第218話 Turning point

 国民投票後、オホーツク海には、ロシア海軍が。

 尖閣諸島沖合には、多数の人民解放軍が集まり、威圧的に航行する。

 韓国も竹島を海軍が固め、日本は三方を囲まれた。

 これに対し、カミラは激怒し、同盟国・韓国に対し、撤兵を要求。

 左派系の大統領から右派系の大統領に代わっていた韓国は、これを突っね、逆に在韓米軍撤退を主張。

 米韓対立である。

 日本でもそのニュースは、大きく報じられていた。

『―――在韓米軍が撤退する可能性はあるのでしょうか?』

『アメリカがそれをそのまま受け入れるか分かりません。ですが、在韓米軍が撤退した場合、朝鮮戦争が再戦し、朝鮮半島は戦場と化す可能性が高いです』

 映像がスタジオからソウルに切り替わる。

 星条旗を掲げた親米派と太極旗テグッキを掲げた反米派のデモ隊が衝突していた。

 釜山アメリカ文化院放火事件プサン・ミグンムヌァウォン・パンファ・サコン(1982年3月18日 死者1 負傷者3)等に代表されるように、韓国では、反米勢力が存在する。

 戦後、日本ではこのような事件は少ない。

 あっても昭和35(1960)年6月10日に起きた安保反対派による、来日したホワイトハウス報道官、ジェームズ・ハガティー包囲事件くらいだろう。

 この事件により、アイゼンハワー来日が中止となった。

 その後、昭和39(1964)年には、エドウィン・ライシャワー駐日大使襲撃事件が起きているが、この事件の犯人は、統合失調症で入院歴のある19歳の少年(*1)であった為、「反米派」とは言い難い。

 このようなことから、日本の反米派よりも韓国の反米派は行動的、と言えるだろう。

 又、韓国の場合は、徴兵制が敷かれている為、素人ではない。

 その為、武力衝突すれば、警察側も大きな被害を生むかもしれない。

 又、今は、SNSの時代だ。

 光州事件クァンジュ・サゴン(1980年5月18~27日 死者154人 負傷者3028人)の時は、情報統制出来たが、ARDドイツ公共放送東京在住特派員であるドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーターの活躍により、世界に報じられ、1987年の6月民主抗争ユウォル・ミンジュ・ハンジェンの足掛かりとなった。

 日本人の若い世代のイメージだと、韓流が韓国のイメージだろうが、日本がバブルを謳歌している頃まで、韓国はバリバリの軍政だったのである。

敬礼キョンネ!』

忠誠チュンソン!』

必勝ピルスン!』

団結タンギョル!』

 と韓国ドラマの軍隊でよく聞く言葉が飛び交う。

 中には、蝋燭を持つデモ隊も居る。

 韓国は、アメリカ同様、分断されていた。


 韓国全土で両派の対立が深まり、日本の外務省も海外安全HPを更新。

 韓国全土を真っ白から、レベル1(=十分注意して下さい)を素っ飛ばして、レベル2(=不要不急の渡航は止めて下さい)に引き上げる。

 最高がレベル4(=退避勧告)なので、その半分ではあるが、それでも危険である事は変わりない。

 折しも、時はゴールデンウィーク。

 旅行会社には、続々と韓国旅行の解約が相次ぎ、旅行会社も自発的に韓国ツアーを中止させる。

 SNSでは、日韓の定期便も無くなるという噂が流布し、韓国を旅行中の日本人の多くは先を争って、帰国の航空券、或いは船便の搭乗券を買い求めた。

『―――こちらは、下関です。釜山港と繋ぐ定期船からは、多くの帰国者で満席となっており、増便も検討されているようです』

 国営放送のアナウンサーが、生中継で報じている。

『SNSでの噂は、航空会社、船会社ともに否定していますが、帰国希望者は後を絶ちません。これに対し、韓国側は日本政府に対し、火消しを求めていますが、日本政府は今の所、何の動きを見せていません』

