第313話 灰被り姫と母
令和4(2022)年9月4日(日曜日)。
9月という事で、進路も本格的に絞る必要がある時期だろう。
煉の下には、複数の学校から招待状が届いていた。
・
・
・
・
・英陸軍
・
・空軍士官学校(仏)
・
・
・連邦軍指揮幕僚大学校(独)
・
そして世界最強の国であるアメリカからは、
・
特徴:・アメリカ最古の士官学校(1802年)
:・研究用原子炉やスキー場等がある、世界最大級の敷地を持つ学校
・
特徴:宇宙飛行士等が卒業生
・空軍士官学校
特徴:卒業後、宇宙軍少尉等の階級が与えられる
と、三大名門校から来ていた。
通いやすさで言えば防衛大学が近距離であり、次にブルネイに在る英陸軍密林戦闘訓練学校が最有力候補に挙がるだろう。
然し、進路というものは距離ではなく、「そこで何を学ぶか」だ。
それにもう一つ問題なのが、
(……身分だよなぁ)
ミアを抱っこしつつ、熟考する。
王配は広義では王族の為、王侯貴族が通う名門校に通うのが、慣例だ。
招待状を送って来た学校の中でその適当が、サンドハーストだ。
その
・
例:ギリシャ、スペイン、ヨルダン、リヒテンシュタイン、ブルネイ
・首長
例:カタール
・大統領
例:ボツワナ
……
これだけの面子を見れば、どれくらい王侯貴族に免疫があるか分かるだろう。
もう一つの問題は、オリビアだ。
戴冠式前だが、
現在は、高校3年生の残り短い時期なので、世間も甘々だが、数年間、進学で国を離れるのは流石に「祖国を軽視している」と見られても可笑しくは無い。
そういった事から、現実問題、トランシルヴァニア王国の大学しか選択肢は無いだろう。
「悩ミ事?」
「そうだよ」
「ジャー、
ミアは膝から降りて背中に回り込む。
「ん?」
煉が首を傾げていると、ミアはその肩を揉み始めた。
巫女の力が働いているのか、直ぐにその効果が表れ、癒されていく。
「……」
「効ータ?」
「うん。有難う」
「ヨカッタ♡」
満足気に首肯後、ミアは膝に乗り、煉の肩に腕を回す。
「本土ノ、人間、真面目過ギ。モー少シ、楽ニ生キル」
税金等が無い喜びの島では、楽天的な
寝たい時に寝て、食べたい時に寝る。
いつも時間に追われている多くの人々には、羨ましい生き方だろう。
「そうだな。ミアの言う通りだよ」
「パパ~」
風呂上りのシャロンが隣に座る。
「進路決まった?」
「いいや。まだ考えてる」
「オリビアは、王立大学を御所望みたいよ」
「……やっぱり?」
「うん」
「王立大学かぁ」
招待状の中を漁り、見付ける。
王立大学は、トランシルヴァニア王国の首都に在る大学だ。
日本で言う所の東京大学の様な物である。
それで王侯貴族も受け入れている為、オリビアが望むのは、無理無い話であった。
公務を終えたオリビアがライカと共に来る。
「勇者様、御風呂入りま――あれ? それは?」
「王立大学だよ。ここ、希望なんだろ?」
「はい。ただ、勇者様と相談してから決定しようかと―――」
「配慮は不要だ。王配は、陛下に従うまでだから」
「良いんですの?」
「良いよ。問題は司だな。王立大学に医学部は?」
「あるよ」
「なら、説得出来そうだ」
その後、司を呼んで、その事を話すと彼女は快諾し、北大路家の学生は、全員、王立大学進学が決定した。
その日の夜。
煉のベッドの上で、
「引っ越しかぁ」
皐月は、呟く。
「嫌?」
「まぁ、ね」
腕の中の皐月は、微妙な反応だ。
折角、新しい病院を建設中なのに、一家でトランシルヴァニア王国に移住するとなると、建設費用が勿体ないし、何より地域に人気のある病院が無くなるのである。
子供達と分かれて自分1人だけ残るのも選択肢としては出来なくは無いが、皐月は、煉と離れたくは無かった。
だからこうして、積極的に愛を育んでいる訳である。
煉の胸元に顎を擦り付ける。
「……まぁ、煉の頼みだしね。仕方ないか」
「御免ね。俺達の
「しょうがないよ。王配なんだし」
今夏、トランシルヴァニア王国で皐月が見たのは、煉の人気っぷりであった。
何処でも話しかけられ、握手され、サインや写真も求められる。
まるでハリウッドスターだ。
人気商売という訳ではないが、煉は極力、断らず、愛想を振りまいている。
全てオリビアの為に。
「司は?」
「楽しんでいるよ。『お姫様になった』って」
「……そうなるな」
煉は苦笑いで頬を掻く。
トランシルヴァニア王国では、オリビアが正室。
司達は、側室の肩書だ。
当然、生活費は、王室から出て、煌びやかな生活が送れる。
社交界デビューも果たす事が出来、世界各国の王侯貴族とも交流する機会を得られる。
『シンデレラ』を観て、憧れを抱く女性には、まさに夢のような世界だろう。
「ま、病院の事は、医師会と相談するわ。多分、すんなりと引き継がれていくだろうけども」
「そうなのか?」
「私が抜ければ、ここ一帯の収益がガッポリだからね。離島や地方だと、上手くいかないかもしれないけれど」
「……1番困るのは、患者だね?」
「そうだね。でも、私達が側室と
患者や地域住民から親しまれている皐月・司の母娘が王室に入るのだ。
喜ばれない訳が無い。
皐月は、その細く筋肉質な胸を艶やかに触る。
「貴方が連れ帰った
「というと?」
「健康体よ。過去の病歴が見受けられない。先進的な医療が無い島の事だから、『何か一つ重病はあるかも?』って思ったのだけれども、まさか当てが外れるとはね」
「……特異体質?」
「多分そうかも。まぁ、研究する気は更々無いけどね」
研究するには、被験者の同意が必要不可欠だ。
皐月は、医者であって研究者ではない。
煉を研究しないのもその為だ。
「研究によっては、感染症等の予防に役立つかもね」
「でも、それは―――」
「そうよ。争奪戦になる可能性がある」
煉に跨り、皐月は彼の顎を両手で挟んだ。
「『念には念を入れよ』で国家機密に指定した方が良いわよ」
「分かってるよ」
新型ウィルスで600万人以上もの死者(*1)が出た事を見ると、今後、世界は感染症予防に重点を置く筈だろう。
皐月は、煉の手を握り、覆い被さる。
「でも、今晩は、私だけを見てね?」
「分かってるよ」
2人は電気を消した。
[参考文献・出典]
*1:ジョンズ・ホプキンズ大学(米)の発表 時事通信 2022年3月7日
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