第259話 平穏

 ブラウンシュヴァイクという地名の出自は、ドイツの低地ニーダーザクセン州にある都市の一つだ。

 人口24万8561人(2020年大晦日現在 *1)=静岡県富士市の24万8399人(2021年11月1日現在法定人口 *1)

 面積192・13㎢(*1)は、新潟県阿賀野市(192・7㎢ *1)と同規模である。

 このブランシュヴァイクの旧称「ブルンズウィク」の英語発音である、「ブランズウィック」は、世界中に存在する。


 例

 アメリカ

・インディアナ州ニューブランズウィック市

・ニュージャージー州ニューブランズウィック市

・オハイオ州ブランズウィック市

・ジョージア州ブランズウィック市

・ノースカロライナ州ブランズウィック郡

・バージニア州ブランズウィック郡

・メイン州ブランズウィック町

 イギリス

・ブランズウィック (ブライトン・アンド・ホヴ)

 オーストラリア

・メルボルン市ブランズウィック

 スロベニア

・シュタイエルス地方ブルンスウィク

 チリ

・ブルンスウィック半島

「新ブラウンシュヴァイク」を意味する地名もある。

 カナダ

ニューブランズウィック州

 

 これは、ドイツのブランシュヴァイクを治めていたブラウンシュヴァイク=リューネブルク家がハノーヴァー朝(英の王朝。1714~1901)の出自であるからだ(*1)。

 その為、トランシルヴァニア王国にも同じ地名が存在している。

「……大都市だな」

 帰国前に立ち寄ったブランシュヴァイクに煉は、驚く。

 港湾都市なのだが、兎に角、人口が多い。

 昼間にも関わらず、多くの人々が行き来している。

 油田の企業も多数、事務所オフィスを置いており、七姉妹セブン・シスターズの看板も見受けられる。

 領事館や国際学校インターナショナル・スクールもそこかしこにある。

 オリビアが自慢げに胸を張る。

「北欧一の巨大都市メガシティですから」

 巨大都市メガシティは、人口1千万人以上の都市、或いは都市圏を指す事が多い。

 

【世界巨大都市人口ランキング】

 1位、東京       3530万3778人(日本)

 2位、ジャカルタ    3120万人(インドネシア)

 3位、デリー      2850万人(インド)

 4位、ソウル~仁川インチョン   2596万人(韓国)

 5位、ムンバイ     2364万5千人(インド)

 6位、マニラ      2293万人(フィリピン)

 7位、上海       2212万5千人

 8位、ニューヨーク   2104万5千人(アメリカ)

 9位、サンパウロ    2093万5千人(ブラジル)

 10位、メキシコシティ 2039万5千人(メキシコ)

 ……

 15位、大阪~神戸~京都 1715万人(日本)

 ……

 41位、名古屋    1024万人(日本)(*2)

 

 となっている。

 対照的に、北欧諸国は、基本的に人口が少ない。

 北欧理事会を構成する5か国の人口は、以下の通り。

 フィンランド→554万1千人(2020年 *3)

 アイスランド→34万1千人 (2020年 *3)

 ノルウェー →536万7580人(2021年元日 *4)

 スウェーデン→1035万3442人(2020年 *5)

 1番多いスウェーデンが唯一、1千万人を有しているが、名古屋と比べるとどうしても小規模になってしまう。

 それ程、名古屋は、巨大都市なのだ。

 北欧諸国が人口が少ないのは、「高い税金で、それなりの月収が無いと生活出来ない為」と思われる。

 一方、トランシルヴァニア王国は北海油田の恩恵で、税金は無い。

・医療費

・教育費

 等が全て無料なのだ。

 その為、生活し易く、又、一夫多妻、一妻多夫が認められる土壌もあって、人口が増加し易い。

 ブランシュヴァイクの人口は、1千万人。

 フィンランドとノルウェーの総人口を合わせた位の規模だ。

 ライカが、言い難そうに口を開く。

「少佐、市長が個人崇拝の計画を持ち掛けていますが?」

「不要だ。もし、実行するなら、罷免リコールする」

「は」

 個人崇拝は、独裁者の象徴シンボルの一つだ。

 創始者はスターリンで、以降、多くの共産圏でそれが採用されている。

 煉は偶像崇拝には、敬意を払えても、個人崇拝には違和感しか無い為、否定的だ。

「市長は、勇者様の熱心な支持者ですので、悪気は無いのですが」

「オリビア、擁護したい気持ちは分からないではないが、そういう話は俺に最初、持ち掛けて、計画するのが筋だ」

 オリビアの肩を抱き寄せて、煉は諭す。

「それならば、まだ理解出来る話だ。許可は出さんがな」

「厳しい……」

「崇拝は、聖人の管轄だ。俺には向かんよ」

 改めて否定的な立場を明らかにした後、煉は、旗を見上げた。

 上から黒、白、赤の三色旗である。

 北ドイツ連邦(1867~1871)からドイツ帝国(1871~1918)、ナチス政権の初期(1933~1935)に採用されていた物だ。

 ドイツでは反扇動法の下、鉤十字ハーケンクロイツが公的で使用出来ない為、極右派は代替策としてこの三色旗を使用する場合がある。

 その為、ドイツではこの旗も極右派の象徴として見なされる事があり、ブレーメン州では、この旗も2020年9月、使用禁止となった(*1)。

 そんな旗が市旗に採用されているのは、やはり、ドイツ系住民が多いからだろう。

 多くのドイツ系住民の先祖は、帝政期に移民して来た。

 そして彼等は、ナチスの横暴にも反旗を翻した。

 1926年、ツェツィーリエンホーフ宮殿でヒトラーは、最後のドイツ皇太子、ヴィルヘルム・フォン・プロイセン (1882~1951)と会談した際、ヒトラーが帝政復活を約束した(*1)為、王党派は期待した。