 俺は、そのニュースを熱海のホテルで観ていた。 

「大変だな。向こうは」

 ライカがソーセージをかじりつつ、尋ねる。

「そういえば少佐は、在韓米軍で働いた事は?」

「無いよ。韓国自体に入った事が無い。前世の頃、ずーっと軍政だったし」

 前世から韓国とは接点が無い為、未だに行った事が無い土地だ。

 仕事関係者にも韓国との接点を持つ者は少ない。

 韓国料理を食べることがあっても、行く機会は旅行でしかないだろう。

「おいちゃん!」

「熱い?」

「うん」

 味噌汁を差し出され、俺は吐息で冷ます。

 昨晩はソファで寝た為、寝不足気味だが、レベッカは超元気だ。

 朝からこのようにハイテンションである。

 俺がレベッカの世話をする間、シャルロットは、自分の時間を謳歌していた。

「このジャム、美味しい」

「シャルロット、付けすぎじゃない?」

 オリビアの苦言も上の空になるくらい、フランスパンにべったり、ブルーベリージャムを塗りたくって食べている。

 カロリーが心配だが、チート・デーと考えたら、この日くらいは、別に良いかもしれない。

 シャロンはシャロンで、大きなピザをスヴェンと一緒に摂っていた。

「今日はどうする?」

「師匠と混浴する予定です♡」

 スヴェンの戯言ざれごとはおいといて、俺は次に皐月、司の母娘に視線を移す。

「お母さん、この焼き魚、美味しいよ」

「うん……」

 司が色んな料理を勧めても、皐月のテンションが低い。

 昨晩、期待していたのに、酒を少量しか飲めなかった為、それを思い出し、テンションに影響しているのだろう。

「……済まんが、ライカ。レベッカを頼む」

「はい?」

 レベッカから離れると、俺は皐月の下へ行く。

「? 煉?」

「愛してるからこそだよ」

 そして、皐月の顔を両手で挟み、熱烈なキスをお見舞いする。

「! ……♡」

 驚いた皐月だが、直ぐに受け入れた。

 俺達は、朝から濃厚なキスを数分間した後、名残惜しそうに離れる。

 世界一長いキスの世界記録は、2013年の2月14日バレンタインデーに合わせて行われていた『世界一長いキス競技会』(開催地:タイ、パタヤ)でタイ人夫婦が記録した58時間35分58秒(*2)だ。

 因みにその前の記録の50時間25分1秒。

 8時間10分57秒上回っている。

 まず、2日以上キスし合った後、更に10時間、続けるのは、五輪の選手であっても体力的、精神的に難しいだろう。

 尤も、俺達は、それを超える自信があるくらい、熱々だ。

 恥ずかしそうに、皐月が問う。

「何? 心配してくれてるの?」

「そうだよ」

「……生意気♡」

 俺の鼻を指で弾くと、皐月は隣に座らせ、がっつり腕を掴んでは離れない。

「あー……」

 レベッカが悲しそうな顔をした。

「昨日は、彼女も抱いたの?」

「まさか。初夜は正式に籍を入れた後」

「事実婚の私とも肉体関係にあるのに」

「うるさい」

 皐月を抱き寄せて、キスで言論封殺。

「あー!」

 レベッカの叫びが、朝のホテルを包むのであった。


 朝、私は1人、個室にこもっていた。

「……」

 ベッドから起き上がれない。

 昨晩、散々、抱かれ、足腰が立たない。

(少佐は、鬼……)

 日課である礼拝の為に起きたいなのだが、体は鉛のように重い。

 事前に耐え得るよう、薬を飲むなり、訓練を積んで体力作りに励む等、頑張ったのだが、少佐は、それ以上に性欲お化け且つ体力モンスターだ。

 アフガニスタンで戦っていただけあって、体力があるのは分かっていたが、まさかこれほどとは思わなかった。

 壁越しに食堂の方から、賑やかな声がする。

 少佐の妻達もまた、凄い体力の持ち主だ。

 特に前世で実子だったシャロンは、父親譲りなのか、どれだけ抱かれても翌朝には、ケロッとしている。

 ライバル視しているスヴェンはどうなのだろうか。

 聞き耳を立てていると、声がしない。

 若しかすると、彼女も個室で倒れているのだろう。

(喉が渇いたな)

 その時、時機タイミング良く、チャイムが鳴った。

『ウルスラ、大丈夫か?』

 上官なのだから、無許可で入って来ても良い気がするのだが。

 それでも配慮してくれるのは、有難い。

 親衛隊からも評判が良いのは、そういう所だろう。

「……はい」

 か細い声で返事をすると、

『……入るぞ?』

 一言断りを入れた後、親鍵マスターキーを使って入って来る。

 体調不良、と思われたのかもしれない。

「……」

 少佐は、シーラ、ナタリー、エレーナを連れていた。

 それぞれ、エレーナをおんぶし、シーラは左手を握り、ナタリーは右隣に居る。

 ちょっと嫉妬するが、来てくれたのは嬉しい。

 こういう平等性は、真のイスラム教徒と言えるだろう。

「大丈夫か?」

 ベッドに腰掛ける。

 シーラが膝に乗っても、少佐は文句を言わない。

「……」

 私は、痛む体を我慢し、左側に座る。

 それからしなだれかかった。

「……」

 何も言わずに少佐は、私の頭を撫でる。

「可愛い♡」

 エレーナも私を抱き締める。

 2人は、若しかしたら、私がマリッジブルーに陥っている可能性を考えているのかもしれない。

「ウルスラ」

「はい?」

「愛してるからな?」

「……知ってますよ」

 痛みが幸福感で満たされていく。

 少佐には、差別意識が何一つ無いから安心出来る。

 相手が処女でなくても、異教徒でも、関係が無い。

(この人の唯一の不満は、改宗してくれないことかな)

 私は、少佐の頬にキスをし、愛を上書きするのであった。


[参考文献・出典]

 *1:参議院会議録情報第46回国会予算委員会第18号 発言番号303 参議院

 *2:AFP 2013年2月15日

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