第17話 付属校生活2
早い時間に学校から自宅に戻ったキーンがアイヴィーに向かって、
「午後から実技の授業だったんだけれど、もう実技の授業に出ても出なくても実技の期末試験では最高点をくれるんだって」
「それはすごいことですが、学校に入学した目的が友達を作ることだったことを考えるとちゃんと実技の授業にも出ていた方がいいんじゃないですか?」
「一応は出席するけれど、クリスともう友達になれたから、目的は達成できたと思っているよ」
「そうですね、本当の友達なら一人いれば十分かもしれませんからそれでよかったかもしれません」
その後、数日学校に通ってみたところ、
キーンにとって、午前中の座学はどの授業も全くと言っていいほど無意味なものに思えたので、教師の板書をノートに書き写すでもなく、何となく授業の終わる時間までじっと教室の一番後ろの自席でクリスと並んで座っているだけだった。
午後からの実技の時間も生徒たちの行っている内容はあまりに初歩的なため、何の参考にもならないし、自分にとっては何の足しにもならないということが分かった。
今日も午前中の座学が終わり、キーンとクリスが校庭で弁当を広げている。
「きみ、今日も授業中全然ノートをとっていないけれど、大丈夫なの?」
「どうも先生たちの言っていることが間違っているとまでは言わないけれど、僕にとってあまり役に立ちそうにないんだ」
「そうだとしても、期末試験はどうするの? いくら大賢者の
「それは困るけど、どうしたものかな?」
「ちゃんと勉強するしかないと思うわ」
「それはそうだよね」
実際キーンもどうしようかと迷っている。学校には来ているが、こうやってクリスと会話することぐらいしか意味がない。
弁当を芝生の上で食べながら、クリスの話を聞くと、この学校での三年間の座学で習うことは、魔術大学でより大規模で複雑な魔術を行使するために必要な知識と技術そして魔力量を身に着けることだという。
その大規模な魔術はどういった魔術かとクリスにたずねたところ、キーンにすれば特に苦も無くいつでも発動できる簡単な魔術だったため拍子抜けしてしまった。
そして、こちらは金髪ツインテール。メリッサ・コーレル。
キーンとクリスが連れだって、弁当を持って教室を出たことを確認し、急いで自分の弁当を食べ終えたメリッサは、何気ないふうを装って教室の後ろに歩いていった。教室の中に残った生徒はメリッサを含めても数人で、メリッサ以外の者は各自持参した弁当を食べている。
本人は気付いていないが、何も用事がなければ、出入り口の扉もない階段教室の後ろにわざわざ行くのはかなり不自然なことではある。
キーンの机の上にはキーンの筆記用具とノート、それにカバンが置いてあった。カバンは弁当を取り出してそのままにしておいたものだろう。
メリッサは素早く教室の中を見回して、教室に残った者が、前を向いて机で弁当を食べているのを確認し、キーンのカバンの中に手を入れて中身を物色した。
カバンの中に入っていたのは、数冊の教科書とノートだけだった。
『どこかに、アーティファクトを隠し持っているはずだけどいったいどこなのかしら?』
『カバンの中にないということは、身に着けているということ? 次の実技の授業でよく見ておかなくっちゃ』
カバンを元に戻して何食わぬ顔で自席に戻ったメリッサは、午後からの実技の時間のことを考えるのだった。
昼食を終えて、しばらく休憩したキーンとクリスが教室に戻り、次の実技が行われる訓練場に移動していった。
「今日からの実技は、魔術の発動速度の向上を目指していく。
正確な呪文の詠唱は魔術の基本だが、実は慣れてくると、呪文を口に出さずとも魔術を発動できるようになる。例えば簡単なライトなどの魔術は、ほとんどの者が詠唱をせずとも発動するだろ? しかし攻撃魔術などは呪文が長くなり複雑になっており呪文を省略して発動させることは容易ではない。
もちろんおまえたちも知識では知っているだろうが、アービス以外まだ誰もできないだろう」
「それでだが、高度な魔術ではどういった言葉を省略できるかは、各人で掴むしかないわけだ。
各人の魔力量の制限があるため、今日は攻撃魔術のうち最も魔力量の消費が少ないといわれているファイヤーアローで各自、呪文を省略して発動させてみろ。
ヒントとして、ファイヤーアローだと一番省略できそうな呪文部分は術の強さを表す呪文の
術名だけで発動できるようになるのが理想だ。だいたいファイヤーアローだと、1年生では2年になる前に、数人そのレベルに達する」
もちろん呪文など知らないし当然今まで呪文など唱えたことのないキーンにはバーレル先生の今の解説は理解しづらい解説だった。
そうではあるが、確かに何も考えなければ、無意識のうちにある
ちなみに、キーンは魔力量の消費と魔術の効果を考えた場合、最も効率がいいと思われる魔力消費量を基準にいわゆる
「よーし、アービス以外の生徒は
まず10人の生徒が、訓練場の先に設置された
「アービスはファイヤーアローだろうがファイヤーボールだろうが無詠唱なんだろ?」
「はい。というか、呪文を一つも覚えてないので、逆に詠唱はなにもできません」
「ああ、そうだったな。お前は別の意味でもすごいものな。まあ今は実技の授業だし、無詠唱ができるに越したことはないんだが、無詠唱ができるのと無詠唱しかできないのは、なんか違う気もするが無詠唱ができれば詠唱は不要? だよな」
「でも、術名は口にしています。そのあとに回数なんかを指定したときも」
「術名を口にするのは分かるが、回数?」
「同じ目標に対して、同じ魔術を発動するとき回数を指定するだけでその回数分魔術が発動するようにしています」
「アービス、ちょっと理解できんのだが。あっ! そうか、実物を見た先生方が驚いていたが、入学試験の時のファイアーボールはそうやってたのか。結果から見れば、アービスの言ってることは本当だとわかるが、俺にはやっぱり理解できん」
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