 然し、1934年、長いナイフの夜でヴィルヘルムの友人であるクルト・フォン・シュライヒャー(1882~1934)が粛清され、更にヴィルヘルムの側近も逮捕された事から、ヴィルヘルムとヒトラーの関係は悪化(*1)。

 その後、ヴィルヘルムは、反ヒトラー派の中の王党派の勢力に接近し、彼の失脚後、復位する事を望んでいた。

 結局、ナチス政権崩壊後、ドイツに帝政が復活する事は無かったが、このナチス政権下では、多くの反ヒトラーの王党派がブランシュヴァイクに渡り、ここを拠点に、7月20日事件(1944年)等と言ったヒトラー暗殺計画を練った。

 その為、この場所は、王党派所縁ゆかりの地であると共に、反ナチス派の聖地の様な存在である。

 ドイツ本国では、極右派が三色旗を悪用しているが、ここでは、あくまでも帝政期を懐かしむ為の旗だ。

 ここに何にも政治的な意図は存在しない。

 飛行機の時間が迫っている為、長居は出来ないが、買物が出来ない訳ではない。

 葬儀で来たが、御土産が無いのは、流石に忍びない。

 妻の多くは理解しているが、退行状態にあるレベッカは、期待している筈だ。

 彼女の為にも少し位、買わなければならないだろう。

 左腕にオリビア、右腕に皐月を侍らせた煉は、BIG4とライカを連れて歩き出すのであった。


 煉がブランシュヴァイク公なのは、市民も知っている。

 領民から評判の良い貴族が、地元の地名を冠にした公爵なのだ。

 知らない方が、恥であろう。

 オリビアやBIG4を引き連れて歩くその様は、まさに大貴族だ。

 市民は、不敬にならない程度に見て、囁き合う。

「(若いな。確か10代らしいが?)」

「(日系人で外交官らしいわよ。然も、駐在武官)」

「(あれが陛下がお気に入りの少佐か。スコルツェニーの様な風貌だな)」

 視線を感じつつ、煉は土産屋の前で止まる。

「ライカ、これって?」

「ワッフルですね」

「ベルギーの?」

「はい」

 ドイツ系の街でベルギーの御菓子は違和感が禁じ得ないが、日本でも外国料理の飲食店がある為、それと同じ事だろう。

「レベッカ、喜ぶかな?」

「煉は、いつもレベッカ想いね」

 皐月は、苦笑いすると、財布を取り出した。

「じゃあ、全員分の買おう」

 家長・皐月の後押しの下、御土産は、ワッフルに決まった。

 一行は入ると、安価な物から高価な物まで100種類程の品揃えが。

「勇者様の分も選んで来ます」

「有難う」

「私も選ぶわ」

 オリビアはライカ、皐月と共に吟味していく。

 残ったBIG4と煉は、近くにあったベンチに座った。

 席順は、

 キーガン:エマ:煉:チェルシー:フェリシア

 である。

「「「「……」」」」

 BIG4の空気は、ジョン・ミノック(1941~1983)が持つ635㎏並に重い(*1)。

 その理由は、やはり、キーガンとフェリシアの距離だ。

 キーガンは何も悪く無いのだが、どうしても犯人の同郷という事で、触れ難くなっている。

 フェリシアもそれは、分かっているが、心理的には、まだ抵抗がある。

 チェルシーとエマは、どちらにもつかず静観の立場だ。

 心情的には、フェリシアに寄り添っているが、それを表にすると、アイルランド系の強硬派からは、白眼視される恐れがある。

 なので、立場上、難しいのだろう。

「……チェルシー、エマ」

「「! はい?」」

 突如、煉に呼ばれ、2人は、驚く。

 煉は、左右の2人を抱き寄せる。

「済まんな。今回、殆ど一緒に居れずに」

「いえいえ」

「久々に帰郷出来たので」

 2人は、新婚なのに放置された寂しさを表に出さず、気を遣う。

「買わなくていいのか?」

「今は、一緒に居たいので♡」

「です♡」

 笑顔で2人は、煉と密着する。

 経済力のある人々は、複婚ふくこんに躊躇いが無い為、多妻(或いは、多夫)は、珍しくは無い。

 権威を見せ付けたい王侯貴族には、ほぼ慣例化している為、市民も見慣れてる光景だ。

 店員や客は全員、見て見ぬふり。

 一夫一妻制の国の記者がこれを誤認して、不倫の記事を書いて、大恥をかいた事もある程、一夫一妻を婚姻制にしている国の人々には、異常な光景に見えるだろう。

「「……」」

 フェリシア、キーガンはそわそわとしていた。

 目の前で、恋敵が公然と愛されているのだ。

 不安にならない訳が無い。

「「……」」 

 2人も又、にじり寄る。

 長い腕で煉は、2人も又、抱き寄せる。

「「!」」

 左腕で2人、右腕でも2人。

 敢えて、膝に乗せないのは、公衆の面前で慮っているのか。

 それとも、帰って来たオリビアの為に空けているのかは、定かではない。

「立場上、君達は、正室には、出来ない」

「「「「はい」」」」

 四つ子の様な同時な返しだ。

「でも、幸せは、平等だ。そこは約束する」

 結婚(或いは、婚約)した以上、妻(或いは、婚約者)を幸せにするのが、夫の務めだ。

「改めて、宜しくな?」

「「「「……はい♡」」」」

 4人の声が重なった時、ライカが大量のワッフルを詰め込んだ段ボールを抱えるのが見えたのであった。


[参考文献・出典]

 *1:ウィキペディア

 *2::Demographia (2019年4月)

 *3:国連 

 *4: Statistics Norway

 *5:世界銀行

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