第346話 難民政策

 ウクライナから欧州への避難民 810万人以上 (2023年3月現在 *1)

 国内避難民          推定530万人 (2023年1月現在 *1)

 越境者            2千万人以上 (2023年4月現在 *1)


 ウクライナの人口は、2021年現在で4159万人(クリミアを除く)である(*2)。

 この為、計算上、


・欧州への避難民 約5人に1人

・国内避難民   推定約7人に1人

・越境者     約2人に1人


 となる。

 日本に居るウクライナ人難民は、2022年12月9日時点で2179人(*3)。

 この数字が多いか少ないか感じるのは、人によりけりだろう。

 しかし、難民は対応を間違えると、政治に響く。

 現に2023年7月7日、難民への対応を巡ってオランダの連立政権が崩壊した(*4)。


 トランシルバニア王国にも難民が大勢着て、入国管理局はてんてこまいだ。

 ウクライナ語に堪能な、ウクライナ系移民が多数、雇われ、難民の対応に当たっている。

 窓口では、職員が疲れ果てた子連れの女性と話している。

「どこから来ましたか?」

「ハリコフからです」

「我が国に親族や知人は居ますか?」

「居ません」

「では、その間の生活費はどうしますか?」

「どうしたらいいですか?」

「……」

 女性が閉口する間、後ろの行列は舌打ちや足踏みで無言の圧力を加える。

 全員疲労困憊であり、更にストレスが溜まっている為、感情が表に出やすい。

「身内の方がいらっしゃならなければ、寄付金で生活して下さい」

 職員が電子端末を見る。

 別の部署から、『問題無し』というメッセージが来たからだ。

「上から許可が下りた為、次は2番の窓口に行って下さい」

「……はい」

 入国が認められ、女性は安堵する。

 そして、幼子の手を引いて越境を果たした。


 窓口に許可を出したのは、情報部だ。

 難民の中には、良からぬ思想や犯罪傾向が高い人物も居る可能性がある為、厳しい審査は必要なのである。

「ウルスラ、次の集団グループ警察ポリツィヤに照会して」

「は」

 スヴェンの指示の下、ウルスラは難民を1人ずつ、ウクライナ国家警察(=警察ポリツィヤ)が照会していく。

 ウクライナは国外に逃げた危険人物の動向を把握出来るし、トランシルバニア王国は危険人物を国内に入れる前に判る。

 お互いWIN WINだ。

 その間、キーガンは城で報告していた。

「難民の多くは、リトアニア、ラトビア経由で我が国に来ています」

 隣のシャルロットが3次元3Dディスプレイを用いて説明する。

「ラトビアからは、サラツグリバ、ユルマラ、ベンツピルス、パビロスタ、リエパヤが、主な出港地点です。1週間で合わせて、8千人がここから来ました。リトアニアからはパランガ、クライペダからでこちらは合わせて2千人です」

 バルト海の北部は冬季、凍る為、難民は海が閉ざされる為に早めに出国したい所だ。

 航空機もあるが、船と比べると割高であり、ほぼ着の身着のままで脱出した難民には、難しい選択肢である。

「思想調査、犯罪歴の有無などは、厳格にな?」

「摂政が先んじて現場に指示を出しています」

 難民が全員、善良とは限らない。

 エルサルバドル内戦(1980~1992年)でアメリカに来たエルサルバドル人の難民孤児が集まって犯罪組織化した例がある。

 このような事例があると、難民受入に消極的になるのは、当然の話だ。

 朝からテキパキと仕事をこなす夫にオリビアは、満足していた。

「……♡」

 ライカ、ミア、ヨナ、レベッカと共に煉のベッドに潜り込んでは、毛布をクンカクンカしている。

 絶対王政にも関わらず仕事をしない女王と、名ばかりにも関わらず仕事熱心な王配の朝の日常であった。


[参考文献・出典]

*1:国連難民高等弁務官事務所 HP

*2:ウクライナ国家統計局

*3:nippon.com 2022年12月16日

*4:ロイター 2023年7月10日

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る