒たちはちゃんとしてると思う」


「そうね。うちの学校と違って軍学校は仲間意識が強いんじゃないかしら。そろそろ試合が始まるみたいよ。試合場に向こうの選手たちが入ってきたわ」


 軍学校の選手たちはみんなお揃いの黒い上下を着て入場してきた。試合場の脇の椅子に腰を掛けて試合開始の前の両校同士のあいさつを待っている。各自がそれぞれの武器?のようなものを持参しているのだが、それが武器なのか、魔術の発動体なのかは分からない。キーンたちの座っている観客席側に付属校側の選手たちの座る椅子が並べられているため、キーンたちからは、付属校の選手は見えない。


「クリス、軍学校の選手たちは魔術を使うの?」


「攻撃魔術なんかはあまり使えないと思うわ。その代り強化系の魔術は得意だそうよ。魔術中心でない分、覚える魔術はわたしたちより少ないんじゃない」


「ふーん。そうなんだ」


「うちの実技は魔術一辺倒だけど、軍学校では魔術よりも剣術や体術の方が盛んらしいわ」


「魔術をほんとに学びたいんなら付属校うちのがっこうに来た方がいいはずだもんね」


「そういうこと。そう考えるとキーンの場合、大剣を振り回すのが大好きって言ってたから、軍学校の方が良かったかもね」


「うん。でもこっちに来てクリスと友達になれたから、この学校でよかったよ」


「きみって、平気でそんなことを本人の前で言えるのね。でもそういうところは嫌いじゃないわ」


「おかしいかな?」


「相手がわたしだから問題ないけれど、他の人に言ってたらおかしな人と思われるかもしれないわ」


「僕にはクリス以外にそういうことを言える友達はいないから心配ないな」


「フフフ」



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